ステージ7『真理』(53話)
一体ゼノは、本当は何者で何が目的で、なんのために生まれたのか、どうして3人で旅なんかしてるのか。ここにきて、全てがわからなくなってしまったイズの心は、途方に暮れていた。
なにが真実で、なにが嘘で、なにが信じられるのか。その答えを求めるためにライラの元へきたのだが、結局ライラを見たらそんな気も消えてしまっていた。
「バカかお前」
タオルで顔を拭きながら、ライラは顔をあげるなりバカだとイズに言っていた。
「なんですか、いきなり人のことバカって」
「バカだからバカっていったんだ」
「ライラ!」
「聞けばいいじゃねぇか、今なら話すぜ、ゼノは。ただ消えちまうかもしれないがな」
真剣な表情でライラははっきりとそう言った。
聞きたいなら悩む必要などどこにもない、知りたいことを全て聞けばいいと。今なら間違いなく話す。ライラにはその自信があった。けど、全てを聞いてしまえばゼノは姿を消すとも思った。旅が終わる。一緒にいることができなくなると。だからこそイズは悩み、煮えきらず、
「聞けるわけ……ないじゃないですか」
俯いてしまった。
「だからお前はバカだっていったんだ。このままゼノを疑い続けてくのか」
「それは……」
「言い方は悪いが、オレは世界なんて大きすぎるものに興味はない。自分でも大バカだとわかってるが、あいつといると楽しい……バカなんだよオレも」
照れたように顔を空に向け、ライラは笑っていた。本当は真実を聞くのが怖いのかもしれない、それともゼノを失うのが怖いのか、どちらにせよライラは心のどこかで信じていた。
「やっぱりボクもバカでいいです」
急に声をあげてイズはライラをみた。その表情に迷いはない。
「話すだろう……いつか」
そう、いつの日かゼノから全てを打ち明けてくれるとライラは信じた。
「あっ、でも一つだけ確認したいことがあります」
「確認?」
「ええ、世界が好きですか? ってね」
「ほい、しまいじゃ。まったくお前さんは、我慢できるなら始めからおとなしくしろというに」
昨夜のものすごい状況を思い出し、ローレイはこれ以上ないため息を吐く。
「へへ……」
「笑い事ではない。いいか、傷が完治するまで絶対安静じゃ、わかったか。また傷が開いても知らんぞ」
「はぁ~い。と、ありがとう」
ゼノは元気よく返事をすると、ローレイに向かって笑ってお礼を言った。
曇りのない清々しいほどの笑顔に、ローレイもつい微笑んでしまう。どう見てもいい大人であるのに、まだ幼い子供を思い浮かべてしまうゼノ。それが無邪気だからなのか、痛いと泣き叫んだからなのか、素直にお礼が言えるからなのかは、ローレイにもわからなかった。
一つだけ言えることは、『嫌いじゃない』ただそれだけ。
「ほれ、布団を洗濯するから少しよけろ」
べったりと血がついてしまった布団を、せっせと片付けながら、ローレイは新しい布団をゼノに用意する。
「汚しちゃってごめんなさい」
「怪我人がそんな心配せんでいい。命があるだけ奇跡だと思え、あれだけの傷を負って意識が数時間で戻るなど、通常ありえんぞ」
「僕、丈夫なんだね」
新しい布団に転がりこむように入り込みながら、ゼノが楽しそうに自慢する。昨夜よりも腹に厚く布を何重にも巻いたので、傷口が再び開かない限り滲んでくるようなことはないとは思うが、ゼノはまるで怪我などしていなかのように明るかった。だけどローレイには無理をしているとわかる。運び込まれてきた時、はっきりいってどこから手当てしていいかわからなった。
手当しないでいい場所を見つける方が、難しかったと。
「朝飯ができたら起こしてやるから、少し寝ておれ」
「鬼ばあさんが作ってくれるの?」
「誰が鬼ばあさんじゃ! クロコめっ」
「ぶぅ~、なんで僕がクロコなの」
「黒髪の子供じゃから、クロコじゃ」
めったにあだ名なんかつけられたことのないゼノが、ローレイにつけられたあだ名に頬をめいっぱい膨らませた。あげく、
「鬼ばばあぁぁ~~~」
と叫ぶ。
「好きにせい、クロコには特性ジュースを用意してやるわい。ははは……」
と、高々に笑いながらローレイは布団を引きずって部屋を出て行こうとしたが、部屋を出る一歩手前でゼノに呼び止められた。
「ちょとまって」
「なんじゃ」
「僕は大丈夫だって……」
「わかっとるわい。あの二人には言わんよ」
全然大丈夫ではないが、ゼノが言ってほしくないのなら言わない。ローレイはゼノの言いたいことを先読みし、安心させた。
「ありがとう」
「……いいからゆっくり休め」
最後にそれだけいうとローレイは静かに戸を閉めた。今は身体を休ませることが大切だと。
「ぅ……いたっ……」
戸を閉めてすぐに、かすかに痛むゼノの声が聞こえた。やはりかなりの激痛があるのだろう、口籠るような声だけがわずかに響いていた。ローレイはそれから布団を引きずりながら外へでて、洗濯を開始する。
そこへ水汲みと薪割りを終えたライラが顔を見せた。
「薪は割った、水も汲んできたぞ、ばあさん」
「やなタイミングで現れおったな……」




