【外伝】(66話)
全身からやる気という気が抜け、無意識にイズはゼノに巻いていた包帯を可愛くリボン結びし、黒髪を掴んでいたライラは、ついクルクルと指に巻き付けるほどに、二人は途方に暮れた。
もしかしたら世界の力を感じたというのは、ゼノが生まれた時に発生した力か、もしくは世界から生まれたゼノが同じ流れを持っているだけにすぎないのか――おそらく自分たちが思っていたこととはまるで違う結果だろう。
『世界がしたいことは理解できない』
ライラとイズの結論はそこへ辿り着いた。
でもって、状況がよくわからないゼノは涙と鼻水を拭い、そっと負傷していた怪我に視線を向けた。
しっかりと手当てをしてもらい、ポタポタと滴り落ちていた血が止まっている。
痛みはまだ残ってはいるが、ゼノは今がチャンスとばかりにその場を逃げようと動く。
気だるい身体を無理やり起こし、ゼノは走り出そうとしたのだが、次の瞬間顔から地面に激突した。
「いったぁ~~~~~い」
意識が朦朧としていたせいか、受身をとれなかったゼノは地面に倒れたまま強く打ちつけた鼻を押さえる。
「そうくるだろうと思いまして、悪いとは思ったんですがコレつけさせていただきました」
見事に顔から倒れたゼノに、コレと言いながら1本のロープを手にするイズ。
つまりイズは逃げられる前に手を打って、ゼノの足を近くにあった木にロープで繋いでおいたのだ。
「ぶぅぅ~~」
当然逃げられなかったゼノはまたむくれる。
そして地面に倒れるゼノの背中に大きな足が置かれた。
「……たく、そんな身体でどこにいくつもりだ」
絶対に逃がさないと、少々乱暴ではあるがライラは足でしっかりと身柄を拘束。
「手当てしてくれて、ありがとう。……でも」
「でもも、だからもオレは聞かねぇぞ。いいから大人しくしてろ」
素直にお礼を述べたゼノに、言い訳も事情も聞く耳もたないとライラは頭上から言い放つ。
「せめて怪我が治るまではここにいたほうがいいですよ」
「ライたん、イズたん……」
「天界の奴らが動き出したみてぇだしな。下手に動くと今度こそ命なくすぞ」
「少なくともここにいれば、ボクたちが守ってあげられますからね」
助けてくれるとイズが口にすると、ゼノがライラの足の下からゆっくりと身体を起こした。
つい踏みつけていたこと忘れていたライラは、起き上がるゼノに慌てて足をどける。
「僕って、ここにいてもいいの?」
鼻を真っ赤に擦りむいて、ゼノが小さく言葉にした。
「しゃぁ~ねぇだろ。世界は普通のガキを生んじまったんだから」
「それにボクの命の恩人ですしね」
ライラとイズはそういうと優しい笑顔をゼノに向けた。
その笑顔につられゼノも笑う。
そして笑ったゼノがさらに微笑みながら、
「それ、邪魔でしょう」
二人の武器を見ながらゼノが唐突にそんなことを言う。
確かに邪魔じゃないとはいえないが、ただ武器は必需品であり、そんなことを考えたことがなかっただけ。
「あんま気にしたことねぇな」
「ボクも気にしたことありませんね」
口を揃えて二人は同じようなことを口にして、武器を手にした。
「それ貸して」
大剣と槍を自分に貸してほしいとゼノが怪しくにこにこ。
「お前には持てねぇよ」
大剣の重さに耐えられるはずがないと、ライラはゼノの申し出を忠告する。
「だから軽くしてあげるの」
「軽くって、なにいってんだお前」
「だって僕、武器嫌いなんだもん」
頬を少し膨らませたゼノが怒ったような、拗ねたような態度をとりながら、理解不能な言葉を並べる。
「嫌いなのに貸してほしいんですか?」
言葉の矛盾にすかさずイズがつっこむ。
「すぐ返すから!」
痺れをきらしたのかゼノが声をあげた。
どうみても子供のわがままとしか思えないが、ライラもイズも困った表情で顔を見合わせてから、しかたなく貸してあげることに決めた。
「ありがとうっ」
二つの武器を両手で頑張って抱えたゼノが、「……ん~」と険しい顔をして唸り出す。
何をしたいのか全然分からないライラとイズは、とりあえずゼノが満足するまでその様子を伺うが、ゼノはただ唸り声をあげて、必死に武器を抱きしめるだけ。
そして、「僕の力になって!」そう叫んだかと思うと、大剣と槍が眩く光を放ち、砕け散るように跡形もなく消え去った。
「なっ?!」
「えっ?!」
ライラとイズは同時に声をあげる。
目の前にあったはずの武器が砕けて消えた。魔法やマジックみたいに綺麗さっぱり、影も形なく。
当然自分の武器を消されてしまった二人は驚きと怒りが同時にこみ上げる。
「オレの武器をどこにやりやがった」
愛用の武器を壊され、一番に叫んだのはライラ。
「二人に返したよ」
にこやかに笑ったままのゼノがあり得ないことを言い出す。
どう見ても、考えても、目の前で消えた、返してもらった記憶などない。
現に武器はどこにも見当たらない。
「まさかすっごく小さくなったとか、いいませんよね」
「違うよ。んと、ね、なんて言えばいいかなぁ。ちゃんと手にあるんだよ」
「手? それはボクの手ですか?」
ゼノに手にあると言われ、イズは自分の手の平を見たが、とくに変わったところも武器もなく、首をかしげる。
同じくライラも自分の手を見たが、何もない。




