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特別編『真実の鏡』(80話)

崩れる室内で一際高い声がし、セラムがアセトビノスに寄り添う。怪我の度合いが尋常ではなく、セラムは叫ぶように兵士たちに命じる。


「早く医者を呼びなさいっ! 早く」


その声にようやく我に返った兵士たちが、逃げるように部屋を出ていき、医者を呼びに向かう。そして、只ならぬ轟音と地響き、城の上層部の崩壊で、兵士たちが城中を駆け回る。

亀裂の入った壁なども崩壊を始め、城にいた者たちはそれを修復しようと動くもの、救護に向かうもの、逃げるもので混乱を生む。


「……ッチ、お子様、動けるな」


無数の瓦礫をその背に受けていたライラが、ゼノに問う。


「行こう」

「こいつはオレが担ぐ、いいな、てめえは……」

「任せといて」


二人は互いが何をすべきなのか、言葉を交わさずとも理解し、瓦礫が崩壊するその部屋を抜けた。

混乱を生じている城内は、行き交う人など気にもしていられない状態であり、ゼノとライラはただひたすら城内を走った。

イズを肩に担ぎあげ、ライラはゼノが案内する方へとただ夢中で走る。

どれほど下層まで下りてきただろうか、ゼノが突然、とある部屋の前で足をとめた。

入り口には頑丈な扉と、セキュリティ。

それが意味するものは、ライラには分かる。だから、


「こいつを見てろ」


イズをそっと床に降ろすとゼノにイズを託す。ゼノがイズを庇うように前に陣取る。


「ハァァ、どりゃぁ──っ!」


具現化した大剣を振り下ろし、ライラが扉を破壊する。この混乱では、警報機が鳴ってもどこの警報かなんて推定できないだろうと、ライラは力任せに扉をどんどん破壊していく。

頑丈な扉が歪み、人が通れるほどの穴が開いた。


「通れるか……」


なんとか通れそうだと、ライラはゼノに振り向けば、ゼノが不満そうな顔をしていた。


「そんなんじゃ、ライたんおデブだから通れないよ」


プチっ、擬音にしたらたぶんそんな音。


「ッ、──んだと、てめえ!」

「ライたんが怒ったぁ~」


鬼の形相で怒られたゼノが、ぐったりと動かないイズをライラの開けた穴の中に押し込む。

続いて、慌てて自分も中に入る。

当然、ライラも少しきつそうではあったが、部屋の中に身体を滑りこませた。


「こっから脱出できたら、覚えてろよお子様」

「……だって、本当のことだもん」

「なんか言ったか、おい」


無理やり作る笑顔が怖い。ゼノはゾクゾクと背中を震わせながらも部屋の中心へ向かった。

台座のような場所に意味深な方陣が描かれたそこは、転送装置。

ライラはイズをそこへ置き、ゼノに視線を合わせた。


「さて、どうすれば動くと思うよ」


天界にある転送装置とは勝手が違う、ライラは稼働方法がわからないとゼノに知恵を求めた。いくつかあるスイッチと、鏡のような盤面。


「ん~とね、とりあえず方陣に入って」

「わかるのか?」


動作の方法を知っているのかとライラはゼノに問うが、ゼノはライラの背中を押して、イズのいる方陣の中へと詰め込む。

それから自分も方陣の中に入り、床に膝をついた。


「ライたん、あれ壊して」


唐突にゼノは装置のスイッチもろともを破壊しろと命じた。そんなことをしたら装置が壊れて使えなくなると、ライラはゼノの長い黒髪を引っ張った。


「おい、いい加減なこと……」

「いった、イタタ……、壊したら帰れるし、ここも使えなくなるんだってばぁ」

「なんだそりゃ」


確かにこの装置が壊れれば、しばらく地界からの刺客はこないかもしれないが、自分たちも戻れて、装置も壊れるなんて都合の話があるのかと、ライラはゼノの髪をさらに引っ張る。


「信じてよ、ライたん」


引っ張られる髪をなんとか引き戻しながら、ゼノがライラを見上げる。

ここで言い争っていても埒がないと、ライラは仕方なくゼノを信じることにする。


「信じていいんだな」

「当たり前でしょ」

「……わかった」


ゼノの言葉に、ライラは大剣を手にすると装置に向かって大剣を投げ飛ばし、装置に突き刺した。バチバチと電気の光が装置から溢れ出る。

と同時に、ライラが大剣を装置に向かい狙いを定めている中、ゼノは首から下げた雫を手にし、ライラには見えないように、聞こえない声をわずかに出す。


「……、が……封………」


方陣が光を帯びる。ライラは装置を破壊したことにより、作動したのかと大剣が刺さる装置をただ見ていたが、光に包まれた瞬間、その景色はガラリと変わった。



── 転送完了 ──






懐かしい風と香り、音がゼノとライラを迎えた。

心底疲れたと、ライラは地面に仰向けに寝転がり、ゼノもまた空を見上げて寝ころんだ。

その隣では人形のようなイズも仰向けに倒れる。


「森だな」


深呼吸するようにライラが、言葉を吐く。


「森だね」


ゼノもまた息を吐くように風に乗せる。

あんなに嫌気がさしていた森なのに、今はここがとても心地いいと感じていた。


「さてと、どうしたら戻るんだ」


深い深呼吸をしたライラがゆっくりと身体を起こして、今だ放心状態のイズに視線を走らせる。つられてゼノも身体を起こし、イズを覗く。



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