ステージ8『砂漠』(93話)
「むぅ~、痛いっ!」
「あたりめえだ、痛いようにしたんだ」
「助けてあげたのにぃ~」
ライラを無事救出してあげたのだから、叩かれる覚えはないとゼノが抗議。
込み上げてくる吐き気を押さえつつ、ライラはゼノを睨む。
「普通に助けろ……普通に……」
「普通だもん」
ゼノの普通には一般人とは大きなズレがあることを再認識し、ライラは軽く頭を押さえながら、大きく息を吐いた。
「わぁったよ。助けてくれてサンキューだ」
このまま言い争ってももしょうがないと、ライラは自ら折れて礼を述べた。
「はい」
お礼を言われたゼノは、すごく嬉しそうに笑顔を向けた。
こういうところは素直なのにな、とライラは小さく息をついた。
とにかく助かったとほっとしたライラだったが、まだ終わったわけではない。
棺からなんとか這い出て、立ったライラは女性の方へと身体を向けたのだが、背後から声が届きライラとゼノはそっちを向く。
「ゼノ! 火をください」
通路を上がってイズの元へと進んでいたミイラたちが、かなり上まで迫っていた。
ミイラたちはイズが流した黒い水を足元から吸い上げながら、ゆっくりとイズに迫っている。
「イズ、火なんかどうすんだっ」
「いいから、ミイラに向かって放ってください!」
事は一刻を争うと、イズが下に向かって叫べば、ライラはゼノが解いてくれた包帯を大剣に乱雑ではあったが巻きつけ、祭壇で燃えていた炎に差し込む。
大剣に巻かれた包帯が炎に包まれ、すぐに燃え移る。
「どいてろぉぉ~!」
炎を宿した大剣をライラがイズに迫るミイラたちに向かって、思いっきり投げ飛ばす。大剣は無数にいたミイラの1体に刺さり、次の瞬間爆発を起こす勢いで炎が燃え広がった。
黒い水は石油。
あっという間に通路とミイラに燃え広がる炎は、黒い煙と高熱を生み出し、イズは黒煙を吸わないようにと熱から逃れるため、最大まで後ろに下がって、口元を袖で覆い隠した。
一気に燃えるミイラたちが黒い炭と化す。
「おのれぇぇ~~」
その光景を見た女性が唸るような声を響かせた。
「な、なんだっ!」
「ちょ、なんですかこれ」
地を這うような声がし、ライラとイズの身体が宙に浮く。
「わらわの邪魔は誰にもさせぬッ」
怒り心頭の女性は、右手を空へかざすとライラとイズを衝突させくっつけた。
「おい、これは超能力か!」
「知りませんよ、それより嫌な予感がするんですが……」
「ライたん、イズたん!」
ゼノが叫ぶと同時に、先ほどライラが入れられた棺の蓋が完全に開かれる。見えない力で引っ付いた二人はそのままその空っぽの棺の中へと放り込まれる。
「ちょ、待てっ」
「待ってください!」
上から何かしらの力で押さえつけられているのか、全く身動きが取れない二人を棺に入れたまま重い重い石の蓋が勝手に閉められていく。
棺の中は人3人くらいなら入れそうなほどの広さはあったが、自由が利かない状態で押し込められたライラとイズは、窮屈さを保ったまま徐々に閉まる蓋に脂汗をかく。
「こんなところで死にたくねえー」
「同感です……」
視界が遮られ、二人はその声だけ残して完全に棺に納められた。
真っ暗な湿気のある棺の中に閉じ込められると、先ほどまで身動きの取れなかった身体が自由となる。何かの術が解けた。
「大丈夫かイズ?」
暗闇の中でライラが声を掛ける。
「あまり大丈夫とは言えませんが」
「だな」
「にしても、ビクともしませんね」
完全に閉められた蓋を何とか開けようとイズが全力で押し返してみたが、石の蓋は想像よりも重くわずかでも動かない。
上に押し上げるように手を突っ張るイズに、ライラも一緒に手を突っ張るが、二人係でも蓋は微動だにしない。
「……はぁ、まさかこんなところでライラと心中するはめになるなんて」
深いため息を吐きながら、イズが自分の最後が残念すぎると声をだす。
「悪かったな、オレで」
「せめて可愛い女の子と一緒がよかったです……」
心中するなら可愛い女の子と一緒だったら、まだ救われただろうとイズはさらにため息。
「一度くらい青緑のツインテールな歌姫のコンサート行きたかったです、ネギ持って応援するのが夢だったのに……」
「ネギ持って応援って、なんだそりゃぁ」
「はぁ~、ボクの夢が……」
無いもの強請りなのはわかっていても、愚痴の一つくらい言いたいのだ。このまま死を迎えるというのならば。
二人は、無理だと分かっていても悪あがきで必死に内側から蓋を押し返した。
その頃、災難を逃れたゼノが女性と距離を置いて向かい合っていた。
「なぜ、かからぬ」
ライラとイズと一緒にゼノにも術をかけたのだが、棺に納められたのは二人のみ。女性はゼノが術にかからなかったことに、瞳をわずかに細めた。
「僕は特別だからね」
「特別だと」
「目的は何?」
ゼノは臆することなく女性にそれを問う。
「貴様には関係のないことだ」
生贄となる人間は棺に納めた、目的も望みも話す必要などないと女性は微かに笑う。それを聞きゼノが首に手を掛けた。




