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ステージ7『真理』(48話)

「急いでくれ。シオンの奴、手加減を知らんからな」


そのせいでゼノが瀕死なのだと、クレイデスが苦い顔を見せる。


「すぐ見つけてくるからっ」


高い声を響かせて、レムがシオンとともに医者を探しに行くため、建物を出ていく。二人が去り、音の消えた建物でクレイデスは近くにあったベッドにゼノを横たえる。

シーツを割き、穴の開いた腹部の血を少しでも抑えようとそれを巻いたがゼノから溢れる血はベッドを徐々に赤く染めていく。

その隣に立つクレイデスは、赤い海に沈んでいくようなゼノを不審な眼差しで見下ろした。


「シオンなど簡単にねじ伏せられたはずだ……。なぜ戦わなかった」


状況と怪我の度合いからして、抵抗もせず一方的にやられたのは見て取れる。

レムから平和主義者だとは聞いてはいたが、ここまでされてまでそれを通すことに訳も理由もないだろうと、クレイデスはゼノの真の目的が何一つ思い浮かばず、一人静かに探る。

ここにはライラという者もイズという者もいない。力を解放したとしても悟られることなどありはしない。それなのにゼノは死ぬかもしれないこんな状況まで追い詰められた。


「お前は何を隠している……」


ただの平和主義者でもお子様でもない。ゼノの真の姿はどこにあるのかとクレイデスは届かない声をゼノに掛ける。その答えは見つからないと知っていても、クレイデスは探ることを止められなかった。ハクコクジュはゼノ=クロノムに何を望んだ。

ゼノ=クロノム、お前は何を望んでいる。

世界はどんな未来を望んでいるのだと、訝しくゼノを見下ろすクレイデスは、ゼノしか知らないその秘密を知りたいと瞳を細めた。


「……ぅ、うっ、……」

「気がついたか?」


しばらくの後、呻く声をあげてゼノがゆっくりと漆黒の瞳を開いた。壁に背を預けて立っていたクレイデスが、意識を取り戻したゼノに静かに声を掛ける。とても動ける状態ではないはずなのに、ゼノは静かに苦痛に顔を歪ませながら上半身を起こした。


「動くな、今医者を呼んでいる」

「血、……だらけ、だ」


起こした全身を眺めながら、ゼノが嫌悪感を前面に出して、不機嫌な声をだした。腹部の傷を抑えた時についた血が手のひらに広がっており、ゼノはその血をベッドのシーツで拭う。

固まり始めていた血はどんなに拭っても落ちはしなかったが、それでもゼノは何度も擦った。自分が流した血だとしても、その色は変わることのない赤。


「なぜ抵抗しなかった」


ゼノならば、シオンにここまでやられるはずなどないだろうと、疑問に思っていたことをクレイデスはぶつける。


「僕は戦わない……」

「それに何の意味がある」

「意味なんてない、よ……、くはぁ……ッ」

「何をしている、大人しくしていろ」


痛みに耐えながらようやく上半身を起こしたゼノが、今度はベッドを降りようとしていた。痛みを感じないのか、一瞬そんなことを考えてしまうくらい、ゼノは必死に立ち上がろうとしていた。けれどその表情は苦痛に歪み、何度も崩れそうになりながら動いているところを見れば、普通に痛感を感じていることは分かる。怪我の状態からみても動けば激痛は免れず、立つことなど到底無理な状態だと判断できる。だからクレイデスは壁に背を預けたまま視線だけでゼノに無理をするなと促す。だが、ゼノはフラフラになりながらも、痛みも必死に堪えてベッドから立ち上がった。


「お前は死にたいのかっ」


さすがに焦ったクレイデスが、壁から離れる。


「お迎えだよ」


意味深な台詞を吐いたゼノが、部屋の窓を開け放った。

開け放たれた窓から風が巻き起こり、ゼノの黒髪を攫う。


「そんな身体で何をする気だ」


開け放った窓を背にゼノは微笑んでいた。


「戻らなきゃ……」

「戻る、だと」

「僕を迎えにきてくれた、両親のところに、……ね」


嬉しそうに笑ったゼノが背中から窓の外に落下する。


「バカなっ!」


慌てたクレイデスが窓に駆け寄り手を伸ばしたが、その手はゼノに届くことはなかった。

落下するゼノが叫ぶ。


「僕は自分の望みを叶える、レムたんにそう伝えてね」


あんな状態でこの高さを落下するなど自殺行為だとクレイデスが、落ちていくゼノを眺める。しかもここには結界がはられており、誰かがここを見つけることは愚か、入ってくることもできないはずだと、クレイデスはゼノが死に急いだと思い、舌打ちした。

身を乗り出して落下するゼノをただ見ることしかできなかった。まるでスローモーションのように落下してくゼノ。クレイデスは動けないと判断した自分の過ちに後悔を抱く。


「……チッ、油断した」


ゼノを失う訳にはいかなかったのに、ゼノは自ら死に赴いた。戻るとは、ハクコクジュの元へ還るという意味か。

クレイデスは完全にゼノを失ったと、苦虫を噛み砕いた後のように苦い表情を浮かべ窓に掛けた手に力を込めた。しかし、誰もいないはずの地上に影を二つ見た。ここからでは人物の特定はできなかったが、影はゼノの真下にいる。



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