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ステージ9『闇』(99話)

当然、


「何の音だいッ」


掴んでいた子供の腕はそのままに、ママは音のした方へ振り返る。テーブルマナー完全無視の雑音。

そこで目にしたものは、ママと子供たちを驚愕させる光景だった。


「やっぱり、手で食べた方が美味しいよねぇ~」


そう言いながら、ゼノはカップに口をつけて豪快にスープ飲みながら、お皿の上の料理を手で鷲掴み状態で食べる。

マナーどころの話ではなく、ほぼ野生児。


「ゼノ! なんてことしてんだいッ」


怒りの矛先がゼノに向かい、ママは掴んでいた子供の手を豪快に放す。突然腕を放され、子供は床に落ちたが、震えは止まらない。

それに、全員の視線がゼノに釘付けになる。


「だって、フォークとかナイフとか、めんどくさいよぉ」

「そんなことしてどうなるかわかってんだろうねッ」

「えっ? ……いたっ、ッ」


完全に怒り心頭のママは、ゼノの腕を力任せにねじ上げた。怒りに任せてねじ上げられた腕が痛みを訴え、ゼノが苦痛に顔を歪ませた。


「きつ~い、教育が必要みたいだね、お前には」


顔を真っ赤に染めたママは、ゼノを睨みつけたまま、さらに力を込めてねじ上げる。


「痛いってばぁ~」

「もっと痛くしないとお前にはわからないだろう」

「ご飯は楽しく食べるんだよ」

「煩いよっ! 食事は静かに食べるもんだよ」


反論したゼノに、ママの怒りはさらに上がる。

そして、力任せに腕を持たれたゼノは椅子から引きずり降ろされ、床を引きずられるように引っ張られる。


「こっちにきな! 再教育してやるよ」


そう言いながら、ズカズカと部屋を出ていくママとゼノだったが、床を引きずられて部屋を出ていくゼノが食堂にいる子供たちに、小さく手を振る。

その顔は『大丈夫』だと伝えていた。

バタンと激しい音を立てて扉が締められると、食堂内は怖いほど静まり返る。

息をする音さえも聞こえてきそうなほど静かになった食堂で、イルアが小さくテーブルを叩く。


「なんでだ……」


明らかにゼノは怒りを買った子供を庇って連れていかれた。どんな仕打ちを受けるかもわかっていて。

自らママの怒りを買うような、そんな恐ろしいことなんてできやしない。全身に血が滲むような痕が残るほどの躾や、指を切り落とすこともなんとも思っていないママだから、誰もが怯えて礼儀正しく生活してきた。それなのに、全部わかっていて名前も知らないような子供の身代わりになった。

イルアはなんであんな真似したのか、ゼノの身を案じながらも唇を深く噛み締めた。

きっとゼノが部屋に戻されたときは、見るに見かねない姿になって戻ってくるか、もう二度と戻ってこないか、二択しか残されていないと知っていたから。

重たく、苦い空気を全身に感じながらも、皆、ママが戻ってきたときに何事もなかったように振舞うため、食事を進めるしかなかった。






「少しは思い知ったかい!」


仕置き部屋と呼ばれる部屋に連れていかれたゼノは、天井から鎖で吊るされ、鞭や棒で散々叩かれ痛めつけられた。

体中に青紫の痣が無数につき、口腔が切れたのか、唇の端からもわずかに血が滲んでいた。それでもゼノはじっとママを見て、反省の色は決して見せなかった。


「間違ってるよ」

「まだ口答えするのかい」



── バシッ ビシッ ──



ゼノが何かを口にするたび、激しい音を立てて鞭が飛ぶ。


「──ッ……、おばさんの癖にぃ……いッぅ……」

「なんだって──ッ! もう一回言ってみな」

「おばさんって言ったの!」


逆鱗に触れるような発言を繰り返し、ゼノは無抵抗で叩かれる。それでもゼノは止めない。鞭が容赦なくゼノの顔から足の先まで打たれる。

どこが痛いのかなんてわからないくらい、全身が悲鳴をあげていたが、ゼノはそれでもママに屈することはなかった。

どれくらいの時間が過ぎたのだろう、感覚さえも鈍くなってきたころ、不意にママが時計をみて焦りをみせる。


「もうこんな時間じゃないか」


手にしていた鞭を床に捨て、まるでゼノに興味がなくなったかのように、ママは急いで部屋を出ていこうとする。何か約束でもあるのだろうか、ママは大急ぎでどこかへ向かう。

部屋を出るときにしっかりとゼノに伝言を残して。


「明日の朝まで時間をやるから、しっかり考えなっ」


それだけ言い残して、ママはドアを強く締めて大急ぎでどこかへ走っていった。

ズタボロになって部屋に残されたゼノは、ようやく苦痛と痛みから解放され、わずかにほっと肩を下ろす。

朝までということは、今日はもうここへはこない。そう思うとゼノは少しだけ安堵の表情を浮かべた。

だが、口の中に鉄の味が広がり、怪訝そうな表情を作る。


「血は嫌いだって、言ってるのに……」


広がった鉄の味をわずかに床に吐き捨て、ゼノがそれを忌々しそうに眺めた。それから吊るされた自分の腕を見上げて、小さなため息も零す。



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