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特別編『真実の鏡』(73話)

「僕はイズたんが話したくなったら聞くよ」

「……ゼノ」

「だって、イズたんはイズたんでしょう。何を聞いたってそれは変わらないもん」


ゼノは何を聞いても、イズという人物はそれ以外の何者でもないと笑った。だからそんなに無理に話す必要はないのだと、ゼノは静かにイズに手を差し出す。


「ライたん、助けるんでしょう」


人質に取られてしまったライラを救うことが先決なのだと、ゼノはイズを立ち上がらせる。


「ええ、ライラは絶対に助けます」

「じゃぁ、約束」


小指を差し出したゼノに、イズも小指を絡ませた。


「約束します」


二人はセラムに誘導され、地界へと転送された。






◆◆◆

間界とは異なる薄暗い世界、地界。


「そんなに怖い顔しなくても大丈夫よ、お友達は地下で生きてるわよ」


地界へと転送される瞬間に、イズはセラムにより意識を奪われ、気がついた時には昔使っていた自室に閉じ込められていた。

地界を一望できる魔王の城の一室。ここがイズの自室であった。服装も以前身に着けていた正装に変わり、その風貌は王子様と呼ばれるに相応しかった。


「ゼノはどこです」

「研究所よ、まだ大した結果はでていないけれど」

「ボクはここへ戻った、ライラは解放してください」


もうライラには用はないはずだと、ライラの解放を要求するがセラムは笑みを浮かべ、


「もうしばらく保険は必要でしょう」


イズがまた逃げ出すかもしれないと、嫌味を述べた。


「……」

「お父様には、仲間と見せかけて油断させ、いずれ地界に連れてくる予定だったのを、私が邪魔をしてしまったと言っておいたわ」


イズが姿を消したことで、多少の混乱を招いたことに対して、セラムが都合のいいように話をつけておいたと話す。

お父様と呼ばれた人物は地界の王、アセトビノス。そしてイズとセラムは正統な子供であった。地王には5人の子供がいるが、4人は女の子であり、男の子はイズただ一人。それに5人は兄弟ではあるが、母が異なり血は繋がっていない。


「ふんッ、正直に裏切り者だと言えば良かったじゃないか」


セラムの背後から姿を現したのは、騎士のような恰好をした4番目の姉ラビンだった。髪も短く、容姿は完全に男そのものである。女性であることを嫌い、男に混じって鍛錬や狩りに出かけるほど腕は確か。


「ダメよ、後継者はこの子しかいないのだから」

「忌々しい」


そう言ったラビンは、イズの胸倉を短剣で切り裂く。イズの胸元の上部が外気に晒され、ラビンがそこに手を近づけると眩しい輝きを放つ魔法陣が現れ、イズに触れることを許さないとばかりに力を開放させた。

バチバチと静かな音がし、触れようとした者の手を焦がす。


「止めなさい」


ジリジリと焼かれながら魔法陣へ手を押し進めようとしたラビンに、セラムがその手を掴む。軽い火傷のような跡が手に残る。


「深入りしてはダメよ。消滅するわよ」


セラムはイズから放たれる魔法陣に長く身を投じれば、その身を消滅させてしまうと警告する。イズに施された魔法陣、それはその封印を解こうとするものを塵へと変える呪いが施されていた。


「くそっ、あの女、余計な事しやがって」


そう言い捨て、ラビンは部屋を乱暴に出ていく。


「あの子はガサツでいけないわ」


落ち着いた様子で言葉を出すセラムは、ラビンの後を追うように部屋の出口へと向かう。


「お友達の運命はあなた次第よ、王子様はここで大人しくしててちょうだいね」


そう言い残して、セラムは静かに扉を閉めて部屋を出ていった。残された部屋でイズは床に崩れ、曝け出された胸元をグッと握り締めた。

亡き母がイズに施した魔法陣は、地界の王の力を引くイズの能力を封印するもの。悪用されないように、イズを普通の子供として育てたかったそれは母の愛情でもあった。

この封印が解かれない限り、イズは地王の力を持つこともなく、またその力を受け継ぐこともなく、母が願った通り普通の人として生きていける。


「母さん、ボクはどうしたら二人を助けられますか」


イズは嫌われても、軽蔑されてもいい、ただ今は二人を助けたいと心から願った。






◆◆◆

一方、地下に監禁されているライラは、両手、両足を鎖で壁に繋がれ完全に自由を奪われていた。セラムにやられた傷が痛んだが、時間が経ったせいか随分マシにはなっていた。


「……ちっ、どうなってやがんだ」


気がついたら薄暗い場所で監禁され、ゼノとイズの姿もない。記憶もセラムの攻撃を受けたところまでしか覚えていない。

それでもライラは忘れられない言葉が頭を離れない。



『お姉さま』



イズが発した言葉に、ライラは眉間に皺を寄せた。



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