ステージ9『闇』(97話)
盗品はもちろん、表には出せない代物、呪われたもの、美術品・人身までなんでもありのオークションは、お金さえあれば誰でも参加できる、富裕層の娯楽の一つでもあった。
各回、出品されるものを統一し、同じ目的の客を集めるのがここのやり方であり、本日のお客様は、黒髪の者を神の使いだと信じる信者様達であり、オークションでは各地より集められた綺麗な黒髪の男女、様々な人たちが競売にかけられていた。
そう、各地で誘拐・人攫いにあったものたち、主に孤児が狙われ闇取引きされていた。
あるものは、黒髪の者を神への生贄とし、あるものは、黒髪の者を神とあがめ、一生監禁。それぞれ自分の信じる神への誓いを行っていた。
観客がどよめき、ホールが騒がしくなり、その声にゼノがわずかに反応を示す。
「……ん? ……どこっ……?」
スポットライトが眩しくて、ゼノは気だるい身体をゆっくりと起こすとその瞳を静かに開く。
「おおっ」
ゼノの瞳が開くと、歓声はさらに上がる。
自分の置かれている立場も場所もわからず、ゼノはとりあえず虚ろな瞳でホールを見渡してみたが、思考回路がまったく働かない。
なんとなく人がいっぱいいる。それだけは認識できたものの、立ち上がる気力も、気だるすぎる身体も動かすことができない。
「……だ、れ……?」
消え入りそうな声で、呟いたゼノの声は誰にも届かず、客の声だけが微かに耳に届く。
「なんという黒」
「黒髪に漆黒の瞳、まさに神の子」
「吸い込まれそうな瞳だ」
次々にあがる声に、ホール内は熱気に包まれる。
が、ゼノは高熱のせいでぼんやりとしか周りを見れず、状況もまったく把握できないまま、ぐったりと床に倒れた。
「……ぅぅ、やっぱ……ダメ……」
小さく誰にも聞こえない声を出したゼノは、結局そのまま意識を手放してしまった。
「200000からスタート!」
完全に意識を失う前に聞こえた、なんだかわからない言葉を聞きながら、ゼノは闇に落ちていった。
◆◆◆
知らない天井。
ゼノが次に目を覚ました時、一番に見えたのは見知らぬ高い天井だった。
薬が効いたのか、ゼノはすっかり回復していることに気がついて、身体を起こした。
「ママっ、目を覚ましたよ」
ゼノが起き上がると、子供が一人そう叫びながら部屋をでていった。
見れば、部屋にはほかにも数人子供がいた。
自分がどこにいるのかまったくわからないゼノは、しばし部屋を見回しながらぼ~とする。しばらくして、部屋に大柄の女性が姿をみせた。
「ようやく起きたのかい」
「……えっと、……」
「今日から私があんたのママだよ。お前の名前は」
「名前? 僕はゼノ=クロノムだけど」
「そうかい。子供たち、ゼノに家の案内とルールを教えてあげな」
ママと呼ばれた女性はそれだけ告げると、急ぎ足で部屋を出ていった。さっぱり状況がわからないゼノは、とりあえずその後姿を目で追ったが、そんなゼノに一番大きい子供が近づいてきた。
「運が悪かったと諦めな」
冷めた口調でゼノに声をかけ、目を伏せれば、部屋にいた子供たちが全員悲し気に下を向く。
「どういうこと?」
「あんたはママに買われたのさ」
「買われたって?」
「ママに逆らえば酷い仕打ちを受ける。いいか、絶対にママには逆らうな」
酷く怯えた目で、少し大きな声を出したその子は、ゼノに強く言い聞かせる。
だがゼノにしてみたら、いきなり現れた女性がママだと言われても、納得などできるはずもない。ゼノのお母さんは『ハクコクジュ』なのだから、あの人がお母さんであるはずがないのだと。
チンプンカンプンで頭上に『?』をたくさん浮かべたゼノに、その子はゆっくりと事情と状況を説明してくれた。
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ここは、町から離れた鬱蒼とした森に佇むお屋敷。
お屋敷には奥様と旦那様が住んでいるのだが、旦那様の姿を見た者は誰もいない。
ママは黒髪の子供たちを闇オークションで手に入れては、ここに住まわせているが、子供たちは少しずつその姿を消していく。ママ以外、誰もその行方を知る者はおらず、ママに気に入られなければ、すぐにどこかに連れていかれ、そのまま戻ってこないということも知っている。だから子供たちはママに気に入られようと必死だった。
礼儀正しく、わがままは言わず、ママの言う事は絶対。それがここでのルールであり、法則。
特に作法には煩く、守れないときは酷い仕打ちを受け、子供たちはみな身体に痣をつくり、常に怯えていた。
それに屋敷には中身のない鎧の騎士が数体も配備されており、何かの術で動いているのか、逃げ出そうとした者の首を、容赦なく切り落とすように仕組まれている。ゆえにここから逃げることはできない。
そう、ここは高い塀で囲われた、決して逃れられない牢獄
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