特別編『真実の鏡』(82話)
予定が狂った、そうイズが言葉にした通り、ハクコクジュは無力な平和主義者のお子様を生み出しただけ。ライラは思わず吹き出してしまいそうになった。
確かに計画は見事に打ち砕かれたと。
「なら、ここに居ればいいだろう」
戻る必要などどこにもない、ライラはそう言う。
「ボクは、アセトビノスの後継者ですよ」
「それがなんかあんのか」
「あるのかっ、て、大有りじゃないですか」
「なら質問を変える。お前は地王になるのか」
真っすぐに問われた。
「ならない、ボクはそんなものになるつもりはありません」
例え血を引いていたとしても、あんなものになるつもりなどないときっぱりと断言できた。だからライラは笑った。
「地界に戻るつもりも、地王になるつもりもないなら、ここに居ればいいだろう、なあイズ」
旅はまだ終わらないのだからと、繋げて。
「いいんですか……」
「ダメな理由なんかあんのか?」
理由があるとするなら、ゼノにでも聞いてみろと言いたげにライラは視線をゼノに流す。急に視線を向けられゼノが困惑した表情を浮かべたが、すぐにいつもの表情に戻り、
「一緒に行こう」
と、手を差し伸べた。
差し出された手を掴むイズは、二人に感謝しつつ、柔らかな笑顔を返す。
それは、居場所ができたと、仲間がいるのだと、そう教えてくれていた。そして、イズは掴んだゼノの手をギュっと握り返し、意地悪な笑顔をゼノに返す。
いつもの何かよくないことを企んでいるだろうイズの笑顔。
よくないことが起きると察知したゼノが手を引こうとしたが、イズは絶対に離してくれない。
「えっと、イズたん、離して」
力を入れて手を引くが、イズはニコニコとしたまま手を離さない。ゼノに冷や汗が浮かぶ。
「ところで、ゼノ」
「な、なに?」
「どうやってあそこから出てきたんですか?」
得体のしれない化け物に、ゼノは完全に飲み込まれた。自力で抜け出してきたとすれば、やはりゼノには何か力がある。つまり、自分たちに何か隠しているのではないかと、イズは疑いの眼差しでゼノを捉える。
「そういえば、そうだ。ゼノ、実は強いとかいうんじゃねえだろうな」
地界での出来事を思い出したライラもゼノに詰め寄る。
まったく歯が立たなかった化け物から、逃げだしてくるなど、それこそハクコクジュの力なんじゃないかと、ライラとイズはゼノを問い詰める。
が、慌てたゼノは首をブンブンと左右に振る。
「ち、違うよ。助けてもらったの!」
「助けてもらったって、あの状況で誰がゼノを助けられるというのですか」
あの場にいた者では、あの化け物に対抗できるものなどいるはずもない。まして、ライラ以外に立ち向かったものなど誰一人としていなかった。助けに向かったものなどいるはずもないとイズはゼノを鋭く射貫く。
「オレたちを騙してたのかっ」
本当の力を隠して、ずっと騙してきたのかとライラはゼノに怒鳴る。
「イズたんのお母さんに、助けてもらったんだってばぁぁぁ」
「え?」
想像すらしなかった名前が出て、イズは思わずゼノの手を手放す。一体どういうことなのかと、目を開いた。
「あの中に、イズたんのお母さんがいたんだよ。姿はなかったけど、声がしたの」
セラムが言っていたことは本当だったのかとイズの瞳は寂しく揺れる。母は、本当にあの化け物に取り込まれていたのかと、行き場のない空虚感が憎しみに混じる。
「自分はもうすぐアレに取り込まれてしまうって、だから残る全ての力で僕を助けてあげるって言われたの……」
「母が……」
「うん。お母さん、イズたんに『いつまでも愛してる』って言ってたよ」
消滅前に彼女から預かった伝言をゼノは伝える。
イズの頬に一筋の涙が伝い落ちた。大好きだったお母さん。イズは、ゼノの言葉に嘘はないと分かっていた、だからこそ、悲しくて、嬉しくて、すごく温かな気持ちが溢れた。
母は、ゼノを助けてくれた。例えもう二度と会うことができなくなってしまったとしても、大切な人を守ってくれたのだと、伝えることのできない感謝をイズは空に預けた。
幾千の輝きが散る夜空、イズはきっと届くと願い
「僕も愛しています、いつまでも……」
そっと星にのせた。
真実の鏡 クリア。
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ステージ8『砂漠』
「あちぃ~」
どこまでも続く砂の大地を歩きながら、ライラが照り付ける太陽をわずかに睨む。
「ぶぅ~、あっついぃぃぃ」
「ゼノが大きな砂場に行きたいっていうから来たんですよ」
「こんなに大きいなんて知らなかったんだもん!」
遡ること5日前。
宿屋で地図を広げていたイズが、次の町までのルートを計算しているところに、珍しくゼノが顔を覗かせた。
「ねえねえイズたん、これ何?」




