ステージ7『真理』(50話)
「死ぬぅぅぅぅぅ~~~~、いったぁ~い」
「これくらいで死ぬか、ばか者!」
「ああ――っ、わぁぁぁ」
容赦なく針を刺したおばあさんに、すさまじい叫びを上げたゼノがそのまま動かなくなってしまった。手足、全身から力が抜け、あれほど騒いでいたゼノがピクリとも動かなくなり、その光景にライラとイズは一瞬動きが止められ、いいようのない不安に襲われた。
「ゼノ……」
「おい、お子様」
血の気のない顔で泡を吹いてぐったりとなってしまったゼノを、二人は震える瞳で直視する。
「心配せんでもいい、貧血と極度の痛みで気を失っただけじゃ」
治療を継続しながら、おばあさんは投げ捨てるように二人に言葉を投げた。それを聞いたライラとイズはとりあえずほっと息をつく。
「よし、ここはこれで終わりじゃ」
歯で糸を切り、おばあさんは次なる治療へと手を伸ばす。部屋いっぱいに広げられた薬草やら塗り薬やらを少しずつ広い集め調合していく。
「そこの茶髪は外へいき、真っ直ぐで丈夫そうな枝を数本見つけてこい。それと金髪はお湯をわかせ」
安堵の床についていた二人に、おばあさんが命令口調で仕事を言いつける。真夜中も真夜中に転がり込んできたゼノを治療してくれたおばあさんには逆らえない、二人は言いつけどおりにそれぞれの仕事に向かう。
「最低でも2週間は絶対安静じゃ、それからさらに2週間ほどは無理をさせるでないぞ、よいな」
湯をわかすイズに、おばあさんはゼノの容態から計算される治療時間を述べた。
「はい」
「それまではここを自由に使ってかまわん」
「えっ? それって……」
「どうせ一人暮らしじゃ、3人くらい増えたとてたいした問題ではないわ」
いくつもの薬草を石ですり合わせながらおばあさんが、泊まるところを用意してくれた。
口調は怖いがすごく優しい人だと、イズは心から感謝するとともに、
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
と、言葉を返した。ライラが戻ってくると、使えそうな枝を使い、おばあさんはゼノの左足と左手に調合した薬を塗りつつ、その枝を布でしっかりと固定していく。
「骨がつくまではこのまま動かすでないぞ。それにこれだけの怪我を負っておる、もしやすれば熱にうなされるやもしれん、常に誰か傍にいて冷やしてやることじゃ」
一通りの治療を終え、おばあさんは部屋いっぱいに広げた薬草やら道具を片付けながら、心配そうにゼノを見守る二人にこれからなすべきことを告げた。
「夜中に転がり込んできて悪かったな、ばあさん」
「ばあさんではないわ。わしはローレイという名じゃ」
「そりゃぁわるかったよローレイさん。でもマジでありがとな」
大怪我を負ったゼノを見るなり、どこの誰かもわからない奴らをすぐに家に入れ、治療をしてくれたローレイにライラもイズも言葉では言いあらわせないほどの感謝をしていた。二人は片づけをするローレイに向かい、深く頭を下げた。
「医者として怪我人を放っておけなかっただけじゃ。それにまだ完治したわけではない。人の身体なんぞいつ急変するかわからんからな」
「それでもありがとうございました」
さらに頭を下げたイズを横目に、ローレイは少し頬を染め、気づかれないように小さくうなづくと、
「夜が明けてしまうぞ、布団はそこじゃ、とっとと敷いて寝んとお前らが倒れてしまうぞ」
半ば乱雑に片付けを終え、ローレイは二人に布団のありかを教えると自分で敷いてとっとと寝ろと乱暴な口調でいった。
「ボクはゼノについてます」
先ほどよりやわらかな表情になったゼノの顔を覗き込みながら、イズはライラに先に寝てくださいと促す。枕元には冷たい水を用意して。
「イズ、何かあったら起こせよ」
「はい」
一言それだけをいい、ライラは無理強いすることもなく、ローレイにいわれた場所から布団をひっぱりだし床につく。
意識が戻るまで傍にいてやりたい気持はイズと同じ、だが、もしもここで敵の襲撃を受ければそれこそ共倒れもいいとこだ。守るためにライラはおとなしく眠りへとついた。ローレイが言ったように、ゼノの全身から汗が出始めた。
熱が出てきた。イズはゼノの額に乗せた布を何度も冷やしながら入れ替え、治療の施されていない場所の汗も拭っていく。冷たい布を宛がえば、ゼノはそれが気持ちいいのか、少し落ち着いた表情へ変わる。
イズは睡魔などなく明け方までゼノを看病していた。徐々に熱も引け、イズは取り換えていた布を額から外すと、夜明け前のしんとした静けさのなかで、傷だらけになったゼノの手をそっと包み込むように掴んだ。
「ボクは、ゼノが何を望んでいてもかまいませんよ」
返事が返ってこないとわかっているからこそ、イズは素直になれる。イズが何者で、どうしてここに来たのか、その目的はなんだったのか、何一つ聞いてこないゼノ。
それは今も変わらず、疑うことも不信感を抱くこともなく無邪気に懐いてくるゼノ。
心のどこかでゼノを裏切っているのではないかと、イズは胸に棘を生む。
「憎しみしかなかった……、それなのに、今ボクは笑ったり怒ったりしている」
遠い昔を思い出すかのように、イズは懐かしくも悲しみに満ちた過去を思い出していた。怒りに暴走することもなく、冷静さを装い、常につくり笑顔を保っていた過去の自分。それが復讐を誓った自分のやるべきことだと考えていたから。でも歯車がズレはじめた。ゼノに出会い、知らず知らずのうちにイズは心から笑い、怒って、泣いたりもできるようになった。




