ステージ7『真理』(43話)
「僕はお母さんのところに帰りたいだけだよ」
「目的を果たしたら、でしょう」
「目的? なにそれ?」
レムに目的があるはずだと指摘されたゼノだが、何を言っているのか分からないと、ゼノは逆にレムに質問を返す。そうすれば、レムは口角をあげて一瞬笑ったような気がしたが、すぐに表情を戻した。
「まあいいや、ぼくは協力しに来たんだし」
ゼノの目的などどうでもいいと、レムはそっと手を差し伸べる。差し伸べられた手の意味することが分からずに、ゼノは「なに?」と、表情を硬くした。
「ぼくと一緒に願いを叶えようよ、おにいちゃん」
差し伸べられた手がゼノの手に触れる瞬間、ゼノはとっさに後ろに下がって、大きく首を振る。それは明らかな拒絶。
そして、ゼノの隣ではいつのまにか武器を手にしたライラとイズが両側に立ち、戦闘に備えていた。
「おにいちゃんじゃないもん! 僕は僕だもん」
おにいちゃんと呼ぶレムを睨むつけて、ゼノは全否定をする。
たとえハクコクジュから生まれたことが事実でも、レムにおにいちゃんと呼ばれることは嫌なのだという強い意思。
それを見たレムは手を引き、足を止めた。
「なら仕方ないな」
パンッ
唐突に両手を合わせて音を立てた。
「……うっ!」
次の瞬間ゼノの身体が前に折れ曲がる。そして、黒い靄のようなもので覆われたゼノがそのまま気を失って、誰かに支えられるとそのままその人物に抱き上げられていた。
一瞬の出来事。ライラやイズでさえ何も見えなかった。気がついたときにはゼノの身体が宙に舞っていた。いや、正確にはゼノを抱きかかえた人物がレムの元へ移動していたのだ。
ゼノの背中に片腕を回し、もう片腕で膝を抱え、抱き上げて立つ一人の赤髪の男。
「わりぃな、あんさんがた。こいつはいただいていくぜ」
軽々しくゼノを抱きかかえ、赤髪の男が笑う。
「てめぇ何者だ!」
「うちはシオンいうねん。以後お見知りおきを……って、もう会わへんか」
へらへらとした顔つきでシオンと名乗った男はレムの隣で笑っている。
だが、レムの隣にはもう一人誰かが姿を現していた。
長い紫に近い黒髪を足元まで伸ばし、その毛先を結っている冷静そうな男。
「今後たとえ会わないとしても礼儀だ、名前くらい名乗れ」
ライラとイズを見据え、初対面なのだから名前を言えと声をかけてきた。
「なら、まずはあなたから名乗るのが常識でしょう」
負けずにイズが言い返す。
「これは失礼した。私はクレイデスだ」
「ボクはイズ=ファートスです」
「ライラだ」
「イズにライラか、覚えておこう」
クレイデスは冷静なまま名前を覚えたと伝える。
両者はそのまましばらく対峙。
強大な力を発するレム、シオン、そしてクレイデスを目の前に、ライラとイズは冷たい汗を流す。本気でヤバイ奴らが現れた。
天界や地界なんてどうでもいいくらいの強者。
ハクコクジュから生まれた存在。……それだけで全てが敵わないとはわかっていても、ライラもイズも指を銜えていることなどできない。
「悪いがそのお子様は渡せないぜ」
しっかりと大剣を手に握り、ライラが鋭く眼を光らせた。
「ゼノをどうするかは知りませんが、あなたがたに渡すわけにはいきませんね」
イズもまた槍を両手で握りしめ、隙をつくらぬように構える。
だがレムはそんな二人を見て声をあげて笑った。
「フフフ……ほんとになんにも知らないんだね。そうだこれで最後かもしれないし、教えてあげるよ。ゼノおにいちゃんの本当の目的を……」
月明かりの下、レムは不適な笑みを浮かべ、クスクスと笑いながらライラとイズにそう言った。
長く一緒にいるのにゼノのことを何も知らないのだと、まるで馬鹿にしたような笑いを含め。
その顔が怖いくらいに冷めていたからなのかもしれないが、ライラとイズはゴクリとのどを鳴らし、レムの言葉を待った。
「おにいちゃんはこの世界を壊しにきたんだよ。全てを消し去るためにね」
「?!」
予想すらできなかった言葉を聞き、ライラとイズは声が出なかった。
そんなこと、信じられるはずなどないが、それを口にしているのはハクコクジュが生んだ者。信じるなというほうが難しい。
なら、ゼノは本当に世界を消すために生まれてきたというのか?
ライラとイズは同じ疑問を心に抱く。
「ハクコクジュはもう長くはもたない。負の力が大きすぎるんだこの世界は……。だからハクコクジュは3つの世界を消して、新しい世界を創造するつもりなんだよ」
「それじゃ、今この世界にいるボクたちはどうなるんですか?!」
世界を消滅させるということは、3つの世界にいる人々も同時に消すということを意味する。イズは理不尽すぎることに怒りを覚えた。
「みんなの魂はハクコクジュの糧になるんだから、光栄に思わないとね」
「糧になるとは、どういう意味ですか」
「ハクコクジュの一部になるってことだよ。こんな光栄なことはないでしょう」
笑顔を崩さずにレムは平然とそれを口にした。3つの世界に住む者たちの命はハクコクジュとなり、次の新しく創造される世界の糧になるのだと。
「……いいか、たとえ神でも人の命を弄ぶようなことは許されねぇ」
燃えるライラの瞳が怒りに染まる。
この世界に生まれたそのときより、命は神を離れ自分のものとなる。奪うことも譲ることも許されない、尊い価値。
一度与えられた命を奪うなどあってはいけない。




