ステージ7『真理』(49話)
── ドサッ ──
鈍い音とともに、ゼノは誰かに受け止められた。
「ナイスキャッチだね、ライたん」
「……ったく、オレが受け止めなかったらどうするつもりだったんだ」
突如頭上から降ってきたゼノをなんとか受け止めたライラが、文句をいいつつ複雑な表情をした。その隣にはもちろん
「ほんとに手がかかるんですから……」
と、ため息混じりに声を出したイズもいた。
「えへへ、だってライたんとイズたんの気配がしたんだもん」
「気配だけでお前は降ってくんな」
「って、血だらけじゃないですかゼノ! ライラが受け止めなかったら即死ですよ」
両者から小言を言われるが、ゼノは反省の色も見せず、白い歯を見せて笑う。
「受け止めてくれたでしょう」
ニシシと笑いながらも、ゼノの瞳は『ありがとう』と語っていた。だからライラもイズもため息を含ませつつも笑ってみせた。
「世界の音がしたんですよゼノ」
唐突にイズがそう話す。
「世界の音?」
「ええ、かすかではありましたが、ゼノの元へと導く音がね……もしかしてハクコクジュだったりしてね」
「そっか、きっとそうだよ。僕、絶対にコクハクジュ見つけるからね」
離れていた間に何があったのかはわからないが、ゼノはいつもの茶化した感じではなく、強い意思でライラとイズに宣言した。
「だったらまずはその怪我治さないとだめですね」
優しく微笑みを返し、イズはいつもどおりにゼノに優しく接する。
「で、あいつらどうするよ」
朽ち果てた城を目の前にライラが鋭利に細めた眼で見上げた。城の中にいるだろう敵と認識できる3人を捉えるように。
「もういないよ」
ライラの腕の中でゼノがボソリと言った。さっきまであった結界も気も完全に消えていた。
「いないってどういう……」
「逃げちゃったみたいだよ」
「だったらボクたちが行くべきところは一つですね」
「イズたん?」
「医者ですよ」
血まみれのゼノの鼻を指でつついたイズがにっこりと笑った。
「だな」
ライラも納得し、3人はここより1番近くの医者目指して、誰もいなくなった城をあとにした。
◆◆◆
レム、シオン、クレイデスは、朽ちた城をあとにし断崖絶壁の先端に立っていた。
「すまんレム」
ゼノを逃してしまった責任は全て自分にあるとクレイデスが謝罪する。近くの町まで医者を探しに行ったのだが、たまたま隣町まで出張しており結局見つけられず、隣町まで行こうかと思っていたのだが、城から不穏な気配があり、レムとシオンは急いで戻ってきたが、城に戻ればゼノがライラとイズと合流している姿が見えた。
結界がはってあったはずなのに、二人は城を見つけられた。レムはやはりあの二人は侮れないと微かに歯を噛み締める。眼下に見下ろす広大な大地を眺め、吸い込まれそうな空の青に世界が飲み込まれていく錯覚を覚えながら、レムは遠くにゼノを見る。
「放っておいてええんかレム」
「今はね」
「なんなら俺があの二人片付けてきてもええで」
やるきまんまんのシオンが楽しげにレムにそれを提案した。しかし、レムは静かに首を左右に振った。
「まだその時じゃない」
「それってどない……」
「事を起こす時期じゃないってことだよシオン君」
あくまでも冷静さを保ち、レムはかすかに口元を歪めた。遠くに見えたゼノを嘲笑うかのように。
「レム」
急に黙ってしまったレムを心配するかのように、クレイデスがそっと声をかけると、レムはどこか楽しげに振り向いた。
「その時はもうすぐ来る。それにその時までおにいちゃんを拘束しておくことは難しいみたいだしね」
先ほどの状況を思い出し、レムは時が来るまでゼノを捕捉することを諦める決意をした。クレイデスもシオンもレムに反対する理由はない、静かにレムと同じ大地を眺めながら頷いた。
「それじゃぁ、それまでにやることをやらないとね」
3人は、霧のように姿を消した。
小さな村に響く悲鳴に近い叫びは、まるで子供の泣き叫ぶ声。山々にいる狼でさえ遠吠えを躊躇するだろう響きだった。
「うわぁ~~~、痛い、痛い、いったぁ~~~~~~い!! 死ぬぅぅ!」
我慢する、耐える、おそらくそんな言葉は叫ぶゼノの辞書にはないだろう。とくかく泣き叫び暴れる。
「暴れるでない! 男だったらこれくらい我慢せい」
手に針やら布やらを持った怖い顔のおばあさんが必死にそう口にしながら、ゼノに治療を施していた。
「ぐわぁ~~~~~~~~~~~」
「お前さん方しっかり押さえとるんじゃ」
麻酔なしで傷口を縫われる痛みにゼノが暴れる。それを取り押さえるのはライラとイズ。
両手をイズが押さえ込み、両足を押さえるのはライラ。その痛々しい姿はさすがに直視できず、二人は目を逸らしながら力いっぱい押さえるが、ゼノが本気で暴れるため押さえるのでさえ苦戦を強いられていた。
「……くぅ、ゼノ頑張ってください」
「すぐ済むからおとなしくしろよお子様」
二人は必死にゼノを抑えながら声をかける。あれからようやく見つけた村で、山奥に隠居した医者が一人いると聞き、急ぎ向かえば事情も聞かずにすぐに診てくれた。だが、十分な医療用品が揃っているわけでもなく、とりあえずできるかぎりの治療を施すことになった。
で、麻酔なしの小手術に至っているわけである。




