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ステージ2『毒』(6話)

「……オレは、どっかの携帯ゲームかよ」

「あの2人は戻ってくる」


老人は自信たっぷりにライラに告げた。なんの根拠もないが信じられた。



ガタン



ライラが耐えきれずその場で崩れた。壁に背を預けたまま床に座り込む形で体勢を崩したのは、全身から力を抜いたためである。

細い呼吸をしながら、


「これ以上妙な名前で呼ばれるのはごめんだ」


片膝を立てて苦しい顔を隠しながらライラはその場で大人しくなった。

あの二人を信じて待つことに決めた。


「水飲むか?」

「頼む」


老人が水を汲みにいく後姿を眺めながら、床の冷たさにライラは思わずその場で倒れたくなった。きっとこのまま床に倒れてしまえば楽になるのかもしれない。

ふと、このまま……と、諦めの考えが働く。

毒が脳にまで回ってきているのか、今ライラの精神を保つものは強い意思のみだけである。

戻ってくる、それまでは耐える。ライラは信じて精神を強く持つことに全神経を集中させた。

老人から水を受け取り、一気に飲み干すと唐突にドアが開く。


「――っただ……いま」


息も途切れ途切れで、ズタボロのイズがドアに姿を現した。


「イズ! お前ボロボロじゃねぇーか」

「帰り道でちょっとドジっちゃってね」


軽く笑いながら答えるイズだが、とても笑っていられるような状態ではないことくらい見ただけでわかる。

服はあちこち破れ、擦り傷、切り傷で血があちこちで滲み、おまけに紫に変色した打撲の痕までしっかり確認できる。

けれど、イズはそんなことよりも袋にいれてきた草を急いで取り出す。


「おじいさん。クロネ草ってこれ?」

「あんた本当に……」

「間に合うっていったでしょう。それよりも」

「ああ、そうじゃこれじゃよ。今煎じてやるから少しまっとれ」


老人はイズが差し出した草を奪い取り、奥へと駆け込んでいった。

それを見送ったイズは安心したのか、その場で片膝をつく。


「ちょ、おいイズ」

「全力で走ってきたから疲れちゃっただけです。それよりも元気そうでなによりですよライラ」

「人の心配してる場合じゃねえだろうがっ!」


膝をついたことでイズとの距離が縮まり、体中の傷が手に取るように把握できた。大きな傷だけじゃなく、細かい傷も無数にあるのがわかる。


「ぁはは……登りよりも下りの方が難しくてね、ちょっと落下しちゃいました」

「お前のちょっとはだいぶだろうが」


頭を抱え込んでライラは視線をイズから反らす。自分のために大怪我を負ったイズをこれ以上見ていられなかった。


「早くこれを飲むんじゃ」


湯気が立つ小さな器を持ってきた老人は、大急ぎでライラに器の中身を飲むよう勧める。

苦々しい香りと草という独特のにおいが鼻をつく。

色は深緑というよりも黒に近いその液体は、おせじにも食べ物だとは認識したくない代物。

ライラは固く瞳を閉じると一気にそれを体内へと流し込んだ。


「……ぅ、グ」

「ライラ?」

「うぐ……吐きてぇ」


あまりの不味さにおもわず口を押さえたライラは、吐き出せるものなら今すぐにでも吐き出したい衝動にかられていた。

苦いとか草っぽいとかそういうレベルじゃなく、ほとんど腐っているような味がしたのだ。例えるなら、煮詰めた草を一年くらい放っておいたようなそんな感じだ。

隣にいたイズもまた、漂ってくる香りに鼻を押さえながら顔を背けた。薬は処方した、ひとまずライラの方はこれで安心。


「さぁてと、ライラはもうしばらく大人しくしててくださいね」


あちこちについた土や砂を払いながら、イズがボロボロの身体で立ち上がる。


「イズ、そんな身体でどこいくってんだ」

「鬼ごっこに参加するんです」

「鬼ごっこ?」


話の糸が見えない。

が、ライラはここでお子様の姿がないことに気づかされた。

てっきりイズと一緒にいるものだと思っていたはずのゼノの姿が、どこにも見当たらない。

つまり鬼ごっこと称する何かを先に始めているのはゼノ。


「オレも……」

「ダメですよ。せっかくボクが命がけで行ってきたんですから、せめてもう少しだけじっとしててください」

「だが」

「ボクの苦労と好意を無駄にするつもりですか」


鋭い視線と低い声色がライラを射抜く。

冷たく凍るような視線はイズの本気であり、優しさ。

ライラには突き放すような言葉や行動でなければ通じないと知っている、だから、イズはあえて殺気めいた雰囲気を醸し出す。

しかし、イズは同時にライラを落ち着かせることも忘れない。


「大人しくしていないと、ボクも今度からライっちって呼びますよ」

「それだけは勘弁だな」


額に手をあてライラが苦笑した。


「飛び入り参加は大歓迎ですよ」

「捕まんじゃねーぞ」

「あれ、知りませんでした? 鬼ごっこはボクも得意なんです」


出て行こうといたイズがそう言いながら振り向く。

その顔は穏やかに微笑んでいて、眩しいくらいだった。

だからライラも片腕をあげると笑顔でイズを行かせた。すぐに自分も参加すると伝えて。



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