【外伝】(63話)
一方でライラは自分自身と葛藤していた。このままゼノが死を迎えれば、任務完了は確実。しかし本当にそれいいのか? ゼノを始末することは正しいのか?
ずっと追いかけているが、天界に災いをもたらすような者には見えず、計り知れない力を感じることもない。そこらへんのガキと何も変わらない。あいつを始末しても何も変わらないのではないか、そんな疑惑が浮上する。
聞きたい。ライラは不意にゼノと真面目に話がしたい、真実が知りたいと考えた。
本当に世界から生まれたのか、何のためにこの世界に現れたのか、天界の異変はどうなっている……、聞き出したいことが山ほどあると、ライラはとりあえず始末するという選択肢を捨てた。今はゼノを助けて、話が出来る状態を確保する、そう考え直す。
大地に残された血痕を見つめるイズと同じく、ライラもまたその血を見つめ、小さく舌打ちをしてみせた。
「イズの気持ちはわかるが、オレたちは待つことしかできない」
「でも……」
「オレだってなんとかしてやりてぇが、あいつは絶対に見つからない」
簡単に見つかるようなら1ヶ月もこんな森で探し回ってはいない。
気配を消すのが上手いのか、それとも信じられないくらい遠くに逃げているのか、ゼノを見つけられたことは朝も昼も深夜でさえ一度もなかった。
たとえ怪我を負っていたとしても見つけられる自信はない。
ライラとイズはしばらく無言のままその場に立ち尽くす。
きっと明日になったら、またいつものように無邪気に笑ってからかいに来ると信じて。
ズキュ――ン
が、突然響き渡った銃声に二人は同時に振り返った。
誰もいないはずの森での銃声。不釣合いをとおりこして、完全に不自然だった。
「ライラッ!」
「結構遠いが、行けるな」
銃声はかなり遠くから聞こえてきたが、向かえない距離じゃない。二人は同時に走り出した。
「だから命だけは助けてってば」
足に銃弾を掠め、地に足を着いたままゼノは目の前に立つ男にそう叫んでいた。
銃をゼノに向け、少しでも動けば撃つ。男は震える手でただただ銃を構える。
「お、お前が世界が生んだものなのか」
怯えているのか男は声さえも震えていた。
「僕なんにもしてないのに、なんで撃つの」
「俺の質問に答えろ!」
声も身体も震えてはいるが、その目は怖いくらい燃えていた。本気で撃ち殺せると。
「……そうだよ。僕はハクコクジュから生まれたよ」
「だったらお前を始末すればいいんだな」
「ちょ、ちょっと、なんで僕が殺されなきゃいけないの?!」
ゼノは必死に叫んだ。
昨日からの疲労と出血のせいで、眩暈を引き起こしているのか、視界が良くない。ゼノは普段なら簡単に逃げられるのに、思うように動かない身体では逃げることができないと、銃口をただ見つめた。
大人しく佇むゼノに、男は震える手でその銃口をゼノの心臓へと必死に合わせる。
世界が生んだ者は化け物だと聞かされてきたせいか、震えが止まらない。もしかしたら人間の姿は仮の姿で、銃を向ければ本性を見せるかもしれない、男はゴクリと喉を鳴らして、ゼノを怯えた瞳で見る。
しかしゼノは、銃口を見つめたまま動じず、その姿は人のままであった。
だから男は、どこか安心するように怯えた笑いを浮かべてその引き金に力を込めた。
「楽勝だな……、これで終わりだ」
「やだ、助けてってばっ」
ズキュ――ン
2度目の銃声が森に響く。
「なっ、なんだ」
火を噴いた銃が宙を舞い、男の手から弾き飛ばされていた。弾丸は飛んだがそれは狙いを外れ見当違いの場所を撃ち抜く。
地面には一本の槍が刺さる。銃を弾き飛ばしたのは、どこから誰が投げたのか不明な槍。
「どうやら間に合ったようですね」
息を切らせて姿を見せたのはイズ。
「だ、……誰だ、お前は」
「通りすがりの旅の者です」
「旅人だと。その旅人がなんのようだ」
いまだにガタガタと震える男は強くイズに問う。だが、イズは男のことなどお構いなしにゼノの元へとまっすぐに歩く。
「やっぱり、全然止血になってませんね」
優しく声をかけながら、乱暴に巻かれた布をそっと外し、イズは常備していた包帯をゼノの腕にきつく巻きなおす。
初めてゼノに触れることができた。その感触も温度も自分たちと何も変わらなかった。
「痛みますか?」
「ん~、ちょっとだけ」
「化膿でもしたらいけませんから、ちゃんと手当した方がいいかもしれませんね」
想像していたよりも傷は浅かったが、切った場所が悪かったせいか出血の量は多い。
けれど傷が大したことなくて、イズはほっと胸を撫でおろしつつ、傷口からばい菌でも入ったら大変だと、ゼノに治療を勧める。
当然、完全無視された男は怒りとともに弾き飛ばされた銃を拾いに向かう。
あと少しで銃に手が届く、
「あっ……」
手を伸ばした銃は、男の手に触れる前にさらに弾き飛ばされた。




