【外伝】(67話)
怒りが沸々と沸騰をはじめ、胸倉を掴む勢いでゼノを問い詰めようとしたその瞬間、隣から光が視界に入った。
「そういうことですか」
どこから取り出したのか、イズはいつの間にか槍をしっかりと手にしていた。
「どういうことだ」
「どうやらボクたちの武器は、必要な時にだけ出せるようになったみたいですよ」
「はぁ?」
言われた意味が分からないと、ライラは眉間に皺を寄せてイズを見る。もっとわかるように説明しろと視線を送る。
「イメージですよ。自分の手に武器をイメージすればそれが形になるんです」
そう説明されて、ライラは自身の手に大剣をイメージする。
「これは……」
大剣を手に思い描けば、大剣がその姿を現した。重さも手になじむ感触も変わらない、自分の武器だと実感する。
「随分と便利になりましたね」
出現させた槍を今度は霧のように消したイズが、まるで魔法のようだと楽しむ。
自由自在に武器を出現させられるようになったことに、ライラは何度もそれを試す。『武器、嫌いなんだもん』と言ったゼノの台詞を思い出したライラは、どこかその仕様に納得した。
おそらく、ずっと武器を見ていたくないのだろうと。
不思議な力を見せられ、ライラはやはり何か持っている、そう睨んでゼノを見ようとしたのだが、ここでイズの声が飛び込んだ。
「ゼノ?!」
血相を変えたイズがゼノの元へ急ぐ。見ればゼノがその場でぐったりと倒れこんでいた。
優しく抱き起こして、呼吸をしていることに安堵する。どうやら疲労と怪我、もしかしたら何かしらの力を使ったことで意識を失っただけのようであった。
「無茶しやがる」
そっと抱きかかえるイズの元へ向かい、ライラは静かに声をかけた。
町まで2往復し、そのうえ怪我して出血。いままで意識があったほうがむしろ奇跡。
「とにかく休ませないと」
「ああ、ここに寝かせろ」
自分の着ていた服を地に広げ、イズにゼノをそこへ寝かせるように指示する。
それから今夜はここで野宿になると察したライラは、ゼノの看病をイズに任せて薪になりそうな木の枝などを探しに行き、夕暮れ時にはなんとか焚火を熾せていた。
途中、ゼノが差し入れをしてくれた食料も取りにいき、とりあえず夜を明かす準備は万全となる。
「様子はどうだ?」
「大人しく眠っていますよ」
「そうか」
静かな寝息を立てているようなゼノを見ながら、イズはそっとその前髪を払う。
あのまま冷たくなってしまのではないだろうかと、最悪の結果を考えてしまっただけに、イズは呼吸が聞こえることが何よりも嬉しかった。
「こうしてると、本当に子供みたいですね」
あどけない顔で眠るゼノを見ながら、イズがクスリと笑った。
意地悪を言ったり、悪戯したり、大声で泣き出したり……、子供と変わらない。
それに、ちゃんと怪我もするし、血も流れていて、体温もあり、心臓も動いている。人と変わることなんかどこにもなかった。
「さて、これからどうしましょうか、ボクたち」
焚き火の番をしているライラに視線をあげ、イズがその質問をする。
「なるようになる」
答えはすぐに返された。
「なるようになる……ですか」
「オレは一人手にかけちまったからな、今更天界には戻れない」
天界人を天界に送ったということは、ライラの裏切りを意味する。それはもう天界には戻れないということ。
こうなったら成り行きに任せるしかない。
「ボクも願いは叶わなくなってしまいましたし、地界に戻るつもりもないんですよね」
「だったら、自分がどうしたいかだろう」
「それじゃ、ご一緒させてください」
イズはライラに手を差し伸べた。
出会ったときに無視された手をもう一度。
「どうなっても知らねぇぞ」
吐き捨てるような台詞をいい、ライラはイズの手をパンッと音をたてて掴んだ。
「今更ですが、ライラよろしくお願いしますね」
「ああ、オレもな」
互いはクスクスと笑った。
新しい何かが始まる予感。
「で、とりあえずこの森を出ようと思うんですがどうでしょうか?」
「名案だなそれ。いい加減森はあきた」
「ゼノもこの森に目的はないと言っていましたし、どこかのんびりと暮らせるところでも見つけましょうか?」
イズは3人でのんびりしたいと提案した。ゴツゴツした地面ではなく、あたたかな布団で眠りたいとも加えて。
「おしゃけぇぇ~~~~~~!」
「?!」
「――っ?!」
後ろで眠っているはずのゼノの声が聞こえ、二人は同時に振り返る。
だが、ゼノはスースーと寝息をたてて眠っていた。
「寝言……ですかね」
「みてぇだな。にしても、今のって酒のことだよな」
「飲むんですかねゼノって?」
どうみてもお酒を飲むようには見えない。イズは苦笑いを浮かべて眠るゼノを見る。
本当にあどけない子供のような寝顔。しかも涎まで出ている。イズはやれやれと思いながら近づいてそっとよだれを拭きとってあげる。
「ほんとお子様だな」
素直で逃げ足が早くて、コロコロと表情を変え、すぐ泣き、人を怒らせるのが得意。
ライラはひとり言のように呟く。
「手に負えないほど、優しすぎるお子様ですけどね」
「まったくな。……これじゃあ、放っておけねえだろうが」
自分の髪をくしゃくしゃに掴んでライラはクスリと笑った。
ゼノをこのまま放っておくわけにはいかなくなったと、自分でも馬鹿なことをしていると分かっていたが、それでもゼノを守りたいと望んでしまった。
それはイズも同じ。
「ところでコレ、どこに結んでおきますか?」
ロープを2本手にしたイズが苦笑交じりで問う。
「オレとイズに決まってんだろう」
2本あるロープを1本受け取り、ライラは自分の身に縛りつけ、イズもまたもう1本を自分にしっかりと結ぶ。
ロープの先は2本ともゼノに繋がっている。
「せっかく助けてあげたのに、これで逃げられたら元も子もありませんからね」
にこやかに笑いながらイズがロープを手にする。
つまり、このロープはゼノの逃亡阻止装置。
朝起きたらいなかったなんてことのないように、二人はしっかりと罠をはる。
かくしてロープでつながれた3人は、新しい朝を迎えるために眠りにつく。
そう、
世界が生んだお子様、短気なオヤジ、笑顔の美形の3人の
Trip(旅)はここから始まった。
外伝 クリア
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特別編『真実の鏡』(イズ編)
── もし願いが叶うのなら
ボクは全てを壊したかったんです ──
イズの正体や目的が判明する、特別編になります。
(※ご注意:流血や暴力的シーンが含まれます。)




