ステージ8『砂漠』(89話)
「どこが矢なんですかっ」
木っ端みじんになった小石を目の当たりにし、イズがゼノに迫る。矢が飛んでくるなんて可愛いものだと思えるほど、その光景は想像を超えた。
「なんで、なんで、矢じゃないのぉ~。ビームとか聞いてないよぉぉ~~」
「こんなところどうやって通るんですか──っ」
絶対に通れないと、ゼノとイズはよく響く通路で盛大に叫んだ。
これ以上、先に進むことができないと諦めたかけたその時、ゼノがまた騒ぎ始めた。
「わかったぁ!」
「今度はなんですか」
「ここを通る方法がわかったの」
大丈夫、僕を信じて。的な目でキラキラ全開のゼノに、イズは嫌な予感を覚える。
的中といえば、的中。
ゼノは通路の手前に無造作に置いてあった、石像を指さす。
「これを使うんだよ」
なんかのゲームでやったことある! 自信満々でゼノがイズの腕を引っ張った。
「使うって、……」
「いいから、いいから、これ押して」
「こんなの動くんですかッ」
大きな石像、こんなものを動かせと言われても、動くはずないとイズがゼノに苦情を訴える。だが、ゼノは体当たりでもするように全身を使って石像を押しにかかる。
仕方なくイズもゼノと一緒に石像を押してみる。
二人係で全力で石像を押すと、ズズズ──ッと、石像が動き出す。
「ほら、動いた」
石像が動いて、ゼノが嬉しそうに声を出す。それでもイズはビームで破壊されてしまうだろうと考えていた。ひとまずゼノの気が済むまで付き合ってあげることにしたのだが、石像をビームの出た壁に埋め込まれた石像の前に配置すると、ビームが出てこなかった。
「嘘でしょう……」
「ね、ね、言ったでしょう」
ゼノは褒めて褒めて的な顔でイズに迫る。
確かにこれでなんとか進めるかもしれないと、イズはゼノの頭をなでなでしてあげた。それが嬉しくて、ゼノはとっても嬉しそうな顔をして笑う。
「僕、偉い?」
「ええ、とっても偉いですよ」
「わぁ~い、イズたんに褒めてもらっちゃった」
素直に褒められたことが嬉しいと、ゼノははしゃぐ。
けど、通路の壁に埋め込まれている石像はあと11体。二人係でようやく動かすことのできる石像を残り11回も動かさないといけない事実は、イズに疲労感を与えた。
「……こういう役割は、ライラの分担でしょう」
盛大なため息とともに、適役は自分ではないだろうとイズはどっと疲れた。
それから何とか危険な通路を通過できた二人は、体力消耗しすぎて通路の反対側で座り込んでいた。
「疲れたぁぁ」
「もう限界です」
すぐには動けないと、ゼノもイズもぐったりと地に座る。休息をとりながらイズは通路の先へ視線を走らせて、再びため息。
「明らかに罠っぽいですね」
この先も罠があると確信して、疲労はさらに積もる。
イズが見たものは、人工的に作られただろう綺麗に整えられた壁、壁、壁。しかも入り口は3つ。
人ひとりが通れる程度の幅で、入り口の先は複雑になっているのか、壁で見えない。
「どこが正解かな?」
入り口が3つあることにゼノも気がつき、イズにそう尋ねる。
「おそらく、2つハズレで1つが正解ってとこでしょうか」
「また罠があるのかな」
「ハズレにはあるでしょうね」
きっとハズレに進めば、命を奪うような仕掛けがある、イズはそう確信していた。だから慎重に選ばないといけないと、嫌な汗を掻く。
しばしの休息をとり、二人は立ち上がると3つの入り口の前に立つ。
「先が全然見えないね」
入り口を覗いてみたが、細い通路のような造りとなっており、先がまったく見えなかった。
「迷路のようですね」
その造りから、まるで迷路のようだと口にしたイズは、隣から奇妙な空気が漂い恐る恐る横を向いて片手で顔を覆った。
「迷路ぉぉ」
迷路という言葉に反応を示したゼノが、ワクワクとドキドキを全開にして入り口を憧れの眼差しで見ていた。
そして、ゼノが後先考えずに入り口に飛び出していく寸前で、イズはなんとかその首根っこを捉えることに成功した。
「迷路ォォォ、行くのぉ」
「行かせません!」
「なんでなんで」
「どんな罠があるかわかりません。慎重に考えてから進みましょう」
きちんと正論を述べたイズだったが、ゼノは頬を膨らませてむくれてイズを睨む。
「ぶぅ~、意地悪ぅ」
「そんな顔してもダメです」
しっかりと捕まえてイズが叱るが、ゼノは頬をめいっぱい膨らませたまま拗ねた。本当に手がかかるとイズは半ば呆れながらも絶対に手を離さないように気をつけた。
ゼノの首根っこを掴んだまま、3つの入り口に再び視線を向けたイズは、何か正解に繋がるような手掛かりがないかとそれぞれを見比べてみるが、どれもこれでもとくに変わったところなどなく、途方に暮れるとはまさにこれ。
「僕はここに決めたっ!」
元気いっぱいの声が聞こえたかと思うと、いつの間にかイズの手を抜け出したゼノが迷路の一番真ん中の通路に消えた。
正確には元気いっぱいで迷路に入って行ってしまったのだ。
引き留める声も出ず、イズはゼノが消えた真ん中の通路をただ茫然と眺めた。
「子供なんて可愛いものですよ。……あれはもはや園児でしょう」




