ステージ7『真理』(45話)
「おにいちゃんは平和主義者だからね」
「平和主義者って……おまえなぁ、そないのんきなこといっててええんか?」
始めからゼノが協力などしないとわかっているレムが、焦った様子もなく明るく答えるから、シオンが大きなため息をついた。
「おにいちゃんは、血を嫌い、殺生を拒絶し、それを望まない。だからライラ君とイズ君を選んだ」
「それって、あの二人に汚れ役を押し付けてるって……」
「悪く言えば、二人を利用してるってことだよ」
「そのこと、二人は知ってるんか?」
「知ってたら、一緒に旅なんかしないと思うけど」
「そんなら騙されてるってことやないか」
シオンはつい声をあげてレムに言い寄る。
だが、レムは苦笑しながら眉を寄せて、そこが謎なんだと顔を顰めた。
一緒にいても、ゼノをハクコクジュに送っても、何も得をすることはない。しかも天界からも地界からもゼノをめぐって敵が来る。その上ゼノは戦闘をしない。一体二人は何のためにゼノを世界に届ける旅に付き合っているのか、そもそもハクコクジュが二人に何かしらの補助をしているもの気に入らない。
本心も実力も見せないゼノに対しても、それは同じだったが、レムはライラとイズが無償で、なんの見返りも求めずに協力していることに、不可解さと不愉快さを味わう。
「弱いふりまでして……。おにいちゃんが、何考えてるか分からないよ」
吐き捨てるようにレムが言葉を吐けば、シオンが難しい顔をしながら顎に手を添える。
「なんでや、あいつは最強なんやないんか?」
何か目的があるなら、協力者などいなくても、一人で出来るんじゃないかと問う。
「世界を巡ってる」
「へ?」
「目的は分からないけど、おにいちゃんは世界を巡ってるんだ」
「世界旅行かいな」
思わずツッコんだシオンに、レムがクスリと笑う。
「一人旅は寂しいのかもね」
場の空気が和み、レムも冗談を口にする。そして、すぐに真剣な表情を取り戻し、レムはゼノを語る。
「純白……、おにいちゃんは穢れなき場所から生まれた」
レムは自分たちとは生まれた場所が異なるのだと、苦笑を交えて小さく声を出す。ハクコクジュが自らを犠牲にしてまでも生み出した我が子。それに託した願いも意図も不明。
今分かっているのは、ゼノが極度の平和主義者だということのみ。
レムの話を静かに聞いていたクレイデスは、静かに腕組をすると目を細めた。
「しかし、私たちではあの者に勝てないのだろう。なにか手があるのか?」
余裕を見せている場合ではないだろうと、クレイデスが言葉を挟んだ。
「確かに本気のおにいちゃんには勝てない。……たぶん秒殺だろうなぁ」
「秒殺って、ほんまどないするつもりなんやレム?」
「でもおにいちゃんは本気がだせない」
「はぁ?……なんやそれ」
ゼノが本気で歯向かえば自分たちなど秒殺で片付けられてしまうが、ゼノが本気を出せない理由があるのだとレムは話す。
だから、それについての問題はないと言った。
まるで意味が分からないとシオンとクレイデスは、眉間に皺を寄せてレムを見る。
「ぼくがハクコクジュから生まれたことに意味があって、鍵になってるんだよ」
「鍵だと」
冷静な笑みを浮かべるレムにクレイデスが疑問の声をあげる。
「ぼくとおにいちゃんの共通点、それは対なんだよ。ぼくたちは同じハクコクジュの力を持っている。まあ、おにいちゃんに比べたら偽物程度だけどね」
レムはゼノに比べたら大したことない力しか持っていないと正直に話す。その力は偽物と変わらないと、本物には勝てないと苦笑いを浮かべた。
それでもハクコクジュの力には変わりはなく、ゼノ相手じゃなければ誰よりも勝る力。
「同等の力があるのではないのか?」
「残念だけど、おにいちゃんが本物。けどね、おにいちゃんが力を解放できる時間は限られている」
「それはどういう意味だ、レム」
「タイムリミットを過ぎたら、おにいちゃんはたぶん消滅する」
レムは冷たく言い放ち、同時に少し寂し気な色も見せた。
「消滅って、どないなってんねん」
力を解放したら、消えてしまうなんてどういう仕組みなのかとシオンが食いつく。クレイデスもまた不信な瞳でレムを見た。
「それは……、ぼくも同じことなんだけどね」
レムもゼノも力を解放できる時間は制限があるのだと話した。長く強大な力を解き放てば、自身がその力に飲み込まれる、いやハクコクジュに飲み込まれると言った方が近いとレムは、少しだけ目を伏せた。
だから、ゼノは力を隠しているのではなく、使えないからライラやイズと一緒に旅をしながら、自分の目的を果たしているのだと説明した。
その目的は不明だと、レムは追加して。
「レム」
「それにね、ぼくたちが同時に力を解放したら、共鳴が起こってどうなるかわからない。だからおにいちゃんは本気で解放できない」
力が共鳴することで、互いが消滅する可能性が限りなく高い。おそらくゼノもそれをわかっている、だからこそゼノは抵抗も見せず簡単にこちらの手に落ちた。
通常のゼノならば、普通の人と何も変わらない。攫ってくるのも、捕えるのも簡単なことだとレムが微笑んだ。




