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ステージ6『深淵』(39話)

「……いや、なんでもねえ」

「たぶん、同じこと考えてますよ」

「不可能だ」


絶対に無理だと、自分の考えを全否定した。


「ボクもそう思うんですが、……他に思いつかないんです」


乾いた笑いを浮かべたイズは、全てを知っている人物は一人しかいないと、不可能だとわかっていてもその考えを拭い去れない。

それに髪が白髪だったと言われたことを信じれば、違うと肯定できるのだが、どこかで信じてみたいと思う気持ちがあり、どうしても疑心が拭い去れなかった。


「だったら、問い詰めるしかねえな」


天上に向かって、ライラはそう笑った。

だから


「そうしましょう」


と、イズもそれに同意した。

今度出会ったら、絶対に逃がさないと意地悪く笑う二人は、久しぶりに声を出して笑った。






◆◆◆


「なんだか悪いな、お二人さんにこんなことしてもらって」


畑仕事に向かう村人が、蒔き割りをするライラとイズにそう声をかけた。


「いえ、こんなことくらいしかできませんから」

「随分、世話になっちまったからな」


ライラとイズは申し訳なさそうに軽く頭を下げる。

傷の手当だけじゃなく、食事や寝るところまで用意してくれて、手厚い看護をしていただいたおかげで、すっかり元気になれたと、二人はせめて何かお礼がしたいと、村の手伝いを買って出ていた。


「それにしても、身体はもういいのか?」

「はい、お陰様でもうすっかりいいみたいです」

「それはよかった。ほんとあんときは驚いたよ」


生きているのが不思議なくらい瀕死で運び込まれてきたときは、さすがに医者も青ざめていたと、村人は当時を思い出した。

それを知っている者はみな、二人の回復に心から喜んでくれた。

ライラもイズもこうしてまた地に足をつけることができて、本当に感謝していた、だから、自分たちにできることは何でも言ってくれと、恩を少しでも返そうとしていた。


「ところで、また旅にでるんだろう?」


いつまでもこの村にはいないのだろうと、村人が問う。旅の途中だったんじゃないのかと。


「そうですね」

「どこに行くつもりだったんだい」

「世界の中心です」


迷いもなく、イズは柔らかな笑みを見せてそう答えた。自分たちは世界の中心へ向かって旅をしていたのだと、正直に。


「世界の、中心?」

「ええ、迷子を届けに行くんです」


なんとも不思議なことを言われ、村人は首を傾げた。世界の中心、それはきっと大きな街のことだろうと、村人もイズにつられて笑みを見せる。


「そうかい、あんたたちがいなくなると寂しくなるな」

「……すみません。とっても大切な人と約束があるんです」

「大切な約束があるんじゃ、仕方ないな。旅立つときは言ってくれよ」


黙って行くなよと村人は二人に言い残し、農作業へと出かけていった。


「で、どうすんだイズ」


自分たちだけでもまだそれを目指すのか、ライラは旅に出ると話したイズに、それでいいのか、そう尋ねた。


「その前に、迷子を捜さないといけませんけどね……」


絶対に生きていると、奇妙な確信だけはあった。

どこにいるのかも、間界にいるのかもわからなかったが、イズは必ずどこかにいる、そう信じられた。

だからこそ、世界の中心を目指して旅を続けていればいつかまた出会える、そんな気がしていた。

ライラとイズがお世話になった村を後にしたのは、完全に回復してから1週間後のことだった。

今更行ったところでなにも変えることなどできないが、二人は巻き込んでしまったあの村へと足を進めていた。

せめて謝罪と花を手向けたいと。

あの日、突然村に姿を見せたロイルは、ゼノの名前を口にするとともに容赦なく猛威をふるった。一瞬で村の一部が破壊され、ゼノを出さなければ皆殺しだと、次々に村人を切りつけていった。

その圧倒的な力の差は、ライラやイズでさえ容易に近づくことができず、何度も挑んだが全て通じず、次々に切り捨てられる村人を誰一人として守れず、ようやく村から引き離すことができたときには、ほぼ壊滅状態であった。

あの時点ではまだ息のあるものもいた。だからライラもイズも必死で村からロイルを引き離した。結果的には誰一人として生き残った者はいなく、自分たちの無力さを思い知らされた。

許されることなどないとわかっている、それでもどうしても地に頭を下げて謝罪をさせてほしいと、二人は静かに村へと歩く。

取り戻せるものなど、何一つないとわかっていても、許されないとわかっていても、二人はそこへ向かうことを辞めなかった。

助けてもらった村を出発し、半日以上経った頃。

それはなんの前触れもなく耳に届いた。



「どうか、命だけは助けて……」



聞き覚えのある、少し高めの子供のような声。

そしてこの台詞。



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