【外伝】(65話)
ライラとイズは長く森にいたが、そういえばそんな力感じた事なかったと、思い出す。
つまり、ゼノが隠している可能性が有力となる。
「世界の力を持ってんじゃねぇのか」
「世界の力? なにそれ。僕はハクコクジュから生まれただけだよ」
「生まれただけ?」
どんどん話の辻褄が合わなくなる会話に、ライラは嫌な汗をかく。
強大な力をもち、世界を滅びへと導く者。
そう聞かされてきた――が、本音を言えば、ゼノを目の前にし、そんな風には全然思わなかった。いや、思えなくなっていった。
「つまり、ゼノは本当に生まれただけなんですか?」
とどめをさすようにイズがもう一度だけ繰り返す。
「僕、生まれちゃいけなかった?」
「いえ、そうではなくて……ボクたちはゼノが世界の力を持って生まれたと聞いてきたので、それでちょっと」
「ええっ!! 僕にそんな力があるの?!」
イズに言われて、なぜかゼノが驚いた大声をあげた。
どう考えてもこの反応は違う。
「もう一つお聞きしてもいいですかゼノ?」
「うん」
「ゼノの目的ってなんですか?」
ハクコクジュの目的。これがわかればとりあえず結果オーライになりそうで、イズは率直に尋ねる。
が、
「ハクコクジュに会いたい」
ゼノの口から出てきた回答は、矛盾も通り越したもはや意味が分からないであった。
ハクコクジュから生まれたのに、そのハクコクジュに会いに行きたいなどと、ふざけた話があってたまるかと、ライラの眉間に皺が寄る。
「てめえは、何のために生まれてきたんだっ!」
どんな目的があって、ハクコクジュはゼノを生み出したのかそこが知りたかったのに、その本人はハクコクジュを探すと言った。ライラはどういうつもりなのかと怒鳴る。
「ううっ、やっぱり僕生まれてきちゃいけなかったんだぁぁ~~~」
見た目20歳過ぎにも見えるゼノが大泣き。
声を上げてわんわんと恥もなく泣くゼノに、ライラは酷い頭痛を覚えて頭を抱え、イズは子供をあやすように優しくゼノの頭を撫でる。
「……泣きてぇのは、オレだ」
世界から生まれたのは事実、けれどなんの力も目的もない。おまけに小さな子供みたいな性格で、戦闘が嫌い、逃げ足だけは速い、とても世界の脅威だとは思えない。
全てを踏まえたうえで、ライラとイズは一気に脱力した。
今まで、何のためにゼノを追い回してきたのかと。
こんなの放っておいても、何も影響などなかっただろうと、ライラは自分が間界にきた理由がくだらなすぎたことに、もはや怒る気力もなくなった。
無駄足を踏まされただけであったと、苛立ちは自分に向かう。
小さく舌打ちを含ませたため息を吐いたライラは、再度ゼノを見る。
人目も気にせず、鼻水まじりで大泣きしている世界が生んだ者、これが世界を滅びへと導く存在だと言われてもまったく説得力なし。
たとえここでゼノを抹殺したとしても世界は何も変わらない気がした。――世界はいつもと同じ明日を迎える、そんな核心が持てた。
「ゼノはここにいてもいいんですよ」
いつまでも泣き止まないゼノの頭を撫でながら、イズが優しくそう声をかけると、ぐすんと鼻をすすり「本当に?」と目で意見を求めてくる。
それに答えるようににっこりと微笑んだイズは、安心するように大きく頷き、ライラに視線を合わせた。
「ほんと、世界は何がしたかったんでしょうね」
「それをオレに聞くな」
ゼノを追い掛け回す意味も、抹殺する意味でさえ無かったかもしれないと気づかされ、脱力も脱力。
それでもイズはそこで新たな可能性を発見する。
「それでも天界も地界も世界と同じ力を感じたんですよね――ってことは」
「他になにかあるのか?」
真剣な表情を向け、ライラがイズを直視。
『世界を感じた』それに間違いはないはず。なら、なぜゼノは力も目的もなくここにいる?
イズとライラの思考に罠という文字がよぎった。
「まさか、ゼノは囮ですか?」
「カモフラージュかもしれねぇな」
「なら世界の目的は別のところに……」
新たな可能性を見つけ、ライラとイズはあたりの気配を探る。
「むぅ~、ハクコクジュから生まれたのは僕だけだよ」
他にも何かいると話した二人に、ゼノがほっぺたを思いっきり膨らませて怒る。
ハクコクジュから生まれたのは、正真正銘自分だけだと、ゼノは一人っ子だと宣言。
それを耳に聞きながら、ライラはちょっと黙っていろと、ゼノの頭をくしゃくしゃと掴む。
が、完全にお子様扱いされたゼノがさらに怒る。
「だぁ~、かぁ~、らぁ~、僕は僕なの。他にはなんにもないってば!」
「だったら世界はなんの目的でお前を生んだんだ」
「遊んで来ていいって、言ってくれたんだもん」
「はぁぁぁ?」
話がとんでもない方向へ進み、ライラは思わず変な声を出した。
まさに「今、なんか言いました?」と聞き返したくなる息。
「えっと、ゼノ?」
「なにイズたん?」
「遊んで来てもいいって、どういうこと意味ですか?」
しっかりと聞き逃さなかったその言葉を、イズは再確認のためにもう一度口にする。
「ハクコクジュがね、遊んでおいでって言ってくれたの」
無邪気に笑いながらゼノがイズの質問にまっすぐ答えた。
空耳でも聞き間違いでもなく、はっきりとそれはライラとイズに届き、二人は同時に肩をおとす。
「喜劇にしちゃぁ笑えないオチだよなぁ」
「喜劇だったんですかこれ? ボク悲劇かと思いましたけど」
「……そうだな、哀れすぎる悲劇だ」
「ええ、ほんとに」




