特別編『真実の鏡』(68話)
こちらは、ちょっと寄り道の特別編になりますので、本編などを読んでいないと不明点が生じます。
※ご注意:流血や暴力的シーンが含まれます。
── もし願いが叶うのなら
ボクは全てを壊したかったんです ──
緑、緑、緑、どこを見てもそこは新緑鮮やかな森の中。
相変わらずの3人は今日も森の中にいた。
「10日目」
鬱蒼とした獣道を歩きながらライラがぼやく。
深い森に迷い込んでしまい、3人はこの森ですでに10日の時を過ごしていた。
「しかたないですよライラ、地図でもかなりの広さが確認できますから」
「にしたってなこの広さは犯罪だ」
「だから森に入る前に言ったじゃないですか、覚悟してくださいよって」
「それはイズ、お前がその先にめちゃくちゃでけえ街があるって言ったからだろう」
歩く足を止め、ライラとイズは顔を見合わせて出先の会話を思い出す。
「この広大な森を抜けられれば、おそらくこの大陸5本の指に入るくらい大きな街にでます」
「マジかそれ」
「そこならハクコクジュに関する情報が聞けるかもしれませんね。古代文献もたくさん保管されてそうですし」
「よっしゃぁ、そこ行くぞイズ」
「行くぞって、この森ハンパなく広いですよ。行くのは構いませんが、覚悟してくださいよ」
「平気、平気、森なんてもう数え切れねえほど見てきてんだ、よし、起きろお子様行くぞ」
軽はずみな行動は慎む。
10日目、ライラが身をもって教えられた教訓であった。
しかもイズはしっかり『覚悟してください』と口にしている。言い返したくても言い返せないライラは渋々とまた歩き出す。
が、ここであるべきものがないことに気づく。
いつもならここぞとばかりに、口を挟んでくるはずの人物の姿がない。
「イズ、お子様は?」
歩き出した足を止め、ライラが辺りを見回すがその姿はどこにもない。
「確か1番後ろを歩いていたはずなんですが」
「最後に見たのはいつだ?」
「えっと、さっき休憩をとったときにはいましたから、1時間くらい前でしょうか」
ライラが振り返った後方をイズも眺めながら足を止めた。
見える範囲に姿が確認できなく、足音さえ聞こえてこない。
考えられる可能性は2つ。普通に迷子、それから良くないアクシデントに見舞われたかのどちらかだろう。
だた、一切の声を耳にしていないことから迷子と考えるのが妥当であるが。
「ったくあいつは団体行動って意味知ってんのか」
「たぶん知りませんよ。でもある意味世界はゼノ中心で回っている、が正しいかもしれませんしね」
「やっぱオレにはまだ理解できねぇな。世界の考えてることなんざ」
赤茶色の短髪を片手で掻き毟りながらライラはため息混じりにそう口にした。
そしてイズもまた浅いため息をつく。
世界が生んだ者。その名は『ゼノ=クロノム』
天界、間界、地界の3世界は、ハクコクジュと伝えられるものが創造し創りだした世界。そのハクコクジュが今になって自ら創造した世界に一人の男を生み出した。
世界の力を手にして生まれたとされるゼノは、世界の破滅を導く者とされ、天界からは抹殺の命がおり、また全ての力をもち、どんな望も叶えられるとされ、地界からは追われる身となっている。
だが、実際は世界が生んだ者は、見た目20歳過ぎの精神年齢が非常に低いお子様であり、その目的はまだ誰も知らない。
「とにかく日が沈む前に探さないと、ゼノのことですからどんどんどこかに迷い込んでしまいますよ」
好奇心旺盛で、じっとしているのが嫌いなゼノの性格をわかっているからこそ、イズは来た道を急ぎ足で引き返す。
「見つけたらぜってえ首輪つけるぞ」
「完全にペット扱いですね」
走るイズの後を追いながらライラは断言する。
これ以上手間がかからないようにするための、いわゆる得策というやつである。
耳を澄ませ、わずかな音も聞き逃さないように2人はひたすら道なき道を戻った。
どれほど戻ったのだろう、ふと耳に声が飛び込んできた。
「ごめんなさい」
聞き覚えのあるゼノの少し高い声。
しかもライラはフツフツと湧き上がる苛立ちを感じずにはいられなかった。
たいていゼノが自分たち以外に謝っているときは、十八番の土下座をしているからだ。
どこから引っ張り出してくるのかは謎だが、愛用のゴザを敷いて敵に命乞いをするのがゼノの行動であり、本心でやっているからまた腹がたつのだ。
実際ゼノが本当に強いか弱いかはまったくわからない、だがそんなことはライラにとってたいした問題ではなく、その行為自体がみっともなくて、情けなく、男として勝負をする前から完全に降参しているその姿が腹立たしくてしかたがなかった。
だから
ドカッ
「てめぇは何度言ったら覚えるんだ!」
ライラは容赦なく怒りの鉄拳をゼノに浴びせる。
当然殴られたゼノは頭にコブをつくり、泣きながらいつものあの人に泣きつく。
「イズたぁ~ん、ライたんがいじめるぅぅぅ~~~~~」
泣きつくゼノを優しく抱きしめて、撫でてあげるのがイズのいつもの役割。よしよしと頭を撫でながら慰めるのはすでにしごく当たり前の光景となっていた。
イズたん、ライたん、これがゼノの名前の覚え方であり、語尾に『たん』をつける癖をもつ。
まるで幼い子供をあやすように、イズはそっとゼノの頭を撫でながら毎度のため息をつく。
「ほんと学習能力がないというか、ライラに殴られるってわかっててするんですから、ゼノは……」
「ううっ……だって……」
飽きもせず繰り返すゼノの行動には、それなりの訳がないわけではないが、やはりイズにとっても勝負する前から土下座していきなり命乞いは、仲間としてもいい気分がするものではない。
自信過剰だといわれるかもしれないが、ライラもイズもけして弱いわけではない、それを知っているはずなのに、ゼノは敵意を持った者が現れればところかまわずに命乞いである。




