特別編『真実の鏡』(74話)
「どういうことだ」
圧倒的な力の差を見せつけられたセラム。そのセラムとイズが兄弟、ライラには信じられるはずもなかった。力の差は圧倒的、それに似ても似つかない容姿。どう見ても他人だろうと。
特段気にもしなかったイズの過去だが、わずかに知ってしまった事実に、ライラはありとあらゆる推測を考える。
自分がいるのは地界で間違いはないだろう、天界とも間界とも空気が違うと感じた。それならゼノは無事だろうと考えられた。地界はゼノの力を狙っているはずなのだから、きっと今頃その力を悪用しようとしているに違いないが、あのお子様の力などお手伝いにも使えないだろうと。
だが、何の利用価値もないと判断されれば、解放される? いや、そんなことは天地がひっくり返ってもない、となれば、
「……殺されるか」
ライラは眉間に皺を寄せ、最悪の結果を予想した。
それにイズは一体何者なのか。ライラは考えることが多すぎて思考回路がパンク寸前であり、ふと頭上を見上げた。どこまでも続きそうな真っ暗な空洞。
「人の事心配してる場合じゃねえな……はは、オレも抹殺されるか……」
二人の身を案じたいが、監禁拘束されている自分の身だって危険極まりない。最悪の事態を想像し、ライラは苦笑いを浮かべ、「さて、どうするか」と逃走の計画を必死で考え始めた。
初めてきた訪れた地界、状況も場所も何もわからない場所で一体どこへどう逃げれば助かるのか、それすら分からず、むやみにここを抜け出たところで、死が待っていると理解できるだけに、次の行動に移れないことに苛立ちと虚無感を覚えた。
「ここで死んだとして、天界に返還されてもオレは罪人で監禁……、だよな」
ははは、と乾いた笑いを浮かべたライラは、どちらに転んでも状況は対して変わらないだろうと、益々八方塞がり状態であることを実感。
「……別れくらいしたかったよ、な」
ゼノとイズにせめてお別れくらい言いたかったと、ライラは力なくその場に項垂れた。
自分はなんて無力なのだろうかと、後悔を込めて。
◆◆◆
その頃、城の研究所ではゼノの身体検査が行われていた。
ライラとイズを人質にされ、ゼノは仕方なく大人しく検査を受けていた。
「どうだ」
研究室に入ってきたラビンは博士に声をかけた。世界が生んだもの、それは一体どんなに強いのかと、ラビンは好奇心を抑えながら静かに佇む。
強いものと戦うことが楽しいと感じるラビンは、許されるならゼノと一戦交えてみたいと願うが、地王がそれを許さないだろうと、せめてその強さだけでも知りたいとここへ足を運んでいた。
が、しかし、研究所の博士から出た言葉は耳を疑うものだった。
「それが、……何もないのです」
「何もない? どういう意味だ」
「一般人と何も変わらないと言いますか、普通の者たちよりも力が劣ります」
バンッ
博士の回答に、ラビンは机を蹴り上げた。
「そんな訳ないだろう! ちゃんと調べたのかっ!」
世界から生まれた者が、なんの力もないなどありえない。ラビンは調査結果が間違っていると声をあげる。それかまだ検査が足りていないと声を荒げた。
「す、すみません。もっと詳しく調査いたします」
ラビンに怒鳴られ、博士や研究員たちが慌てて調査の続きを再開する。何か見落としてないかとデータ結果を再調査。
そして、ラビンは大人しく台の上で寝ているゼノに近づいた。
「貴様、力を隠しているのか」
真横に立ち、その苛立ちをゼノにぶつけるが、ゼノはゆっくりと身体を起こすとラビンと向き合う。
「隠してなんかないよ」
「なら力がないとはどういうことだ」
「僕はハクコクジュから生まれただけ、そんな力もらってないよ」
真剣な眼差しで答えたゼノの胸倉を掴み上げたラビンは、そんなはずはない、と、鋭い視線を送った。
世界を創生したハクコクジュが生み出した者が、何の力も持たずにいるなど考えられる訳がない。力も受け継がず、ただ生み出されたのだとしたら、一体何のためにゼノは生まれたのか、生み出されたのか、ラビンは自然と険しい表情になる。
「……チッ、なら貴様はなぜ生まれた」
「そんなのハクコクジュに聞いてよ」
「なんだと」
「僕だって、その理由を知りたくてハクコクジュを探してるんだから」
ラビンの質問にとんでもない答えが返り、ラビンは掴み上げた胸倉をさらに強く締めあげた。ハクコクジュから生み出されたのに、ハクコクジュを探しているだと、そんなふざけた話信じる方がどうかしている。掴み上げたゼノを床に投げ落とし、ラビンはゼノの背中を踏みつけた。
「覚醒が必要か……」
おそらく封印でもされているのではないかと、ラビンは冷たくゼノを見下ろす。
「徹底的に調べろ」
背後にいた研究員たちへラビンはそう言い捨てると、踏みつけた足に力を入れ、ゼノを床に押し付けた。
「……ぅ……っ」
「貴様の力、必ず暴いてやる」
不敵に笑ったラビンは、精々足掻いてみればいいと見下しながら、足をグリグリと動かしゼノを床に擦りつけ、研究室を出ていこうとした。後は研究員たちに任せると無言の圧をかけて。
が、扉が開いた瞬間、ラビンは唐突に足払いを受け、床に倒された。




