ステージ7『真理』(44話)
「そやけど、ハクコクジュがなくなってしもうたら、それこそ全ての終わりやで」
赤髪のシオンが横から口を挟んだ。腕には意識を失っているゼノを抱きかかえたまま。
痛いところをつかれ、イズもライラも口を紡ぐ。
視界にはゼノの黒く長い髪が風に泳いだ。そして気づいたことがある。
「なら、なぜゼノはハクコクジュに会いたいなんて言ったんでしょうか?」
隣に立つライラに問い掛けるように、イズはボソリと小さくその疑問を口にした。
「イズ?」
「ハクコクジュが手遅れならば、ゼノはなぜすぐに世界を消さなかったんでしょうか?」
生まれたその時に全てを消せるなら、始めからそうすればよかったのにと、イズはゼノの行動を不自然に捉える。
わざわざあの森を抜ける方法を探さなくても、ライラとイズと一緒に旅をする必要もなかったのに、ゼノは自分には力はないといい、あくまでもお子様で通してきた。
とはいえ、あれがゼノという人物だとは思うが。
「別の方法……」
イズの疑問にライラが答えを探す。
「そうですよ、きっとゼノは別の方法を知っているんです」
「ありえんな」
結論を出したライラとイズに冷静な声がした。声の持ち主はクレイデス。
「そやそや、ハクコクジュを救うんはそれしかないんや」
「あります! ボクはゼノを信じます」
「なんやすごい力はいってんな、そこの金髪美人さんは……」
身体を少し折り曲げてシオンは覗き込むようにイズをからかう。
からかわれたイズももちろん黙ってはいない。
「妙な口調の遊び人みたいな方に、そんなこと言われたくありませんね」
「俺が遊び人やて……こないかっこええ男前の俺にいうかいな、それを」
「ご冗談でしょう。どっからどうみても野蛮な人じゃないですか」
両者はにっこりと微笑んだまま見つめあった。
同時にライラとクレイデスもまたじっと互いの様子を伺っていた。次に動いたときが始まりだと合図を待ちながら。
だが、両者が刃を交えることはなかった。
「行くよ」
くるりと向きをかえ、レムがシオンとクレイデスに声をかけた。
「なんやもう帰んのかレム」
「用は済んだ、帰るぞシオン」
「へいへい、わっかりやしたよ。そいじゃぁ、元気でな金髪美人さん」
最後の最後まで嫌味を言ったシオンとともに、3人は影のようにスッと姿を消した。
「待て!」
「逃げるんですか!」
大慌てで声をかけたライラとイズだったが、相手の姿はすでにどこにもなく、ゼノを連れて行かれた。
取り残されたライラは武器をしまい、軽く舌打ちをするとその場に勢いよく腰を下ろす。
「何がどうなってやがる」
それはあまりにも突然に知らされた事実。
確かにゼノに関してはなにも知らなかった……いや、なにも聞かなかったというほうが正しいかもしれない。
心のどこかで真実を聞くのが怖かったからかもしれないが、ゼノが茶化せば話はそこで終わった。ライラもイズも深く追求したことなどない。それゆえに今全てを聞かされ、戸惑う気持ちが大きくなりすぎた。
「世界を滅ぼす……やっぱり力を持っているじゃないですかゼノ」
自分はなんの力もないお子様を演じていただろうゼノに、イズがポツリと呟く。
「あいつからそんな力、感じたことねぇけどな」
「……ライラ」
「そんな強大な力を持っているんなら、俺たちにだってわかるだろうよ」
両手を地面につけ、ライラは少し身体を傾けて空を見上げた。
さっき現れた3人から感じたような力の差は一度も感じたことなどないと、ライラはひとり言のように口にする。
ゼノに本当にそんな力があるのだろうかという晴れぬ疑問。
「一つだけ確かなことがあります」
ライラの方へ視線を向けイズが笑った。
「なんだ」
「ゼノはこの世界を守りたいってことですよ」
人差し指を立ててイズがにっこりと笑ってみせた。始めから世界を消せたのに、消さなかった……どう考えてもゼノはこの世界を残しておきたかったとしか考えられない。
イズの言葉はゼノを信じていると語っていた。
もちろんライラも同じ気持ちだ。
「迎えにいくんだろう……イズ」
ライラも笑った。
「はい、保護者ですからねボクたち」
「んじゃ、身代金要求される前にとっとと探すか」
「誘拐事件の定番ですねそれ。でもゼノじゃ身代金渡す前に自分で逃走しそうですけどね」
「はは……ちげぇなえな、あのお子様なら逃走率100%だ」
◆◆◆
天界でも地界でもハクコクジュの元でもなく、ここは間界。
レム、シオン、クレイデスはゼノを連れ去り、先ほどライラたちと出会った場所からさほど離れていない朽ちた城跡にいた。
おそらく数百年も前に滅び、いまや人々もその存在を忘れているだろう朽ちた城。
レムは己の力を利用し、城を人の住める状態にしていたが、同時に結界をはり森に隠した。
「なぁレム、あいつ絶対協力せえへんと思うで」
別室にゼノを置いてきたシオンが、ブツブツと文句を口にしながら戻ってきた。




