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処刑台の少女 ①

長くなりましたが、やっとプロローグにつながります

 エミリアはいつも通り書類の確認を行っていた…


 最近は書類が増えた。

 原因は大体クロエである。


「コーヒーロースター?」


 エミリアは首を傾げた。


「はい!」


 クロエが元気よく手を挙げる。


「この間、えいが?のお話を聞いた時に興味が出まして!」

「……豆も見つかっていないのに?」

「作るのは先でも問題ありませんので!」

「それは分かるわ」


 エミリアは頷いた。

 クロエならそういうこともある。

 存在しない物のために設備を作る。

 今さらだった。

 問題はそこではない。





 エミリアは報告書を一枚めくる。

 そして固まった。


「……クロエ」

「はい!」

「何故ついでにこんなものを作ったの?」


 クロエは不思議そうに首を傾げた。


「えいが?のお話の後に出てきたじゃないですか」


 エミリアは記憶を辿る。

 確かに話した。

 話した気がする。

 だが。


「……確かに話したわね」

「はい!」

「でも」


 エミリアは報告書とクロエを交互に見た。


「同じドラム式だからって」

「これを作るの?」

「作れそうでしたので!」


 満面の笑みだった。

 悪意はない。

 本当にない。

 だから困る。


 エミリアは書類を机へ置いた。

 理解を放棄する。

 クロエの発明品に理屈を求めるのは今さらだった。


「ちなみに」

「はい!」

「危険ではないのでしょうね?」


 クロエは胸を張った。


「試作品ですので殺傷能力はありません!」


 エミリアは静かに顔を覆った。

 その台詞で安心できたことは。

 一度もなかった。





 そして、蓮がこの世界へ転生してから二ヶ月。

 ローゼンバーグ王国は大きく変わり始めていた。


 執務室。

 エミリアは報告書へ目を通していた。


「焼却炉は順調、と」


 ごみ処理用として設置された新型焼却炉。

 今のところ問題は無い。

 問題があるとすれば。

 設計者がクロエであることくらいだ。


「また何か作ってそうなのよね……」


 エミリアは小さく呟く。

 最近のクロエは忙しい。


 魔科学。

 上下水道。

 新型魔導具。

 研究開発。

 発明。

 発明。

 発明。

 そして発明。


 もはや誰も止められなかった。





 エミリアは窓の外を見る。

 少しずつ整備されていく王都。

 人通りも増えた。

 活気も戻ってきた。


「そういえば」


 ふと思い出す。


「この前歩いた時」

「ヒールが歩きづらかったのよね」


 道路整備も必要かもしれない。

 もちろん。

 物流効率化。

 荷車輸送の改善。

 街の発展。

 そういう理由もある。

 あるのだが。


「まず私が歩きやすくならないと」


 エミリアは真顔で頷いた。

 悪の美学である。





 その時だった。

 コンコン。

 扉が叩かれる。


「入りなさい」

「失礼します」


 入ってきたのはルミだった。

 珍しく。

 少しだけ困ったような顔をしている。


「どうしたの?」

「少々ご相談が」


 エミリアは書類を閉じた。

 ルミが相談を持ち込むのは珍しい。


「実は」

「エミリア様を転生させる以前に」

「私がこの王国へ転生させた日本人がおります」


 エミリアの眉が上がる。


「へぇ」


 少し面白そうだ。


「それで?」


 ルミは言いづらそうに続けた。


「少々」

「厄介なことになっておりまして……」


 ごにょごにょ。

 ごしょごしょ。

 事情説明。


 数分後。

 エミリアは静かに微笑んだ。


「なるほど」


 そして。

 ニコリと笑う。


「欲しいわね」


 ルミが嫌な予感を覚える。


「その才能」


 やっぱりである。


「それに」


 エミリアは頬へ手を添えた。


「ちょうど最近」

「肌のメンテナンスとか気になっていたのよね」


 ルミは天を仰いだ。

 目の前の女王は。

 また人材確保を始める気らしい。


 こうして。

 後に【慈愛の白薔薇】と呼ばれる人物との出会いが始まる。


 その頃。

 当の本人は。

 処刑台の上で人生最大の危機を迎えていることなど。

 知る由もなかった。



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