ステージ7『真理』(42話)
※ご注意:ステージ7は流血や暴力的シーンが含まれます。
「こんばんは」
白に近い金髪の小柄な男の子がにっこりと笑って、ゼノ、ライラ、イズに夜の挨拶をする。
これから今夜の宿をとるために寄ろうとしていた前方に見える町の男の子だろうか?
3人は普通に男の子と挨拶を交わし、通り過ぎようとしたのだが、
「探したよ、おにいちゃん」
男の子はさらに笑ってそう口にした。
しかもその視線はゼノを直視している。おそらくゼノに言った台詞。
「えっ、僕のこと?」
「そうだよ、ゼノ=クロノムおにいちゃん」
男の子はあたりまえのようにゼノをおにいちゃんと呼ぶが、呼ばれたゼノは不思議そうに男の子をみる。
だが、ゼノの名前を知っているのは確かに不自然すぎる。間界で始めからゼノの名前を知っている者などいない。だとすれば、天界・地界どちらか。
「天界の方ですか?」
自分と同じ気配を感じず、イズはその問いかけを選ぶ。
「違うよ、ぼくはレム。ゼノおにいちゃんの弟だよ」
「えっ?!」
「はっ?」
「……?」
思いも寄らないことをいわれ、ゼノ、ライラ、イズは言葉を詰まらせた。
聞き間違えではない。レムと名乗った男の子はゼノの弟だと言った。
「ゼノ、お前に弟なんかいたのか?」
グイっと近くにゼノを引き寄せたライラが耳元で尋ねる。
「いないってば。僕は一人だよ」
「じゃぁ、あいつは何者だ」
「僕だって知らないよ」
こそこそと話すライラとゼノは不審な眼差しでレムを見る。その隣では二人の会話を聞きながらイズも目を細めて見据えていた。
月明かりが背後からあたり、レムの髪がさらに白く輝く。
そしてここにきて、ライラとイズは氷のように冷たい気配を感じ取った。凄まじい力と全てを飲み込んでしまいそうな冷気。
「ライラ、嘘じゃなさそうですね」
「マジだな」
引き寄せていたゼノを離すとライラもイズ同様戦闘体制を静かに備える。
「ぼくもねハクコクジュから生まれたんだよ。だからぼくは弟でしょう」
「レムたんっていったよね」
「レムたん?……まっ、なんでもいいけど、それがどうかした?」
「どこから生まれたの?」
ゼノはもう一度確かめるかのように問い返す。ハクコクジュの力をゼノが受け継いで生まれたとすれば、二人目が生まれるはずはない。
ハクコクジュはゼノに全てを託しているのだから、もう一人を生み出す必要などない。
「おにいちゃんがあんまり遅いから、ぼくが手を貸してあげようと思ったんだよ」
片手を差し出すように前に伸ばし、レムはゼノに微笑んだ。
「負……生まれるとすればそれしかないよね」
「当たり。さすがおにいちゃん、ぼくはハクコクジュの負の部分、深淵から生まれた」
張りつめた嫌な空気が漂う中で、ゼノはまっすぐにレムを捉え会話をしていた。
ふざけるそぶりもみせずに、真剣そのもので。
「ゼノ、どういうことだ。オレたちにもわかるように説明しろ」
まったく話の内容がつかめないライラが、事情がわかっているだろうゼノに状況を話すように求める。
「ハクコクジュは世界の中心だよね」
「そいつが世界を創ったんだろう」
「そう世界の核なの。でも、ハクコクジュには闇がある。深い深い音も届かない闇を作っているのは、根なんだ」
ゼノは落ち着いた声で、それを話す。よって、レムと名乗ったこの者は、その闇から生まれたのだろうと推測できると言う。いや、おそらく正解で間違いない。
「御名答。ぼくは紛れもなくハクコクジュから生まれた。だから、おにいちゃんで間違いないでしょう」
再度微笑んだレムは、ゼノの次に生まれたのだから、弟なのだと口にする。だが、ゼノは僅かに目を細めてレムを見る。
(深淵から生まれた? それってどういう意味なの?)
ハクコクジュにゼノ以外の生命を生み出す力なんてなかったと、不信感を抱くが、目の前に現れた者からは、確かにハクコクジュの命を感じる。ゼノは、ハクコクジュが故意にレムを生み出したとはどうしても思えず、自然と眉が上がる。
ハクコクジュについての情報を初めて耳にする、ライラもイズも驚きを感じつつも茶化したりはせずに、真面目に耳を傾けていた。
問い詰めても決して話したことのないハクコクジュのことをゼノが話す。二人にとってそれは危機感を持たせる心境をつくる。
このレムと名乗った男がどれほどの者なのかを思い知らされたかのように。
「根ということは、ハクコクジュは草花なんですかゼノ?」
誰一人としてみたこのないハクコクジュの容姿。
ゼノが言った言葉からイズはその姿を推理した。
「大きな木なんだよ。そして僕はその葉から生まれたんだ」
「大木だと……」
雲を掴むような話が明らかになる。ライラはつい声をだした。
「ハクコクジュに集まる負のエネルギーは、根に吸収されて、幹を通って浄化されて葉に変わる。そして、世界に光をもたらす。ハクコクジュはずっとそうやって世界を守ってきたんだ」
語られた世界の真理に、ライラもイズも言葉を失う。やはりゼノは世界が、ハクコクジュが生み出した者で間違いないと語っていた。
「でもね、おにいちゃんには絶対に見つけられないよ」
レムが微笑みながらゼノに声をかけた。ゼノではハクコクジュを見つけられないと宣言して。
「なんで」
「ハクコクジュはそれを望んでいないからだよ。それでね、ぼくが叶えてあげようと思ったんだ」
「叶える?」
一体何を叶えるのか? ゼノは不審にレムを見る目を細めた。
「おにいちゃんの願い」
「違うよ。僕の願いはハクコクジュに会うことだもん」
少しだけむっとしてゼノは大きな声をあげた。自分の願いは早くハクコクジュに会いたいだけだと強く願いながら。
「今、ハクコクジュに会ってどうするの?」
クスクスと鼻で笑うように、レムがゼノに問いかける。




