ステージ2『毒』(8話)
「貴様ぁぁ」
仲間をやられ、リーダー男が激怒してイズに突進してくる。普段なら避けることなど容易いはずだったが、折れた足がバランスを崩し、イズは男が繰り出した蹴りを腹に受けてしまい、地を滑り、木に背中から衝突。
「っ、……ぐ、ぁ」
口腔にわずかな鉄の味が広がり、イズは動けなくなるほどの激痛を感じた。ハンデありすぎだと、苦笑を含みながら手にしていた槍を地に落とす。手に力が入らない。
「ふん、ここまでだ」
立っているのもやっとのイズに近寄るリーダー男は、手にした剣を空高く振り上げるとイズ目掛けて振り下ろす。
諦めたわけじゃないが、イズはまったく命令を聞いてくれない身体を忌々しくも思いながらも、ここまでか、と血の味がする唇を噛み締める。
(あそこには、……絶対戻りたくなかったのに……)
元の世界である地界には、どうしても戻りたくないと、イズは強い憎しみを抱く。地界など滅んでしまえばいいとさえ思うほどに憎しみだけが溢れる。
「死ねッ」
俯いたままイズは、戻されると覚悟した。
ガッシャーン
だが、痛みは訪れず、代わりに金属がぶつかる音が響いた。
固く瞳を閉じていたイズが、その音にゆっくりと顔を上げて瞳を開く。そこに映し出されたのは、信じられない光景であった。
「……ゼ…ノ?」
イズが地に落とした槍を手にしたゼノが、リーダー男が振り下ろした剣を受け止めていた。
武器を持つことを嫌い、絶対に戦いをしないゼノが武器を手にしている。その光景があまりにも不自然すぎて、イズに恐怖を与えた。
全身が凍りついたように寒くて、震えが止まらないほど怖いと感じた。それはイズ本人でも理解できなかったが、ゼノが武器を手に戦う姿に、背筋が凍る感覚だけが身体を支配した。
「ぬぐぐ……貴様」
「イズたんは死なせない」
「だったら貴様が死ね、ゼノ=クロノム!」
交わっていた武器を自分の元へと引き、リーダー男は剣を頭上に再び振り上げると、ゼノに向かい思いっきり振り下ろす。叩き切ってやると力を込めて。
キーンッ
耳をつく金属の擦れる音が林にこだまする。
「なにっ、受け止めただと」
片膝はついたもののゼノはリーダー男の攻撃を頭上に持ち替えた槍で受け止めた。
「イズたんは死なせないっていったでしょう」
両者はそのまま力の押し合いとなる。力押しで剣を振り下ろすリーダー男に、それを必死に受け止めるゼノ。
が、ここで二人とは別の悲鳴が耳に入る。
「ぐぁぁ――」
「ああ――ッ」
唐突に聞こえてきた低い悲鳴となにかが倒れる物音。そして微かな血の匂い。
ゼノに切りかかっていた男が悲鳴のした方へ振り返れば、大男が大剣を地に突き刺して立っていた。
「うちのが世話になったな」
態度は冷静ではあるが、その声は怒りを含み、低いトーンがそれを語っていた。
「ライたん」
「ライラ」
ゼノとイズは同時にその男の名前を呼ぶ。
「残るはあんただけだ」
地に差した大剣を軽々しく肩に担いだライラは、目の前にいる男以外の者は全て片付けたと言った。
血の匂いと数名の低い悲鳴は、ライラが片付けた者たちのもの。全員天界へ送ったと。
「貴様はライラ=トーズ」
「へぇ、オレの名前知ってんだ」
「裏切り者は貴様だったとはな。恩を仇で返すつもりか」
天界でのライラを知るリーダー男は、不敵な笑みを浮かべてライラと対峙する。
「天界に恩なんかねえよ、……あるのは、」
そこまで言いかけたライラは、口を紡ぐ。恩があるとすればそれは一人しかいないと、懐かしい記憶を思い浮かべ、自分をここまで鍛えてくれたその人を思い出した。
「まあいい。ゼノ=クロノムを始末し、貴様を手土産にすれば私の名が売れる」
ゼノを始末し、裏切り者を捕らえれば、さらに名誉が加算されるとリーダー男は、止まらない笑いを見せた。
「くだらねえな」
名誉や地位などに拘ることが馬鹿々々しいとライラが、唾を吐く。
「貴様ごときが、この俺に勝てるとでも思っているのか」
天界にいた頃のライラを知るリーダー男は、ライラにはそれほど力もなく、しいて言うなら落ちこぼれにも等しいと認識していた。
「ああ、勝てるさ」
「自惚れるなよ」
「事実だ」
ゼノに切りかかっていたリーダー男は、その身を翻してライラに攻撃を仕掛ける。一瞬で片を付けると、加速し一気に攻め入る。
真正面から襲い掛かるリーダー男に、ライラは臆することなく大剣を構えて迎え撃つ。
互いの攻防は一瞬。
激しい金属音が一度響けば、リーダー男が地に倒れた。
「ぐぬぅ……なぜだ。……なぜ私が……貴様などに……」
最後の力を振り絞り、リーダー男がライラに手を伸ばしながら問う。
自分が負けるはずなどないと。
ライラは倒れるリーダー男の真上に立つと見下ろしながら、
「弱い、強いは関係ない、ようは自分がどこまでやれるかだろ」
と、強く答えた。
「……自分がどこまで」
「手を……オレなんかの手でも離したくないんだとよ」
小さく囁いたライラは、リーダー男の元へとしゃがみ込むと声を潜めた。
「だからオレも離したくねぇんだ、その手を」




