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ステージ2『毒』(5話)

「うわっ!」


問答無用で襲い掛かってきた相手に、ゼノは大きく空に向かって飛び上がると、近場にあった木の上に逃げる。

飛脚力だけは人を超える。

高い木の上に上がったゼノは、そのまま木々を渡って逃げ、それを天界人が地上から追いかける。


「逃がすな!」


さらに号令がかかり、8名は一斉にゼノに向かって攻撃を仕掛ける。一方、全然会話ができないゼノは少々むくれたまま、


「話し合いって言葉知らないのぉ、まったく僕の嫌いなタイプのお客さんって、わっ」


独り言で文句を言ったゼノに、地上から飛び道具が放たれた。

問答無用の攻撃。間一髪でそれを避けたゼノは、益々頬を膨らませて、もっと高い木へ飛び移る。


「……もうっ! 鬼ごっこに武器は卑怯だよ」

「あそこだ。狙え、狙えぇ~」

「絶対に捕まってあげないんだからッ」


容赦なく襲い掛かる無数の矢やナイフに、ゼノはむくれたまま林の中を逃げ回る。

弓矢で放たれた矢がゼノの頬を掠め、魔力の込められたナイフが足元を狙う。本当ならこんな相手、無視して逃げることなど簡単なのだが、今は囮なのだ。

イズやライラの元へ向かわないように、常に注意を向かせて行動しなければならなかったため、ゼノは不本意ながらも攻撃を完全に交わすことができず、わずかな切り傷を負う。


「もうぉ~、可愛い顔が傷だらけになっちゃうよ」


かすり傷を受けたゼノが、冗談なのか本気なのかわからない台詞を吐く。

1人対8人の鬼ごっこは始まったばかりだ。






◆◆◆

見上げるそれはまさに壁。


「ロッククライミングは初挑戦なんですけど、命綱なしですか……」


頂上を確認しながらイズが乾いた笑いと冷たい汗をかく。


「ここから落ちたら自分の世界には戻されないですよね。不自然な死じゃないし」


自動転送は不自然な死を迎える時だけ。つまり、自然災害や事故で命を落とすと自分の世界には戻されない。どういう仕組みなのかは不明ではあるが、それが世界の掟。

言い方は悪いが、誰かに殺されたり、自害すると戻され、事故や寿命では戻されない。その分かれ目は今だ解明されておらず、戻されるものと戻されない者が存在することだけははっきりしていた。

そんなことを頭の片隅に思い浮かべながらも、イズは崖に足をかけた。

下を見れば最悪の事態を考えてしまう。だから、下は見ずにイズはひたすら上だけを見て登っていく。

想像以上に崩れやすい地表、安全な岩や手や足を掛けられそうな場所を探りながら、慎重に登る。時より、ガラガラと崩れる地肌に背中をゾッとさせては、イズは慎重に足場を選ぶ。


「1日、3160~。……ボルタリングでも習っておけばよかったですかね」


それほど腕力にも身体能力にも自信がなく、先日見かけた広告の『スポーツに自信のないあなたでも、すぐに始められる体力づくり!』のキャッチコピーを思い出し、こんなことになるなら通っておけばよかったと、イズは苦笑いを浮かべた。

崖に生える数本の木が救いとなり、イズはその木にロープを括りつけながら、最悪途中で落下しても下まで落ちないように布石を置く。徐々にコツを掴み、


「案外、こういうの得意だったりして……」


ロープを器用に使いこなし、確実に登っていく自分を褒めてみた。

足場の見極めも、掴む場所も、登り始めの頃に比べたら断然判断がつくようになり、イズはふと妙なことを思いつく。


「今度、インストラクターでも始めようかな」


自分で言って苦笑したイズは、かなりの高さまで上がってきた恐怖を紛らわせるかのように、独り言を呟きながらさらに上を目指した。






「くっ……はぁ、ぁ」


その頃、荒い息を繰り返しながらうなされていたライラが、不意に意識を取り戻した。

言いようのない胸騒ぎがしたから。


「あんたなにしてるんだ!」


ベッドから起き上がってフラフラと家を出て行こうとしていたライラに、老人が怒鳴り声をあげた。

顔色は青紫に近く、びっしょり汗をかいたまま、壁にもたれかかりながらやっとのことで立っている状態。

そんな状態のまま、一体どこへ行くというのか、老人はライラに駆け寄り、大人しくしておれと叱る。

だが、ライラは外に視線を向けて、苦虫をかみ砕いたような顔をしてみせた。


「嫌な予感がする」

「そんな状態で動けば寿命を縮めることになるぞ」

「ああ、わかっている」


苦く、苦しい表情を浮かべたままライラは重たくドアに手をかける。

立っているのもやっとのはずなのに、どうしても出て行こうとする。

そんなライラの目の前に、老人は行く手を阻むように立ち塞がった。


「あんたを行かせるわけにはいかないんじゃ」

「どいてくれじいさん。オレは待つのが嫌いなんだよ」


そこをどかないというのなら、なぎ払ってでも出て行くと、ライラは無言のまま老人に刺すような視線を送った。鋭く光る眼光は老人を金縛りにできるほどの威力があった、しかし、老人は臆することなくライラの前に立ち尽くしたまま動こうとはしなかった。

それは、先に出て行った2人との約束のため。


「あの2人に頼まれたのじゃよ。あんたを頼むと」

「ゼノとイズか」

「必ず間に合うと言っておった。それに黒髪の男から伝言を預かっておる」


黒髪とはゼノのことだろう。

ライラは崩れてしまいそうな身体を壁にあずけたまま、ゼノが老人に預けたという伝言に耳をかす。


「大人しくしてないと今度から“ライっち”と呼ぶと言っていたぞ」



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