【外伝】(59話)
「なぜついてくる」
怒気を帯びたライラの声が投げかけられる。目的のものを見失い、名前も教えたのだから好きなところへ行け。まるでそんな口調であった。
「ゼノを殺させるわけにはいかないんです。ボクにも事情がありますから」
あくまでも邪魔をするというイズに、ライラは怪訝な表情になる。
世界が生んだものが手に負えないような代物ならすぐに戻るつもりだったが、目にしたのは人。しかも一見どこにでもいそうな若者であり、自分が負けるとは思えなかった。
だからこそライラは天界の凶源であるゼノをここで片付けてしまおうと決めた。
これ以上天界の人間が犠牲にならないようにと、勝手に決め付けて。
それがここでとんだ邪魔が入った。
地界からきたイズという見た目優男の槍の使い手だ。
しかもこの男、しつこそう。
ライラはわずかに苛立ちながら、早足で歩きながら無視を決めこむ。
「そんなに毛嫌いしなくてもいいじゃないですかライラさん!」
無視されて、早足で逃げられる。イズは必死で後を追いかけた。
──────
ライラとイズ。
二人が出会ってからすでに1ヶ月ほどが過ぎようとしていた。
つまり、あれからずっと森の中で、ゼノと一向に距離の縮まらない追いかけっこが続いていることを意味する。
ときたま姿を見せては、「あっちに小川があったよ」とか「今日はいい天気だね」などとくだらない言葉を残しては姿を消すゼノ。
時間にしておそらく数分。いつも高い木の上から、すぐ逃げられるように現れては二人に声をかけては去っていく。しかも一瞬で気配ごと消えてなくなる。
気配を消すのが上手いのか、それともとてつもなく足が速いのか、どちらにしても、二人はゼノを追うことが出来ない。
毎日のように姿を見せては、ライラとイズをからかっては逃げていく。それがゼノの日課となっていた。
「はぁ、はぁ……す、すみません」
苦しそうに荒い呼吸を繰り返すイズに、ライラは冷たい湧き水で濡らしたタオルを額にのせる。
「大丈夫か?」
真っ赤な顔をしているイズに、ライラも心配になる。
「ええ、なんとか……」
「それのどこが大丈夫なんだお前は。ったく、しっかりメシとらないからこうなるんだ」
そういいながらライラは、焚き火で焼いたトカゲのような生き物を口に運ぶ。
表面はパリパリとしたいい音がするが、見た目は完全に爬虫類の原型をとどめている。
「ボクの美学に反するんですから、しかたないじゃないですか」
「騙されたと思って食ってみろ」
こんがりと焼けたそれをライラがイズに差し出す。
「わぁぁ~~~! ボクにそれを近づけないでくださいっ!!」
額にのせられていたタオルも、具合が悪いのも、高熱さえ忘れてイズは大声をあげると思いっきり後ずさり。
「……フッ……ハハハ」
そのあまりの動きのすばやさにライラが笑った。
出会ってからはじめてみたライラが大声で笑うとこ。イズは嬉しい気持ちとからかわれた悔しい気持ちが交差して、ついむくれてしまう。
「人をからかって面白いんですかライラ」
「いつも冷静そうだからな。慌てるイズは面白いぞ」
「もうっ!」
意外な一面に大満足のライラは怒るイズを見て、さらに笑っていた。
そう、二人はいつしか友のように名前を呼びあう仲へと変化し、そのうえ、今二人の目的は一致している。
『ゼノをとっつかまえて、一発ぶっ飛ばす』
これが今現在の二人の目的である。
「そういえばライラっていくつなんですか?」
体調不良をなるべく考えたくなくて、イズは唐突に話題を振った。
体格のいい、ツンツン頭の大男のライラ、一見かなり年上に見える。
「……で、お前はいくつだと思ったんだ」
「質問を返さないでください」
「24だ」
イズにそういわれライラは素直に答えたのだが、返ってきた反応は、
「ええっ――」
どいつもこいつもである。
体格が大きいせいなのか、老け顔なのか、誰もかれも似たような反応を示す。
「いくつだと思ってたんだ」
「いえ、それは……その……ははは」
相手にそれを言ったら非常に悪いと思ったのか、イズは乾いた笑いでごまかす。
本音――30後半。
「そういうお前は?」
「ボクは21ですよ。お酒もタバコもOKです」
「嘘だろ……」
「何が嘘なんですかライラ」
呆れたような態度をとられ、イズはライラを冷たく凝視する。
小柄であどけない顔、サラサラの透けるような金髪。そのうえ真っ白な肌。
どうみても十代。
「オヤジィィ――」
ライラとイズの会話に突然緊張感のない声が割り込んだ。
しかもその台詞はどう考えてもライラに対して告げられたもの。
そう、現れたのはいつものあいつだ。




