ステージ8『砂漠』(90話)
好奇心に飛び込んでいったゼノを遠くに想いながら、イズは誰に言うのでもなく、面倒見切れないと深い、深いため息を響かせた。
結局、イズもゼノを追って真ん中の通路を選択し中へと足を踏み入れた。
まさにそこは迷路。行き止まりに突き当たったり、同じ通路を何度も通過したり、おまけにドドドッと音とともにどこかで壁が動いているのか、迷路はその姿を随時変える。
つまり、入り口に戻ることもできなくなり、完全に閉じ込められた。
こうなったら出口を目指すしか道はなさそうで、イズはゼノを探しながらとにかく進めるところを探して歩く。
「イズたぁ~ん」
時折どこかからゼノの声はするが、二人は一向に合流できてはいない。それでも何とか合流したくて互いは時々声をあげて場所の確認を試みる。
「どこですか、ゼノ」
「なんか小さな壺見つけたっ」
「壺?」
どこかで何かを見つけたと叫んだゼノの声はとても楽しそうだった。
当然罠かもしれないと睨んだイズが制止の声を出そうとしたのだが、時すでに遅し。
「わわっ──っ! なんか出たっ」
どうやらゼノは壺をひっくり返しにしたのか、壊したのか、はたまた覗いたのか、イズが忠告する前に行動を起こしてしまったらしい。
「ゼノっ! 大丈夫ですかッ」
慌ててイズが声を飛ばせば、
【ゼノは小さなメダルを手に入れた】
どこからか誰かの声が聞こえたような気がした。
「小さなメダル見つけたよぉ」
続いてゼノのはしゃぐ声が聞こえてくる。イズは先ほど聞こえたような気がした声は気のせいだったかもしれないと、軽く頭を左右に振った。
「お願いですから、そこを動かないでください」
「ええ~、なんで。あっちに宝箱あるよ」
「罠ですよ! 絶対開けちゃダメですよゼノっ!」
野放しにした園児には通じないと分かっていても、イズは思いっきり叫ぶ。不自然に配置してある宝箱らしき箱。イズは途中で見つけた箱をスルーしてきたのだが、ゼノが見つけたとなれば、絶対に開けると確信が持てる。ゆえにこれ以上の災いは避けたいと心底願う。
それに、ゼノが動き回るせいで二人の距離は全然縮まらないということも分かっている。だからイズは大人しくその場に居て欲しいと注意するが、その忠告は今だ全て叶えられていない。
よって、
「イズたん、グミが入ってるよ」
宝箱は開けられる。
「わかりましたから、そのグミ食べないでくださいよ」
「ん~、あっ、赤いのはアップル味だぁ~」
箱の中にあった赤色と黄色のグミの赤を口に放り込んだゼノが、嬉しそうに声をあげる。
「ちょっとゼノ、お腹壊しても知りませんよ」
「黄色はレモン味だよ。5つ入ってたから、イズたんにも後であげるね。なんか元気でるよぉ」
怪しいグミを食べて元気出たと、楽し気に聞こえる声は、イズの忠告などまったく聞き耳持たず。
「……ハクコクジュは、ゼノに拾い食いはいけないって、教えなかったんでしょうか」
親であるハクコクジュの教育方針に、イズは落胆を込めて、深い深いため息をついた。
それからすぐにゼノはある気配を感じ取り、そこへ走った。地に片足をつけて手で触れれば、わずかに感じる気配。
「こんなところにあったんだ」
嬉しそうに呟いたゼノは、首飾りを取り出すと封印の印を解く。そして、何もない地へ手を置くと力を注いだ。膨大に溢れる力は大地へ注がれる。
「ゼノ! いますか」
唐突に満ちた圧倒的な力の気配に、イズが驚きの声とゼノの安否を確認する。感じたこともないほどの力の気配。イズはその場で足を止め、必死にゼノに声をかけた。
「ゼノ、どこですか!」
「ここだよぉぉ」
力の気配が収まりゼノの声がした。膨大な力を感じたのは一瞬。力はすぐに消え去り、イズは険しい表情を作った。
(今のは一体?)
「どうしたの、イズたん」
呼ばれたのに返事が返ってこず、ゼノがイズを呼ぶ。イズは精神を統一してみたが、先ほど感じた力はもうどこにもなかった。
「いえ、無事ならいいんです」
完全に消えた。イズは何も感じられなくなったと緊張の糸を解いた。だが、すぐにゼノから理解不能な言葉が返ってきた。
「2番目でいいよね?」
どこからか聞こえてきたゼノの言葉は、主語がない。
「何がですか?」
「1番目は『ああああ』さんが使用してるんだって」
「ああああさん?」
益々理解できず、イズはとりあえずゼノの言葉を繰り返した。一体どこで何を見つけたのか、それとも誰かに出会ったのか? 問われた意味がまったく理解できないとイズが頭を悩ませる。
それからしばらくして、
「2番目にセーブしたよ」
と、はじゃぐゼノの声が聞こえた。
「セーブってなんですかゼノ!」
「セーブはセーブだようぉ。ダンジョンには必須でしょう」
得意げに話すゼノに、イズはもう何が何だか分からず、ゼノには届かないだろう小さな声をため息とともに吐き出した。
「……全然分かんないんですけど」
普段からゼノの言動には理解できないことも多かったが、ここにきて余計分からなくなったと、イズは一人頭を抱えた。
「今、ものすごくライラに会いたいです」
イズはゆっくりと歩きだし一人呟く。自分一人ではあのお子様を管理しきれないと、心身ともに疲れたと、イズは大きく息を吐くと薄暗い天井を見上げた。
「……助けてください、ライラ」




