ステージ7『真理』(47話)※
「あんたは大切なキーや、逃がすわけにはいかんのや」
「バカザルには言われたくないもん」
シオンへ顔を向け、ゼノは唾を吐きかけるようにそれを口にした。……いつもの癖。
「誰がバカザルやて!」
「君以外に誰かいるの? このアホ、バカ、甲斐性なしの出来損ない」
もはやゼノは言いたい放題であり、シオンの怒りは頂点へと達する。
ガツンッ
ゼノの身体が蹴り上げられ、脆い壁に激突した。
「ぐあっ! ……うぐぐ」
もろに壁に打ちつけられた身体を丸め、床に転がりながら、ゼノが苦しげに呼吸を整える。唇が切れ、口元からわずかに血が流れるが、それを拭い去ることもできずゼノはじっとシオンを見る。
「あんたの身柄は俺らの手にあるんや、口の利き方にはきいつけたほうがええで」
口元をつりあげ、シオンが壁の残骸とともに転がるゼノを見下す。
「……ぅ、僕って素直だからお世辞とかいえないんだよね……ごめんねバカでマヌケで出来損ないのアホザルさん」
「もっと痛い目みいへんとわからんようやな」
そういうとシオンはゼノに近寄り、転がるゼノの腹に再度蹴りを繰り出す。床を滑りゼノは背中から壁に衝突した。
「──ぅ、ぐ。……が、はぁ……」
背中を強打し、ゼノの息が一瞬詰まる。それでもゼノはシオンを睨みつけたまま薄く笑う。
「なんやその顔は」
「アホ面だなと思って……」
また蹴られるとわかっていて、ゼノはシオンを挑発する。
「なんやとっ。その口効けんようにしてやろか」
蹲るゼノの髪を掴んで、無理やり立たせたシオンは、狙いを定めてゼノの鳩尾目掛けて思いっきり足を繰り出した。その破壊力はすさまじく、ゼノは脆くなっていた壁をいくつも破壊してすっ飛ばされた。
「ぐ、ぁ……、ぁぁぁ──ッ……っ」
それでもシオンの怒りは収まらず、飛ばされたゼノを追いかけ、再び捕まえるとさらに蹴りを繰り返す。空き部屋にあった机や椅子を破壊しながら、ゼノが床を転がるように何度も壁に衝突する。ガラスの破片で切ったのか、腕から血が流れ、口腔も鉄の味が満ちる。
「わかったか」
散々痛めつけたシオンが、余計なことをいうとこうなるのだとゼノを残忍な瞳で見下ろす。どこがどう切れているのかも分からず、ゼノは血まみれで床に転がっていたが、ゆっくりと口を伝う血を拭うとまた薄く笑みを作った。正直、立ち上がることはできない。全身を襲う痛みは動くことさえ拒む。
「分からない、よ……っう、……頭の悪そうなクルクルパーさんのいう事なんかわからないけど……」
「まだ言うかッ!」
「遇者のくせに……」
こんなになってもまだ反論するゼノの胸倉を、シオンは力任せに片手で持ち上げると背後にあった暖炉へと力いっぱい放り投げた。暖炉の前にあった柵に激突し、ゼノがその柵と道具とともに床に崩れる。
「うっ、ぐぅぁぁぁ──っ!」
腹部に走った激痛にゼノが悲鳴をあげた。
「何してんの、シオン君ッ!」
凄まじい音にレムとクレイデスが駆け付けたが、そこはすでに目も当てられない光景と化していた。所々壁は破壊され、部屋にあった机や椅子は壊れ、廊下から部屋、至る所にゼノの血がつき、血だらけで痣だらけのゼノが床に転がっている。
「シオンっ」
クレイデスが一喝入れて、床に倒れるゼノの元へと急ぐ。ゼノの腹部に鋭利なものが刺さっているのが見えたからだ。おそらく暖炉にあったタックの類だろう、シオンに投げ飛ばれて運悪くゼノの腹部脇にそれが刺さり、貫通していた。駆け付けたクレイデスがそれを引き抜こうとしたが、それよりも先にゼノが力任せに自力でそれを引き抜く。
「ッ、ぁあ──。はぁ、ぁ……」
貫通していた腹部脇から道具が引き抜かれ鮮血が流れる。
「大丈夫、おにいちゃん!」
レムもまた急いで駆け付けるが、ゼノは真顔で傷口を手で押さえると立ち上がろうとしていた。
「動いちゃダメだよ」
「……邪魔だよ」
立ち上がろうとしたゼノを制止するためにレムが手を伸ばしたが、ゼノはその手を叩き落とした。壁に手をつき、ゆっくりと立ち上がるゼノは、誰も寄せつけない殺気を纏い身体を引きずるように歩き出す。
「どこいくねん」
苛立った声が掛けられる。
「お父さんとお母さんのところだよ……」
「ハクコクジュから生まれたもんに、そないなもんおるわけないやろ」
「いるもん。お父さんは短気でオヤジだけどいつも僕と遊んでくれる。……、く、はぁ……お母さんは美人だけど怖くて、でも……すごく優し……」
そこまで言いかけたゼノの身体がゆっくりと床に倒れていく。意識を失って。
トスッ
壁を伝ってゆっくりと倒れるゼノをクレイデスが受け止めた。
「レム、医者だ。出血と打撲が酷すぎる」
ゼノの容態を確認し、クレイデスが冷静に判断する。このままでは死んでしまうかもしれないと。誰でもいい、早く医者を連れてこいと伝えた。
「いくらハクコクジュから生まれた者でも、命は一つなんだから大切に扱ってよねシオン君っ」
「悪かったって」
「もうっ、シオン君は乱暴なんだからっ。ほら行くよ」
レムはシオンの腕を引っ張って、一緒に医者を探しくいくんだと連行していく。




