ステージ7『真理』(55話)
「そういう問題ではないわ、通常縫い糸は残るものなんじゃよ」
「そうなの?」
「一体お前は何者じゃ……」
「ええっ、忘れちゃったの? 僕はゼノ=クロノムだよ」
ローレイの質問にゼノは即答でそう答えた。で、一方のローレイは思いっきり顔面を片手で押さえていた。2週間一緒に過ごしてきてわかったゼノという人物。ローレイはゼノにまともな質問をしたことを深く深く後悔した。
そう、ゼノとまともな会話はできない……2週間で覚えた教訓。別に相手をバカにしてるとか、隠すとか、意地悪をしているとかいうわけではなく、ゼノは素で素直、まっすぐであり、自分ではちゃんと答えているつもりなのだ。だから、聞きたいことがあるならライラかイズに聞くのが正当だった。
「まあよい、傷口も塞がったようじゃし、他の傷もほとんど完治しておる。これならあと1週間ほどで旅立てるぞ」
「鬼ばあさん、それ本当」
「だ~か~ら、わしは鬼ばあさんではないわ、このばか者!」
「いったぁ~~~~~~~」
ローレイは近場にあった雑誌をすばやく手にとりゼノの頭を殴った。怪我も治り、すっかり元気になったからこそローレイは、口の悪いゼノに天罰を与える。
「診察は終わったんですか?」
部屋から騒がしい声が聞こえ、イズがそっと声をかけた。
「ああ、傷はすっかり治っとる。あと治っておらんのは、クロコの口の悪さだけじゃ」
「ははは、それはちょっと無理かなぁ……」
乾いた笑いを浮かべ、イズはローレイにその病気は治せないと告げた。もちろんローレイだってわかっている、二人は苦笑いを交わしながら、張本人のゼノを横目に見ていた。そして、ゼノの傷口が文字通り完治すると、3人は再びハクコクジュを探す旅に出発することにした。
「ローレイさん、いろいろとご迷惑をおかけしました。でも、ゼノを救ってくださいましてありがとうございます」
太陽が顔をだし始めた早朝、ゼノとライラ、イズはお世話になったローレイの家の外で別れを交わす。
「世話になったな、と・く・にコイツがな」
「頭掴むなぁ~~、ライたん!」
朝から相変わらずの騒がしさ。だがローレイはそれがたまらなくうれしかった。人里離れたところに住み、ずいぶんとにぎやかな時を忘れていた。
騒がしいだけならそんな時間はいらないと思っていたが、この3人と過ごした時間は思いのほか楽しく、どこかに置き忘れてきた何かを思い出させてくれた。
「まったくおぬしらは朝から騒々しいのう」
「すみません、大きな子供が二人もいますので」
深々とローレイに頭を下げながらイズは謝りながら、笑う。
「イズ~~~、誰が子供だ。俺を超お子様と一緒にすんなっ!」
「ぶぅ~、僕も大人だもん」
「なら、風船ハウスに入りたいとかもう言わないでくださいよ、ゼノ」
「ううっ……」
風船ハウス。よくイベント会場に出現するビニールでできたアトラクションのこと。対象者は幼児~低学年くらいまでのふわふわした巨大なテントで、大人はまず対象外のあれだ。
「お前はほんとわからん奴じゃよ、クロコ」
ローレイは結局ゼノの正体を問い詰めてはいなかった。というよりもライラに聞いても、イズに問いかけても確かな答えが見つからなかったから。
「クロコじゃなくて、僕はゼノだってば」
そう、ゼノはゼノ。確実にそれだけは間違ってはいなかった。
「いいんじゃ、お前はクロコで」
「鬼ばばあ~~~」
「はははっ、わしもそれでいい」
忘れない。
「んじゃ、マジで世話になったぜ、サンキューなばあさん」
「本当にありがとうございました」
「また遊びに来るね」
朝日を背に大きく手を振るゼノが、満面の笑顔でローレイに笑顔をみせる。
「今度来るときは土産のひとつでも持って来い」
「うん、いっぱい持ってくるぅぅ~~~」
「期待せんで待っとるわ。気をつけていけ」
3人の姿が遠くなり、ローレイはめいっぱい声をあげた。ライラは背を向けたまま片手をあげ、イズは何度も頭を下げ、ゼノは両手を口元にあてる。
「ありがとうぉぉ、大好き――」
まるで光の中に消えていくように、ゼノたちの姿は朝日の中に消えた。大好きと叫んだゼノの言葉をいつまでも響かせて。
「恥ずかしいことをいうでない……、ふっ、あはははは……まっクロコらしいがな。お前たちならいつでも歓迎するぞ」
ステージ7クリア
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【外伝】
ゼノとライラ、イズが初めて出会う、旅の始まりの物語。
「お母さんが見つかるまで一緒にいてあげるね」
大木の根元に座る、長い髪を一つに束ねた黒髪の男は、隣で丸まっている子狐にそう声をかけた。
森で迷子になっていた子狐を拾い、男は子狐のお母さんが探しに来てくれるのを一緒に待っていた。
新緑の綺麗な森は、鳥の鳴き声が響き、清々しい風がとおり、小さな小川が流れ、人がはいってくるには深すぎる自然豊かな場所。
ザック、ザック……
動物たち以外誰もいないはずの森で不自然な足音が聞こえた。




