ステージ7『真理』(52話)
「おぬしらは一体何をしておるのじゃ。そやつは怪我人、乱暴に扱うでない」
仕入れてきた材料を台に置き、ローレイがゼノの元へと進む。
「金髪は村へいき書いてある薬草を買ってくる、茶髪は薪を割り、井戸へいって水をくんでこい」
乱暴に指示しながらローレイはゼノの横をすり抜け、さらに奥の部屋へと足を進めるが、静止状態の3人に足を止めた。
「怪我人に手を出すことは医者のわしが許さん。完治したら喧嘩でもなんでも好きにせい」
ローレイがそういうと、ライラとイズはやっと動き出した。
しっかり「完治したらきっちり決着をつけてやる」と目で合図してから。
それをみたイズとローレイがため息をついたのは言うまでもない。
それからローレイは奥の部屋にいき、昨夜乱雑に片付けた薬草や塗り薬を再び手に持ち、ゼノの元へと戻ってきた。
「傷口をみせてみろ」
薬を床に広げながらローレイはそう言ったのだが、ゼノは乾いた笑いをしただけで傷口を必死に隠した。縫うことも切ることもしないというのに、ゼノは笑ってごまかそうとする。
確かに薬を塗るのだから多少は沁みたりするが、昨夜ほど痛みを感じることはないはず、しかも先ほどあれだけ動いたのだ、傷口が開いていてもおかしくはない。なのになぜゼノはごまかす? ローレイは不審に思いながらも医者としての使命を果たすため、もう一度強く言葉にした。
「早く傷口をみせんか」
「大丈夫だよ」
「やせ我慢するでない。いいから診せろ」
こうなったら強行手段、意地でも傷口を隠すゼノにローレイが力押しにでる。
「わ、わかったから、そこの戸閉めて誰も入れないで」
思わずでたゼノの本音。どうやら誰かに傷口、または裸を見られるのが嫌だったらしい。ローレイはやれやれと立ち上がり、家から出て行く二人に、誰も部屋に入ってこないように言いつけ、再びゼノの元へ戻った。
「これでよいか」
「ごめんなさい、あの二人には心配かけたくないの」
さっきまでの元気はどこへやら、急におとなしくなったゼノは掛け布団をめくった。血の海。真っ赤な染みが服にも布団にもつき、痛々しさを増していた。
「むちゃしおって、起き上がれる状態ではないぞ」
やはり傷口が開いてしまっていた。ローレイはしかたなく糸と針の用意をはじめたのだが、昨夜の状況からしてライラとイズの協力なしに治療することは難しい。
どうしたものかと考えていたら「大丈夫」にっこりと笑ったゼノがそういい切った。
「暴れたら治療できんぞ」
「うん、じっとできるよ。だって僕男の子だもん」
覚悟を決めた瞳。どうしても外にいる二人に知られたくない、傷を隠す覚悟。ローレイは一度深く目を閉じ、ゼノの覚悟を信じて治療を開始した。
「……ぐぅ」
体中に力を入れて、痛みを耐えるゼノの口からときより漏れる声。布団を必死に噛み締めて、ゼノは外へ漏れる声を防ぐ。昨夜のゼノとはまるで別人だった。
「水、汲めましたか?」
井戸の中にあるロープを引き、水を汲んでいたライラの元へイズがやってきた。
「イズ、サボってるとあのばあさんに怒られんぞ」
「だってどう考えても、まだ薬屋は開いてないと思うんですよね」
にこやかに笑ったイズが、まだ買出しに行っても無駄だとライラの隣に足を運ぶ。一方、水汲み途中のライラは再び仕事を再開する。穏やかな風が吹きぬけ、眩しい日差しが徐々に頭上に昇っていく。小さく聞こえる鳥の声が朝の清々しさを演出していたが、イズとライラは、あれから一言も声を発してはいなかった。
水を汲むライラを横目にし、イズは静かに空を眺めていた。
「どうした」
何も言わずに、じっと隣に立つイズに痺れをきらし、ライラはようやく声をかけた。たぶんなにか言いたいことがあり、ここへきたのだから。
「どうしてかな? と、思いまして……」
「なんだそれ」
「なんでしょうかね」
答えなのか、質問なのか、まるでわからない曖昧な返事をしながら、イズは苦笑した。どこか泣きたそうな雰囲気を漂わせて。
「話したくないなら、無理すんな」
イズの気持を察したわけではないが、無理になにかを話す必要はない。ライラはそういって、汲んだばかりの水で顔を洗う。
「……ただ、ライラは聞かないんだなぁと思ったんですよ」
「なにを」
「ゼノにですよ」
ハクコクジュから新たに生まれたと告げた3人が、話したゼノの本当の目的。『世界を壊しにきた』確かにレムと名乗った男が口にした言葉。全てを信じたわけじゃないにしても、否定もできない。
ゼノが何を望んでいてもいいと、一度は思った。……けれど、生まれてしまった不安は日に日に膨らみ、イズの心を蝕んでいた。




