ステージ8『砂漠』(87話)
引っ張られるライラを引き留めようとゼノが手を伸ばしたが、その手はライラに届くことはなかった。
「へ?」
「ゼノッ!」
突然床が抜け、ゼノとイズは落とし穴に落とされた。瞬発的に動けたイズがなんとかゼノの腕を掴んだが、底の見えない真っ暗な落とし穴に二人は落ちていった。
「ゼノ──ッ、イズ!」
包帯で引きずられながら、背後で闇に消えた二人の名前をライラが叫んだが、声は底なしの闇に吸い込まれた。
◆◆◆
「……、イズたんありがとう」
「どういたしまして」
落とし穴に落ちたイズは、槍を壁に必死に突き立ててなんとか底までの落下を避けることができていた。
槍で壁を削りながら落下し、このまま止まらずに下まで落ちるかと思ったが、かろうじて底にたどり着く前に槍は壁に突き刺さり止まることができた。
良く見れば落とし穴の下には無数の槍が上を向いているのが見えた。もちろんそこには白骨化した髑髏の姿も見え、古典的な罠だが、自分の身に降りかかって初めてその恐怖を覚えた。
「単純な罠かと思ってましたけど、実際に体験してみると、かなり怖いものですね、はは……」
冷や汗とともにイズが苦笑する。
「この高さなら降りられるかも」
イズの槍に一緒にぶら下がっていたゼノが、下を向いて地上までの距離を見定め、槍から手を離した。
上を向いて刺さっている槍は中心部に集中していたため、ゼノは槍のない壁際に降りた。
無事降りることができ、ゼノはイズを見上げる。
「そんなに高くないよぉ」
全然大丈夫と下から声を掛けられたが、イズはゴクリと喉を鳴らした。ゼノにとってはおそらく大した高さではないかもしれないが、普通の人間にはかなりの高さに見えた。
「……簡単に言ってくれますね」
下にいるゼノの姿を確認しつつ、その高さを改めて実感するイズは、そう簡単には飛び降りられないと腕に力を込めた。
「イズたん?」
なかなか落ちてこないイズにゼノが不安に声を掛けるが、イズは飛ぶ決意と決心を必死に整えていた。
見上げるゼノはじっとイズを見ていたが、ここでやっとそれに気がついた。
「僕が受け止めるよ」
自分の飛躍力がイズとは違うことにやっと気づいたゼノは、両手を広げて見せる。
が、それはそれでイズをまた困らせた。
「受け止めるって……、ゼノでは無理でしょうね」
「イズたん、早くぅ~」
「もう、どうなっても知りませんよ」
急かされて、イズはイチかバチかで槍から手を離した。
「──っう、大丈夫ですかゼノっ」
なんとかイズを受け止めようとはしたものの、ゼノはキャッチしたと同時にイズの下敷きとなった。
「ははは……、平気、だよ」
イズに潰されながら、ゼノが苦笑いを浮かべて返事を返した。どちらも大した怪我もなく、ひとまずは安心できた。
鋭利な刃先の槍を横目に、イズが小さな横穴を見つけた。
「這ってなら通れそうですね」
「トンネル、トンネル~」
「あのぉ、ゼノ。もう少し緊張感持ちませんか?」
ついさっき死にかけたというのに、ゼノは危機感もなく、状況を楽しんでおり、イズは頭を悩ませる。落とし穴のような罠がまだあるかもしれない、そう考えると危機感を持って慎重に進むのがベストだと判断したからだ。
しかしゼノにそれが伝わるかは、五分五分。
「迷宮探検みたいだね、なんかワクワクするよね」
漆黒の瞳がキラキラと輝いて、結果伝わらなかった。
「やっぱり無理ですかね……」
「ん? 何が無理なの?」
「いえ、こちらの話です。とにかく少し気をつけて進みましょう」
どこに危険があるかわからないと、イズは忠告だけはしておく。言いつけを守れないゼノではないとちゃんとわかっているからだ。
ひとまず、ゼノが先走らないようにイズが小さな横穴に身を滑らせる。四つん這いでやっと進める大きさだったが、これなら進めそうだとイズは少しだけ安心した。
ゼノではないが、ライラは通れないとちょっとだけ笑って。
「どこまで続いてるのかなぁ」
視界が悪い中で、ゼノはイズの後ろを追いながら、どこまでも続きそうなトンネル内でそっと声を出した。
「後少しですよ」
「出口見えたの?」
「明かりが見えましたから」
きっと出口だとイズはゼノに言った。
やっと広い空間に出た二人は、ずっと同じ体制だったため、通路を抜けると思いきり身体を伸ばす。ついでに体中についた土も払い落して。
「さて、ここはどこなんでしょうか」
地下空洞のようなところに出たはいいが、前も後ろも似たような景色が広がっており、どこへ向かえばいいのかも不明だと、イズは辺りを見回した。
岩肌がむき出しになっているところや、人工的に作られた壁や床もある。本当にここはどんな場所で、何の目的で作られたのか、イズは辺りを見ながら一人考え込む。
それに、あの女性とミイラは生きていたのか? 生気のようなものが感じられなかったとイズは顎に手を添えて、様々な疑問を抱く。
そして、深く考え込んでしまったせいで、イズはアレの存在をすっかり忘れていた。
災いは忘れた頃にやってくる。




