ステージ6『深淵』(40話)
「ライラ?!」
イズが一番に声をあげた。
イズとライラは声のした森の奥へ視線を向けた。
「……っとに、まだやるか、アレを」
茶髪の短髪をかき上げながら、ライラがクスリと笑った。
顔を見合わせた二人の顔が笑顔に変わる。
そして、二人は同時に駆け出していた。
「何度かっこわりぃってオレに言わせる気だ」
「当分お酒禁止ですね」
ライラとイズはそういいながら、武器を手にゴザの上でみっともなく命乞いをする黒髪の男の正面に飛び出した。
「ぶぅ~~~、イジワルさんだぁぁ~~~!」
お酒禁止を宣告され、ゴザの男はおもいっきり頬を膨らませてすねる。
そんな子供らしい姿にライラとイズはクスクスと笑いだす。
そして、
「おかえりなさいゼノ」
「遅いぞ、お子様」
優しい口調でライラとイズが迎えた。
もちろん返す言葉は一つしかない。
「ただいま」
ゼノもにっこりと笑って対の言葉を返した。
「それじゃ、とっとと済ませるかイズ」
「そうですね。ではゼノはいつもの……って、もうそこですか」
武器を持ち直すライラとイズは、瞬間移動並みの速さで木の上に移動していたゼノに、軽いため息をつきながら敵を見据えた。
その背後からはいつもの声は降ってくる。
「ライたん、イズたん頑張ってね」
「ったく、てめぇは」
「すぐに片付けますよ」
相変わらずな会話をし、ライラは大剣を大きく動かし、イズは槍を手に軽い身のこなしで空を舞う。
森に眩い光が満ち、数分後にはゼノ、ライラ、イズのみが残った。
「お疲れ様です二人とも」
戦闘が終わると木の上から下り、ゼノがライラとイズに頭を下げた。
くしゃ
大きな手がゼノの頭を掴む。
「んとに手がかかるな」
「お子様ですからね」
ライラが疲労のため息をつくと、イズが言葉を添えた。
それと、イズはここでゼノの手にたくさんの肉刺があることに気がついた。それは不自然なほどにたくさん。
けれどイズはそれに触れることはなかった。おそらく憶測が正しいと思ったから。
『村には墓がたてられていた』
この台詞を聞いたときから心にひっかかっていた謎。……たぶん犯人は間違いなくゼノであると結びつけた結果が言葉にさせない。
同時にライラもまた見て見ぬふりを決めていた。
決して忘れてはいけない記憶だとしても、今は触れてはいけないとシグナルが点滅した。
本音を言えば、あの村に向かいたい。だが、ゼノにもう一度あの光景を見せたくないという気持ちが動く。
だからこそ、
「さて世界の中心、ハクコクジュのところに行きますか」
「だな」
ライラとイズはあの村とはまったく別方向に歩き出した。
詫びることも花を添えることもできないが、
(あんたらのことは一生忘れねぇ。……ゼノを届けたら必ず謝罪に来る、だから少しだけ待っててくれ)
(巻き込んでしまい本当にすみませんでした。ボクは忘れません、ゼノを送り届けたら、必ず、必ず戻ってきます。……なので、今は前に進むことをどうか許してください)
二人の気持ちはなによりも強く、約束を心に刻んだ。
先頭をゼノが行き、その後ろからはライラとイズ。いつもの隊列。
「でだ、ロイルはどうした? お子様」
ゼノがロイルに勝てたとは思えず、ライラはストレートにその疑問を投げた。
まさか逃げてきたというわけでもないだろうと、あの男が追ってこないはずはないと。
「そうそう、もうすごかったんだよ」
大人しく歩いていたゼノだったが、いきなり振り返ると瞳をキラキラとさせながらライラの元へと歩み寄った。
「どうしたんですかゼノ?」
妙にはしゃぐゼノに、イズも疑問の声をかける。
「イズたんも聞いてよ! んとね僕あいつと転送場所までいったの。そしたらいっぱい人がでてきて、バーゲン会場みたいになってバチバチってなったのぉ~」
なんだかよくわからないが、ゼノはものすごく興奮しながら理解不能な言葉を口にした。
当然まったく状況がわからないライラとイズは顔を見合わせる。
「ええっとゼノ、もうちょっとボクたちにもわかるように説明してくれませんか?」
「ん~と、天界にいこうと思ったらいっぱい人がでてきて、マントの人となんか揉めて、そしたら装置からバチバチって変な音がして、出てきた人が消えちゃったんだよ」
『しゅごいよねぇ』的な、キラキラ全開の瞳で説明するゼノの言葉を、イズとライラは必死に解読する。
「つまり、転送装置の上で大量の人がもみくちゃになり、装置が壊れたってことですか」
「しかも壊れたときに装置の上にいたやつらが天界へ戻されたってことか」
自分たちなりに解釈するライラとイズは、お互いの意見を一致させる。
「で、あの野郎も天界へ戻されたってのか」
「そうなの。でね、なんか会議にするとかなんとかって言ってたよ」
ゼノの台詞にイズが顔をしかめた。
「会議ですか……、確かに無意味な殺生を天界が見逃すとは思えませんが」
「あたりまえだ。あんな行為、天界の指示じゃねぇよ」
天界をよく知るライラが唾を吐くように言う。




