ステージ8『砂漠』(83話)
「あちぃ~」
どこまでも続く砂の大地を歩きながら、ライラが照り付ける太陽をわずかに睨む。
「ぶぅ~、あっついぃぃぃ」
「ゼノが大きな砂場に行きたいっていうから来たんですよ」
「こんなに大きいなんて知らなかったんだもん!」
遡ること5日前。
宿屋で地図を広げていたイズが、次の町までのルートを計算しているところに、珍しくゼノが顔を覗かせた。
「ねえねえイズたん、これ何?」
地図を覗き込んで、一部だけ色が違う一帯を指さしてゼノが興味津々に尋ねる。
間界の地図は森や草原、畑などが大半を占めているため、緑一色なのだが、ゼノが指をさした場所は、黄色で配色され、所々にポツポツと水色の点が申し訳程度にある場所。
「ここは砂漠というところですよ」
「砂漠? って、森とは違うの?」
「ゼノに説明するなら、大きな砂場ってところでしょうか」
極力分かりやすようにイズが説明したのだが、この説明がそもそもの間違いであったと気がついたのは、現場入りしてからだった。
大きな砂場と聞いて、ゼノの好奇心がワクワクと湧き上がる。
「ここ行きたい!」
当然、お砂場遊びをしたくなったゼノがキラキラオーラ全開でイズに迫る。
「言っておきますが、砂しかありませんよ」
「うん、うん」
「って、もう聞いていませんね……」
ちゃんと説明してあげようと思ったのだが、ゼノの頭の中は大きな砂場のイメージでいっぱいであり、イズの言葉など全く聞こえてなく、無駄な努力をイズはそうそうに諦めた。
結果、3人は後戻りのできない砂漠へと足を踏み入れていた。
右を見ても左を見ても、砂、砂、砂。
ちょっと深入りしただけで完全に方向を見失い、イズは方角を確認しながらオアシスと呼ばれる、砂漠の憩いの場を目指していた。
半日以上は彷徨っているだろうか、熱砂の中をただひたすらに歩く3人は口数もなく無言で歩く。
何かを話す元気も、体力もない。
今は現状を受け入れるしかないと、ゼノを責めることもひとまずお預けとした。
乾いた風が時より吹くだけで、音も声も聞こえず、耳に届くのはサラサラと風に流される砂の音のみ。
「ねえ、何か聞こえない?」
ほぼ無音の世界で、ゼノが唐突に声を出した。
返事を返す気力もなく、ライラとイズは足を止めて風に耳を傾ける。
── ザザザァ ──
確かに、何かが崩れるような音が聞こえる。
── ズザザザァァァァァァ ──
次の瞬間、その音はゼノ達のすぐそばまで迫っていた。
「おい、なんだありゃ!」
「巻き込まれますよ!」
「飲み込まれるぅぅぅ~~~」
3人の背後の砂がものすごい勢いで地下に吸い込まれていくのが見えた。
巨大なアリジゴク?
砂漠の砂を飲み込むようにどんどん吸い込んでいく穴に、3人は血相を変えてとにかく全力で逃げることを優先する。
足元は全て砂。逃げようにも砂に足を捕られ、全然前に進めない3人は、徐々に広がる砂地獄へ飲み込まれていく。
「冗談じゃねえぞぉ~」
「ボクの事、忘れないでくださいねぇ」
「こんな滑り台いらないよぉぉ~」
3人は大声で出しながら、砂の穴へと完全に飲み込まれた。
◆◆◆
「ん、……ぅん……」
ひんやりとした空気に身体が冷やされ、イズは大量の砂山の上で意識を取り戻した。
頭上からは微かに太陽の光が届いているのか、砂山が明るく照らされている。
「生きてる?」
てっきりあのまま死んでしまったか思ったのだが、下に砂があったおかげで無傷であることにほっとした。
「ゼノ、ライラっ」
そして、一緒に飲み込まれた2人を思い出し、イズが慌てて二人の姿を探す。
眼下に黒髪が見え、イズは慌ててそこへ向かう。
「しっかりしてください、ゼノ」
うつ伏せで倒れるゼノを仰向けにし、イズが身体を揺すって意識を呼び起こす。
「ううっ……」
「よかった、生きてますね」
小さなうめき声をあげたゼノがゆっくりとその瞳を開く。
「あれ、イズたん?」
「どうやら地下に空洞があったようですね」
広く抜けた地下を見ながらイズが、ひとまず助かったのだと教える。
が、ライラの姿がどこにもなくイズは青ざめる。
まさか、空洞に落下した砂の下に埋もれてしまったのでは、慌てて何かライラの手掛かりになるものはないかと必死に砂を見渡すが、その形跡は何一つない。
最悪の事態を考え、イズは必死にライラの身体の一部だけでも見つけようと目を走らせるが、何一つ見つけられない。
「イズたん、あれ」
必死にライラを探すイズに、ゼノが空洞の先を指さした。
暗くてよく見えなかったが、暗闇になれてきた目がゼノの指さしたものを捉える。
二人は慌ててそこへ向かうと、それに触れた。
「これは、ライラの大剣ですね」
「剣が残ってるってことは、ライたんは剣を出したまま意識を失ったんだね」
「おそらくライラは、砂地獄の下に何かがいると思ったんでしょうね」
だから砂に飲み込まれながらも大剣を具現化して、戦おうとしていたのだろうと推測できた。
しかし、肝心のライラの姿がない。




