ステージ8『砂漠』(88話)
たしかそんなことわざがあったような気がする。
── ガクンッ ──
水の音ひとつなかった空洞で、何かが外れるような音が響いた。
「……イズたん、僕、……何か踏んだかも」
いかにも罠ですと見える、一段だけ突起していた床の上でゼノがしっかりとそれを踏んで立っていた。
ものすごく嫌な予感が脳裏を過ると、遠方から轟音が鳴り響き、地響きとともに、足元に振動が伝わる。
「何か来ますよ、ゼノ」
耳を塞ぐ轟音が背後から迫ってくると、イズはゼノの腕を掴んで走り出した。
「大きな岩だぁぁぁ~~っ!」
「ちょ、冗談じゃないですよぉ」
走りながら振り返った二人が見たものは、大きな岩がものすごいスピードで転がってくる光景だった。
あんなのに轢かれたら助からないと、二人は真っ青な顔で全力疾走。
通路に横道などなく、逃げ道がない。巨大な岩は壁を削りながら転がってくる。
「ど、どうしよう」
「ゼノが作動させたんですから、何とかしてくださいっ」
「どうにもできないってばぁ~~」
「……ぜ、はぁ……、このままでは二人ともペシャンコですよ……はぁ、ぁ」
ゼノのように逃げ足が得意ではないイズは、もう限界とばかりに速度が落ちる。
背後から迫る巨大な岩は、スピードも落とさずどんどん迫ってくるが、逃げ道がどこにもない。壁に避けたとしても、両壁を豪快に削りながら転がってくる岩に巻き込まれるのは目に見えてわかる。かといってこのままここにいたら、押しつぶされる。
絶体絶命。
「イズたん、目、閉じてっ!」
巨大な岩が目の前まで迫ったその時、ゼノが唐突にイズに叫んだ。が、この状況で目を閉じろと言う方が難しい。むしろ迫りくる岩に開いた目は恐怖と驚きで閉じない。
「何言って……、ちょっとゼノ!」
「いいから僕に任せて」
「ゼノっ」
目なんか閉じられないと言ったイズの視界が突然真っ暗になった。
ゼノが布でイズの視界を奪ったのだ。視界が奪われたかと思うと、今度は浮遊感が襲う。地から足が浮いたような感覚が一瞬あり、すぐに地に足が着く。
何が起こったのか全く分からないイズは、布が外されると唖然とした。
巨大な岩がどこまでも転がっていくのが眼下に見えたためだ。
「ふぅ~、危なかったね」
額に腕を滑らせ、ゼノが間一髪だったと息を吐く。二人が立っていたのは、天井に近い、わずかな足場。
「……ゼノ」
「上に逃げられそうな場所、見つけたの」
得意げにゼノはここなら大丈夫でしょう、と笑顔を見せた。そうゼノは一瞬だけ力を解放しイズを抱えて上まで飛びあがり、岩をギリギリで回避していた。
「目隠しする必要ってあったんですか……」
思わず、その必要性はあったのか、とイズは疑問をぶつける。ゼノが火事場の馬鹿力でイズを抱えてここまで飛んだとしても、なぜ目隠しする必要があったのかとイズが不信な眼差しを向ける。
疑惑の視線を向けられ、ゼノが頬を指で掻きながら乾いた笑いを浮かべた。
「イズたん、高いところダメかと思って……」
「まさかボクが高所恐怖症だと思ったんですか?」
「うん、だから目隠ししてあげた方がいいかなって」
視界が見えなければ、怖くないだろうと思っての行動だったとゼノが説明し、イズが人生何百回目のため息をつく。
それはたぶん、ゼノの優しさなんだろうが、あの状況で目隠しされるほうがよほど怖かったとイズは口には出さなかったが、そう思った。
「目隠しはやり過ぎですが、助かりましたよ。ありがとうございます」
「にしし……」
素直にお礼を言われ、ゼノが嬉しそうに笑う。内心は一瞬だけ力を解放したところを見られたくなったからだが、どうやら上手くごまかせたとゼノはどちらの意味でも笑った。
それから二人は安全を確認し、そこから降りると、岩が転がってきた方へと歩き出した。
早くライラを見つけないと、今頃どうなっているのかもわからないと、不安を抱えたまま。
しかし、この地下迷宮の罠はさらに存在し、
「……明らかに、罠ですよね、……これって」
壁に埋め込まれた像が何体も並ぶ通路。それに通路より手前に並べられた数十体もの大きな石像。罠が仕掛けてないはずがないとイズが冷たい汗をかく。足を踏み入れたら何かが起こる、そんな予感はした。
かといって、引き返したところで先ほどの空洞に出るだけ、大人しく岩が転がっていった方角へ向かうか、ここを何とか突破するか、イズは正解に近い方を悩む。
「ゼノ、一歩も動かないでください」
前回の教訓を生かして、イズが先手を打つ。また勝手に余計なことをされては困る。
「ハイハイ、はぁ~い。僕知ってるぅ」
忠告したイズの言葉に、ゼノが楽しそうに片手を挙げて飛び跳ねた。
「知ってるって、何をですか」
「ここ通るとね、石像から矢が飛んでくるんだよぉ」
えっへんと言わんばかりにゼノが胸を張る。
「は、はい?」
「嫌だなイズたん、これって定番でしょう」
「定番なんですか……」
「お約束の仕掛けだよねぇ」
まるで以前、この罠にかかったことがあるかのように話すゼノに、イズが記憶を手繰るがまったく身に覚えがない。困惑するイズを見て、ゼノが補足を追加する。
「ほら、ゲームとか考古学者も綺麗なドクロ探して冒険してたよね」
ねえ、と言われても、いまいちピンとこないイズだったが、ゲームの話だと言われれば、そういうものなのかと受け入れてみた。
「そういうものなんですね」
「ほら見ててねイズたん」
聞くより見た方が早いと、ゼノが近くにあった小石を手にとって、石像の並ぶ通路に投げ込む。
── ドカンッ ──
投げ込まれた小石は石像の目からでたビームで粉砕された。




