ステージ8『砂漠』(94話)
『ハクコクジュの名の元に、我が封印を解く。──我が名は、ゼノ=クロノム』
首飾りが外され、ゼノの力が解放される。
「お前は……」
漲る莫大な力に、女性が声を震わせた。そしてゼノは、ライラとイズが閉じ込められた棺とは別の棺へと身軽に移動すれば、胸元に置かれていた短剣を手にした。
それを見た女性が、
「何をするッ!」
驚愕の声をあげた。
「大切なんでしょう、この人」
冷ややかな笑みを見せたゼノが、短剣をそのミイラに突き立てるように持って見せる。
話さなければ短剣をこのミイラに突き刺すと脅して。
「止めろッ!」
「ねえ、目的は何?」
再度ゼノが問う。
女性は驚愕に目を開いたままゼノを見て、静かに語り始める。
「その者はわらわの夫じゃ」
「旦那様?」
「わらわは愛しい夫を蘇らせたい、それだけじゃ」
亡霊のように蘇った女性は、愛しい者をこの世に蘇らせると話す。
「なんでライたんなの?」
「あの者は夫と同じ瞳の色をしていた。夫の器となり生贄にするのに相応しい」
生贄にライラを選んだ理由がわかり、ゼノが漆黒の瞳を細くし短剣をミイラの脇に突き立てた。
「止めろぉぉ──!」
一瞬ミイラに突き刺さったかと思った女性が悲痛な叫びをあげて走る。ミイラの収まった棺まで女性が駆け寄ると、ゼノは身軽にそこを離れる。
「あなたの居るべき場所はここじゃないよね」
棺の中を覗いて、ミイラが無事なのを確認した女性は背後から掛けられた声に振り向く。
「わらわは……」
「どうして蘇ったのかはわからないけど、あるべき場所に還ろう」
ゼノはゆっくりと女性に近づきながら、ミイラに向かって短剣を放り投げた。無造作に投げられた短剣は、棺の中へと放り込まれ、そのままミイラの胸元へと刺さった。
「アアっ──ッ!」
短剣がミイラに刺さり、女性が耳を塞ぐ悲鳴を上げ涙を流した。
「元凶はコレかな」
事の発端はおそらくこの動かないミイラと短剣だと、ゼノは冷たい視線を棺の中へと向けた。一瞬だけ短剣が光を宿したように見えたが、ゼノが短剣を狙って指を弾けば、柄の部分が粉々に砕け散り、短剣はそのまま色を失い錆びた。
それが引き金だったのか、泣き叫んでした女性の身体が朽ちる。女性は一瞬でミイラと化した。
「一緒なら寂しくないでしょう」
そう呟いたゼノは、ミイラと化した女性を、ミイラが入っていた棺へと一緒に埋葬する。
夫だと言っていたミイラと一緒ならば、悲しくないと。
それに、このミイラも女性に会いたくて蘇ろうとしていたことが感じ取れたため、ゼノは仲良く並べて棺に納めると、そっと蓋を閉めた。
「もう、蘇っちゃダメだよ」
これでずっと一緒に居られるから、と、ゼノは完全に閉めた棺に静かにそう声を落とした。
── ガガガッ ガタン ──
主を失った地下宮殿が突然崩壊を始めた。天井からは落石、燃えていた炎は消え、壁が崩落を始める。
おまけに地下から水が上がってくる。
そして、ミイラ2体が入った棺が崩落に巻き込まれて水の中へと沈んでいくのが見えた。
髪が半分近く白髪化していたゼノが慌てて、ライラとイズが閉じ込められている石の蓋に指を向ける。顔ではなく足のある方の棺の蓋に指で狙いを定めて、出来るだけ力を抑えてゼノは指をゆっくりと弾く。
棺の一部が木っ端微塵に砕けた。
「──ぁ、……ちょっと強すぎたかも」
思ったより棺が破壊され、ゼノが冷や汗をかきつつ、急いで封印を施す。半分も白髪化していなかったおかげか、ゼノの封印は何とか間に合う。
だが、
「痛てぇ──ッ!」
棺の中からライラの悲鳴が響く。木っ端微塵になった破片がライラの足に当たったようだった。
心配になってゼノが覗くが、ライラの足には切り傷程度の傷しか見えなかったため、ひとまずほっとした。
「二人とも今助けるね」
「ゼノなんですか?」
「イズたんから引っ張るからね」
壊れた棺の隙間から声を掛けたゼノは、イズの足を見つけてそこから引きずり出した。
「助かりました、ゼノ」
狭い棺から引っ張り出されたイズが、呼吸を整えながら礼を述べる。
それから、二人でライラの足を掴んで引っ張り出す。
「ここで終わりかと思ったぜ」
イズ同様呼吸を整えるライラも、助かったことに安堵の表情を浮かべたが、外の現状を目の当たりにし、全然助かってないことを把握する。
「どうなってるんですか?!」
落石に崩壊、おまけに沈水。
「わかんないよぉ~。いきなり崩れてきたんだもん」
「あいつらはどうした」
「下に落ちていったよ」
ゼノが指差した方を見れば、先ほどまであった棺と地面が崩れ去っていた。それに伴い壁沿いにあった通路も徐々に崩れ去り、水の中へと飲み込まれていく。
ライラとイズはゴクリと息を飲むが、逃げ場がどこにもないことに呆然となる。




