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【外伝】(58話)

「それはわかるけどよ。そんな危険なものなら、もっと上の奴がいけばいいんじゃねぇの?」

「誰も行きたがらないんだろうよ」

「で、なんでお前ならいいわけ?」


天界の秩序を守るとされる騎士団、その最下階級にいるライラを行かせる意味がわからない。と、レックは上の方針に少し頭に血がのぼった。

仮にも世界が生んだもの。それがどんなものでどんな力があるかもわからない。

そんな得体のしれないものにライラを向かわせて、無事に戻ってこれるほうがおかしいとレックは腹を立てていた。

だが返ってきた返事は冷たく、


「別にオレはかまわない」


まるで他人事のようであった。


「俺がかまう!」

「……レック?」

「世界と同じ力をもってるんだろうそれは。化け物を生みだすくらいなんだぞライ!」


ガタンと椅子を鳴らしレックが怒りを露にした。

だがライラは微動すらせず、相変わらず大剣の手入れに手を動かす。

どんなに心配しても、怒っても、感情を露にすることがないライラだとわかっていても、レックはなんとか言ってほしいと思う。

だから必要以上にしつこくなる。


「おいライ! 聞いてんのか?!」

「ああ」

「だぁ、かぁ、らぁ、行くなってんの俺は」


煮え切らない気持ちに、レックは素直な気持ちをぶつけた。

世界が生んだもの――そんな危険なものにライラを向かわせたくないと。


「別にオレがそれを始末しにいくわけじゃない。ただの偵察だレック」


怒鳴り声をあげたレックに、ようやくライラは視線をあげた。


「片付けられそうなら手を出すっていったよな。それのどこが偵察なんだ」

「あくまでも自分の判断で動いていいとの命令だ」

「だったら、手は出さないって俺に誓え」


椅子ごとライラの目の前までやってきたレックは、真剣な眼差しでライラを捉える。

大切な親友を失いたくないという絶対の気持ち。


くしゃ、くしゃ


大きなライラの手がレックの髪を掴む。

優しくなでるように頭をくしゃくしゃと掴むのはライラの癖。


「心配性……」


軽く笑ってライラはレックに言う。


「心配なんだからいいだろう」

「大丈夫だ。すぐ戻る」

「絶対だぞ」

「ああ」






【地界】


「世界が生んだ……もの」


地界の王が住む大きな城で、イズは面白いことを耳にした。

絶対の力をもつ何かが世界に生まれたと。

その力は強大で、どんな願いも叶えることができると聞いた。


「ボクの願いも叶えてくれるんでしょうか」


一人部屋に戻ったイズは、じっと窓の外を眺めながらふと思う。

絶対の力。

正体は不明。

それはどんな姿をしていて、どんなもので、どんな影響を及ぼすのか、まったくわからない。

それでもその力があればどんな願いも叶えることが可能。

ゆえに、地界では緊急会議が執り行われ、一体誰がその正体をつきとめに行くのかと、熱い口論が繰り広げられていた。

もちろん自らすすんで確かめにいくような者などいない。

正体不明の強大な力、滅びへと導く力、世界を手にする力、噂は広まれば広まるほど死に近づいていた。

それを聞いてなおその存在を確かめに志願するものなどいなかった。

そんなこんなで会議は無駄に長引く。

そのうえ、世界が生んだものは、間界にある森からいっこうに動く気配がうかがえない。

つまり、その森になにかある――もしくは、動かないなにかであり、近づくことが危険なのかもしれなかった。

『死』の覚悟が必要なのだと無意識のうちに本能が知らせる。


「さて、どうしますか……」


ベッドの脇に置いてある、自分愛用の武器である長い槍に視線を向け、イズは自分に問いかけた。

槍のとなりには一枚の写真立てがあり、ふとイズは写真の女性をじっと見つめた。

写真の女性はイズと同じ金髪の髪で、とても穏やかな笑顔の母。

たった一枚だけ残っていた、今は亡き優しかった母の写真。


「答えは決まってますよね」


苦笑いともとれる笑みを見せたイズは、迷いを絶ち槍を手にした。


「どんな願いも叶えられるというのなら、迷うことなどありません」


死も覚悟の上で、イズは決意を固く決め黙って一人部屋を出て行った。

全ては願いを叶えるために、イズは地界を後にした。






◆◆◆

「チィ……逃げられたか」


大剣を肩に担ぎなおし、ライラは軽く舌打ちをした。

結局それ以上会話することもなく、ゼノは風のように森の中へと姿を消してしまった。

取り残されたライラとイズは、目的のものを失いしばらくその場に佇む。


「人でしたね」


何気なくイズはそう口にした。


「はっ?」

「だから、世界が生んだものですよ」


正体不明だったものの姿を確認でき、イズは正直ほっとしていた。

人の姿で、言葉を普通に話し、本当にどこにでもいそうな、そう人型であったことに。

化け物や得体の入れないものを想像していただけに、その恐怖は一瞬で取り払われた。

それはライラも同じこと。


「そうだな」


短くライラも返事を返し、また森の中へと歩き出した。

そして、当然のようにイズが後を追う。



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