ステージ8『砂漠』(86話)
それでも足音は確実にこちらに近づいてくる。
「幽霊か」
姿は見えず足音のみが聞こえ、ライラは冷たい汗とともにそれを口にする。
すると、ゼノが泣きそうな顔でライラをみた。
「お化けなの? ……うう、っ」
「ゼノ、……お前、幽霊ダメとか言わないよな」
「お化け怖いよぉぉ~、イズたぁ~ん」
半泣きでイズに抱きつく姿を目の当たりにし、ライラはどっと疲れがでた。
なんで世界から生まれた奴が幽霊とか怖がるんだと。
「大丈夫ですよゼノ。幽霊なんていませんから」
「ほんと? 井戸から這い出てきて、テレビから出てきたりしない? お皿が足りないとか言わない?」
「映画の見すぎですよ、それ。映画は全部偽物ですからねゼノ」
ゼノの台詞に心当たりがあると、イズは優しく抱きしめてあげる。
「偽物なの? ……じゃぁ、息止めてないと見つかって襲ってくるとか、人形が動き出して殺人するとかも本当じゃないの?」
「ゼノって、結構ホラー映画好きなんですか?」
お化けが怖いと言うわりに、名作はきちんと鑑賞しているあたりがどうも納得できないと、イズが尋ねるが、返ってきた答えはゼノらしいといえばゼノらしかった。
「今月のおススメ映画で、ものすごく紹介してたんだもん」
【これを見なきゃ、あなたはこの夏、絶対損をする!】
テレビのお姉さんが、ビシッと指をさして宣伝したのをきっちり受け止めた結果だった。
「怖いなら、行かないでしょう普通」
「だってだって、絶対損するって言われたら、行かなきゃって思うでしょう」
「でも怖かったんですよね」
「ものすごく怖かったよ。……でも最後まで見ないともっと怖いし」
途中で見るのを止めたら、最後お化けがどうなったかわからなくて、もっと怖くなるから全部ちゃんと最後まで泣きながら見たというゼノに、ライラとイズは返す言葉が見つからなかった。
そこまでして鑑賞して、ゼノは一体どんな得ができたのか、ぜひそこら辺を詳しく聞きたかったが、ついに足音の正体が姿を見せ、3人は身構えた。
ライラは大剣を手に、イズは槍を手にゼノを挟むように立つと、前後から姿を見せたモノへ攻撃態勢をとる。
「……ライラの言ってる意味がわかりました」
姿を現したモノを目視でき、さっきライラが言った追ってくるモノの意味を理解したと、小声で言った。
「だから、変な女と包帯って言ったろ」
「ええ、間違ってませんでした」
そう、3人の前に現れたのは、全身包帯で巻かれたミイラと、露出度高めの色黒の女性。
後ろからは無数のミイラがある程度の距離を置いて制止し、前からは女性の後ろにたくさんのミイラが見えた。
どちらもある程度の距離を置いて止まる。
その不気味な光景に、ライラとイズが険しい表情を浮かべて直視したが、ゼノはイズの背中にピトッと張り付いて、目を背けていた。
「さあ、わらわの元へ戻れ」
ミイラを引き連れた女性は、右手を差し伸べライラを誘う。
「ライラのお知合いですか?」
「知るわけねえだろう、初対面だ」
ライラはこんな女性見たことないときっぱり言う。しかし、女性は不敵な笑みを浮かべたまま真っすぐにライラを見る。
「お前はわらわの夫となる男」
差し出された手とともにとんでもない台詞がでて、3人の頭は真っ白になる。
「ライたん、あの人と結婚するの?」
「まさかライラに許嫁がいたなんて……」
ゼノとイズは全然知りませんでしたと、なぜか悲しみの声を出す。
「んなわけねえだろうがっ」
当然、そんなものはないとライラが叫ぶ。初対面も初対面、初めて会った人にいきなりそんなこと言われても「はい、そうですか」とはいかない。
そして、イズがここでライラの姿を今一度確認する。
裸同然の恰好だったが、女性を見ればその恰好に納得がいくと、大きく頷いて見せた。
「なに一人で納得してんだイズ」
「ライラを連れ去ったのは、彼女で間違いなさそうだと思いまして」
「そりゃぁ……」
「その恰好。彼女とよくお似合いだと思いませんか?」
露出高めの衣装に装飾されたものといい、色合い、身体の模様、どれをとっても女性とほぼ同じだとイズが指摘した。
つまり、ライラを夫とするべく連れ去り、衣装を着替えさせた。
そういうことなら、今のライラの姿に納得がいくと話す。
「ごちゃごちゃと煩いぞ。早くこちらに参れ」
痺れを切らせて、女性が苛立った声をだした。
「断る!」
「お前に選択権はない」
「な、……にっ……ッ」
ライラがはっきりと断ると、女性の背後にいたミイラからものすごい速さで包帯が伸び、ライラの上半身を捉えた。
そして、ライラを捉えた包帯は女性の方へとライラを引き寄せる。地に足を踏ん張ってなんとか引き寄せられないように頑張るが、引き寄せる力は尋常ではなく、ライラはゆっくりと地を滑るように引き寄せられていく。
「ライたんは渡さないんだからぁ」




