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ステージ6『深淵』(38話)

何もない森の奥で誰か倒れてるなんて、信じられない話だろうと、驚きを含ませて。放っておいたら死んでいたかもしれないくらいひどい傷だと、男たちはとりあえず止血を優先的に行っていく。


「旅人だと?」

「あんたらが頼んだんじゃないのか?」


たまたま通りかかった旅人に、助けを求めたのはライラたちではないのかと、男たちは不思議そうに二人を見る。でなければ、森の奥に人が倒れてるなんて誰が分かるのかと。

疑心が生まれる。


「それはどんな人だったんですか?」


すかざすイズが問うと、男たちは容姿、姿を思い出しながら、少々困った顔をした。よく覚えていないのだと、申し訳なさそうに。


「なにせ、頭から足先まで全身を覆い隠すように布を被っていてな」

「それに先を急いでいるみたいだったな」

「声色からして、青年だったか……。やけに落ち着いた低い声だったよ」


思い出せる限りを思い出して、男たちはライラたちに説明した。

顔は見えなかったが、わずかに見えた長い髪が白色だったと追加で教えてもらい、ライラとイズは益々怪訝な表情を浮かべた。

落ち着いた低い声に白髪。そんな奴に覚えがないと。


「誰なんですかね……」

「そんな奴に見覚えも知り合いもいねえな」


見当もつかない旅人に、ライラとイズは胸騒ぎだけを抱く。そいつは敵なのか味方なのか、なぜ自分たちがここで倒れていると知ったのか? 疑い出したらキリがない。

どんな目的があって、自分たちを助けてくれたのか、それぞれに思惑を考え中、イズは大切なことを思い出して、重症なのも構わず無理やり身体を起こした。


「そうだ、お願いがあるんです」


傷口が開くのも構わずに身体を起こしたイズは、男たちに願いでた。


「動くな、傷が開く……」

「この先にある村の人たちを……、埋葬してください」

「村?」

「ええ、この森を抜けたところにある村です」


そこで何があったのか、それをうまく説明できず、イズが口を閉ざす。何も言葉にできなくなってしまったイズに代わり、ライラがその重たい口を開き、嘘をつく。自分たちのことに巻き込んでしまったとはどうしても言えなかった。


「……賊に襲われた」

「賊だって!」

「ああ、おそらく全滅だ……」


奥歯を噛み締め、絞り出した言葉でライラは男たちに、せめて埋葬してほしいと頼んだ。

ライラの言葉から、生き残っている者はいないのだろうと察した男たちは、悲愴な顔を浮かべそれを承諾した。ライラたちを自分たちの村まで運んだら、村総出で行くと約束してくれたことに、ライラもイズも感謝以外の言葉などなかった。

その言葉を聞け、安心したのかイズの身体がガクリと倒れた。


「イズっ!」


突然倒れたイズにライラが目を開く。


「心配ない。気を失っただけだ」

「そうか……、すまない」

「すぐに村まで連れってやるから、我慢しろよ」


担ぎ上げられた身体が軋むような痛みを受け、ライラが顔を歪ませたが、男たちは「悪いが、急ぐぞ」と足早に歩きだした。


「大丈夫だ、……恩にきる」


怪我の度合いが酷く、一刻も早い手当てが必要だと判断した男たちは、痛みに苦痛の表情を浮かべるライラを心配しながらも、帰路を急いだ。






4日。

イズが目を覚ましたのはそれほどに時が流れた後だった。

二人部屋で、隣には今だ思うように動けないライラもいる。


「大丈夫か?」

「なんとか生きてるみたいですね……ボク」


見慣れない天井をぼぉ~と眺めながらイズが苦笑した。

身体はゆっくりだが徐々に回復に向かっている。現に指一本動かせなかった手が動くようになっていた。


「……誰なんですかね」


額に腕をもっていき、イズはその疑問をライラに投げた。

目を覚ましたときに聞かされた「村には墓が建てられていた」との事実。

ライラとイズを自分たちの村まで運んだ男たちは、医者に二人を預け、壊滅したという村に1日がかりで向かったのだが、到着したときにはすでに村の中心に大きな墓標があり、おそらく亡くなった村人は全員そこへ埋葬されていたと聞かされた。

人の気配はなく、墓に供えられていた花だけが寂しげに咲いていたと不思議そうに言われた。


「旅人」


ライラはあの時から気になっている旅人の存在を思い浮かべた。


「一人や二人で、村人全員を埋葬するだけのお墓をたてるなど不可能です」

「誰だ」


正体がつかめないことにライラは胸騒ぎと、イライラが募る。

自分たちを助け、あの村の状況も知っている人物。

心当たりがないわけではない。だが、それを認めるにはあまりにも矛盾が多すぎる。

もしも自分の予想があっていたとしても、そんなことはできないと分かっている。あの短時間で全てを行うには無理がありすぎる。

それに派手な音も争ったような物音も聞かず、この村に助けを求め、崩壊した村に戻るなど、決してできるはずがない。


「ライラ、何を考えてますか?」


唐突に黙り込んだライラに、イズが声をかけた。



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