ステージ2『毒』(7話)
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静かな森は不自然な音に満ち、煙までもが立ち昇っていた。
耳を塞ぎたくなる轟音が、花火でないとするならばそれは、
「爆薬ってありなの!」
ゼノが口にしたとおり、爆弾のほかなにものでもない。
土石が舞い上がりゼノの視界を奪う。
「――ッ」
気配を爆音に消され、ゼノは無数に飛んでくる矢を避けきれずに、全身に切り傷を受けた。
刺さりこそはしなかったが、矢の先についた刃物で切り傷を無数につけてしまった。
服が破れ、切り傷からは多少なりとも血が滲む。
「……血、……」
ゼノは僅かに流れた血に、目を細めて嫌悪感を露にする。争いを好まないゼノはその赤い血にゾクリとわずかに背を震わせ、そっと指で血を拾うと、「こういうの嫌いなんだけど……」と一人低く呟いた。
その姿は普段のゼノとは違う、冷たさの漂う大人の姿だった。
「出て来いゼノ=クロノム。貴様はもう逃げられない」
身を潜めていた木はすっかり相手に囲まれ、完全に包囲したと地上から武器を向けられる。ここを動いても動かなくても、ゼノの命を奪う事には変わりはないが、相手はゼノに姿を見せるように指示を出す。
「逃げ道がないなら、作ればいいでしょう」
完全包囲していた相手の背後に声が降る。
「誰だっ!」
「飛び入り参加です」
「イズたん!」
背丈よりも長い槍を手に、少々足を引きずりながら姿を見せたのはイズその人。まだ戦闘などしていないというのに、イズはすでにボロボロではあったが、その瞳は強く輝いていた。
「爆薬とはまた派手な演出ですね、でもそのおかげでここがわかりました」
爆音と煙のおかげでイズは林の中を無駄に彷徨わずにすんだと笑みを返す。
さすがに草木がお生い茂る林のなかで気配を探るのは容易ではない。それに関してはひとまず感謝したいと。
「仲間か」
舌打ちを含み相手がイズを見る。
「楽しそうですね。ボクもぜひ参加します」
「そんなにボロボロで参加するつもりか。大人しくお家に帰った方がいいんじゃないか」
「お気をつかってもらってすみません」
会話は穏やかであるが、その言葉にはあきらかに殺気が込められ、互いは怖いほどの笑顔を交わしていた。
確かに相手のいうとおり、イズは戦闘開始前からすでに大怪我を負っている状態。まともにこの人数を相手にできるとは到底思えない。
「私たちの目的はゼノ=クロノムただひとり。貴様ではない」
「邪魔をしなければボクは見逃すってこと」
「そうだ。命が惜しかったらそこで大人しくしていることだな」
そういうと相手は、頭上に隠れているゼノの方へとゆっくりと歩み寄る。
この木を倒木してゼノを地上に落とすか、それとも地上から一斉攻撃をするか、相手は勝敗は見えたと、口元を歪めた。
ゼノ=クロノムを始末できれば、自分の名誉も地位もあがる、男は一瞬にして英雄になれると、笑みが止まらない。が、そんな男の背後でクスクスと笑う声が響いた。
「……ボクを見逃す? ねえ君たち、なにか勘違いしてない」
何がおかしいのか、イズは笑いが止まらないと一人で笑っていた。この状況でなぜ笑っていられるのか、男はゼノに向かう足を止め、ゆっくりと振り返ると、細めた瞳で刺すような視線を見せた。
「なにがおかしい」
問いかけられたイズが真顔になる。
「ゼノに手をだして、ボクが見逃すと思うの」
「なんだと」
「このまま大人しく帰ってくれるなら、ボクが見逃してあげてもいいんですよ」
再び不適に笑ったイズは近場の木に背をあずけ、余裕をみせる。負けることなど決してないと。
どうしても守りたいと願ってしまった。願いはなによりも強い力になると知っている。それを教えてくれたのはゼノであり、ゼノに会えたからこそ今がある、自分の全てを変えてくれたのはゼノなのだと、イズは笑う。
はじめから諦めてしまったら、その手を離すことと同じ。
やるだけの、できるだけの悪あがきをして、後悔して惨めに生きていくような結末を迎えないようにする。
自分に後悔のない人生にするんだと、イズは心に決めていた。
「見逃してもいいだと。ふざけたことを! そんな身体でなにができる」
「試してみましょうか? なにができるのかを」
もたれかかっていた木から離れたイズは、右手の槍を構えて体勢を戦闘モードへ。
(マズイかな……左足折れてるかも)
体重をかけたときに走った激痛に、イズは今更ながら自分がひどい怪我を負っていると自覚した。全身が軋む感覚、少しでも気を抜けば痛みが全身を襲うだろう。
「そんなに死にたければ望どおりにしてやる」
挑発された相手が、標的をゼノからイズへと変更し襲い掛かった。
正面からリーダー男の剣が振り下ろされ、間一髪でイズがそれを止める。
そしてその背後からまた別の相手がイズに切りかかり、正面の相手の攻撃を受け止めたままイズはその場にしゃがみ込み、その攻撃を避ける。
すぐさま体制を整え、受け止めた攻撃を力で押し返し、イズは槍を地で薙ぎ払う。背後から襲い掛かった相手が数人薙ぎ払いを食らい地面に投げ出される。
「……ッ」
飛び道具がイズを襲う。遠方から狙われたイズに弓矢が掠る。それでもイズは迷うことなく真っすぐに相手へ飛び込むと、次の矢を準備する隙を突いて二人を槍で倒す。
鋭く光る槍の先が、弓を構えていた男二人の胸元を鋭利に切り裂き、
「グワァ……」
うめき声のような鈍い声が耳を一瞬掠めたが、次の瞬間には弓の男は二人ともその姿を消す。
地面に血飛沫の痕だけ残して、天界へと転送された。




