ステージ7『真理』(51話)
「ゼノに出会って、ボクは本当のボクを取り戻した。今、すごく楽しいんです。……だから、ボクを救ってくれたゼノをボクも救いたいんです」
祈るようにゼノの手を両手で包み、イズは優しくも強くその手を握り締める。そして、願いと決意を口にした。
「守らせてくださいねゼノ」
「……ぅ」
イズが願うと同時にゼノの声がした。
「ゼノ、大丈夫ですか?!」
かすかに動いたゼノに、イズは慌てて顔を覗き込む。ゆっくりと開かれるその瞳は、半分ほど開いたところで突然大きく見開く。
「痛いのはもうやだってばぁ!」
目を覚ました瞬間いきなり叫び声をあげ、ゼノは勢いよく起き上がる。そして当然といえば当然の結果を招き、
「いったぁ~~」
と、今度は悲痛な声をあげ、痛みを感じた全身を抱え込むようにうずくまった。
「動いちゃダメですよゼノ。治療はもう終わりましたから」
「……終わったの?」
「ええ、あとは完治するまで絶対安静です」
いつもの優しい笑顔を向けながら、イズは優しくゼノに現状況を説明したのだが、ゼノの顔はみるみる歪んでいき、しまいには泣き出してしまっていた。何かマズイことを言ってしまったのかと、イズは次にかける言葉を探す。……が、結局何も見つけられずただただ大粒の涙を流すゼノを見た。
「鬼ばばあと一緒は嫌だよぉぉぉ~~~~~!」
いきなりそう叫びながら、ゼノはさらに大声をあげて泣き出した。思わず何を言われたのか認識できなかったイズは、呆然とその場に固まったのだが、次に現れた人物にさらに固まった。
「だぁれが、鬼ばばあじゃ!」
「でた――っ!」
「わしは化け物かっ!」
ゼノの叫び声に目が覚めてしまったローレイは、超不機嫌な顔で扉をあけ、ゼノを睨みつける。もちろん睨まれたゼノの次の行動は、
「イズたぁ~ん、鬼ばばあが僕を睨むぅぅぅ」
隣で固まっていたイズに隠れるように抱きつく。
「まだ言うか、おまえは」
「だって僕、殺されるかと思ったんだもん」
「わしは医者じゃ、誰が殺すか。それにしても、もう動けるとはお前さんの回復力は化け物なみじゃよ」
驚きと唖然を足して割ったような声で、ローレイはゆっくりとゼノの横を通過した。あれほどの怪我を負っていたというのに、数時間後には元気に飛び起きているのだから、ローレイじゃなくても化け物だと思うだろう。
普通に見ても数日は起き上がれるレベルの怪我ではない。
「ったく、お前はちったぁ静かにできねぇのか」
ローレイが家の外へ出て行き、ローレイの立っていた場所にライラが前髪をかきながら姿をみせ、ゼノを見下ろす。
「……ライラ」
いつもの癖なのか、泣きつくゼノを撫でるイズは、ライラの姿にようやく我に返った。
「イズ、お前もゼノを甘やかすな」
「あは……それはそうなんですけどね」
「おら、お前はおとなしく寝てろ」
イズに抱きついていたゼノを強引に布団に戻しながら、ライラはクスリと笑う。それは嬉しさからでた笑顔。起き上がって、泣いて、叫んで、言いたい放題ができれば問題ない。
ライラはどこも変わらないゼノに、どこか安心と喜びを感じていた。だが、めずらしく優しい笑顔を見せたライラを気味悪く見ているものが目の前に。
「ど、どうしたのライたん。……変な顔がすごく変になってるよ」
プチッ確かに可愛くそんな音が聞こえたような気がし、いち早くイズが一歩下がる。そしてライラはこわ~い笑顔を作り上げる。
「何か言ったかなゼノくぅ~ん」
「なんかすっごぉ~く怖いよライたん」
がっしりと両肩を掴まれて、ゼノが苦しまぎれに笑ってみせる。それでもライラの表情は満面な笑顔。
「どうやらゼノくんは視力が悪いみたいだな」
「僕、両方2.0以上はあるよ。ライたんもしかしてもうボケたの」
プチップチッ可愛らしい音はさらに追加される。
「ゼノ、仏の顔も3度までってことわざ知ってるか?」
「仏の顔……3度……、なにそれ?」
「いかに温和で慈悲ぶかい人でも、たびたび無法を加えられれば、しまいには怒りますって意味だ」
笑顔を保ったままライラは丁寧にご説明。
……しかし、ゼノがそれを理解し、この状態をそれに結びつけることは叶わず、
「ライたんって物知りなんだね。だからおでこハゲちゃったんだね。いっぱい勉強したんだ」
と、全然フォローできてない台詞を口にした。よって、
「表に出ろ!」
胸倉を掴まれるという結果を招く。
「ちょっとライラ落ち着いてください。ゼノは怪我人です」
「イズはひっこんでろ! 決着をつけてやる」
ものすごい剣幕で胸倉を締め上げるライラの顔は鬼の形相。すでに怪我人も病人もない、今すぐに今日までのケリをつけるつもりだ。
「ぐっ、ぐるじいぃぃぃ」
締め上げられ、呼吸困難に陥るゼノ。
「毎度言いたい放題言いやがって、てめぇは」
怒りに打ち震えるライラ。
「ライラ、とにかく手を離してください。ゼノが泡吹きます」
なんとかゼノを締め上げる手をどけたいイズ。
「何をしておる!」
と、そこへ怒りの一声が降る。現れたのは外へ出て行ったローレイだった。手にはなにやらたくさんの野菜やら魚やらを持っていた。どうやら3人のために、食事の材料を仕入れに出かけていたらしい。




