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ステージ6『深淵』(36話)※

「内臓を一つ一つ取り出してあげようか」

「……ぅ」

「それとも、髪を引き抜いて、目を抉り出して、指を一本ずつとった方が楽しいかな」


何かの遊びのように話しだすゼノの姿は、もはやゼノであってゼノではなくなっていた。黒髪だった髪が徐々に上部に向けて白く染まっており、すでに半分を超えていた。

その髪を視界に入れたゼノが、わずかに笑みを崩し、忌々しそうに小さな舌打ちをし、そして、何かを決めたようにロイルを冷たく見る。


「残念、タイムリミットだよ」


本当はもっともっと苦痛を味あわせてあげたいけど、ゼノは時間切れだとロイルに告げる。言われたロイルは意味が理解できず、ただひたすらに切り裂かれる痛みに顔を歪ませることしかできず、これ以上どんな苦痛を強いられるのかと目を見開いていた。


「そうだ、いいこと教えてあげる」

ウインクでもしそうな明るい声で、ゼノが絶対零度の笑顔を作る。

「僕の手にかかると戻れないよ。ハクコクジュの餌になるんだ」

「ッ……」

「そして、二度と生まれ変わることができない。……永遠に、ね」


不自然に命を落とした者は自分の世界に戻る、その世界のシステムから外れ、ハクコクジュに取り込まれるのだとゼノが笑う。

このまま永遠に苦を強いられるのだろうかと、ロイルは必死で身体を動かそうと試みるが、まるで脳が機能を停止したように指一本動かない。

決して脅しなんかじゃない。そう、ゼノは世界が、ハクコクジュが生み出した者、1%の嘘もない。


「僕を怒らせた罪は、悠久の時の中で償ってもらうから」

「ぁ、……ぁァ……」

「ゲームオーバー」


最後にそれだけ言ったゼノの指がロイルの額を撃ち抜く。

だが今までとは違い、血が飛び散ることもなく、撃ち抜かれた額からロイルはまるで砂のように消されていった。

世界に溶けるように消えるロイルを、ゼノは静かに笑みを浮かべて眺めていた。

身体がバラバラになる痛みは、鈍痛を伴う悲鳴と叫び。救いを求めるロイルの瞳が激しく揺れ、わずかに動かすことが叶った腕がゼノに伸ばされたが、それはゼノに届くことはなく、ロイルは完全に消滅し、その場には汚らわしい血だけが残され、ゼノは嫌悪感を隠すことなく、指先に付着した血と、衣類にとんだわずかな血を見て、


「汚れちゃった、……最悪だよ」


特に指先についた血は、赤く、赤くゼノに付着し、ゼノは地面にその指を強く擦りつけ、指先の血を拭い去った。

血が消され、土の付着した手平を上に向けて広げたゼノは、そっと願う。

それに答えるように淡い光とともに、いつも首から下げていた首飾りがその姿を現す。

完全に首飾りの形状になると、ゼノはその輪を首にかけた。

首飾りが首に掛けられた瞬間、ゼノの白髪がわずかに黒く戻ったが、それはほんの一瞬だけ。髪は再び白く変わり、ゼノは悔しそうに奥歯を噛む。


「ね、ッい……」


ゼノは首飾りについた雫のような飾りを必死に握り締め、強く瞳を閉じ、何かを必死に願う。


「お、……願いッ……」


苦し気に声を上げ、ゼノは爪が食い込むほど手を握り締めた。


「助けてっ……、ね、……がいだから……」


白髪化していく髪が止まらない。ゼノはいつしか大粒の涙を流していた。苦しくて、辛くて、どうしようもないのだと、ゼノは全身を抱きしめるようにもがく。

力が抑えられない、元に戻れない。ゼノは内側から溢れる飲み込まれそうな力に抗うように何度も何度も首飾りを握り締める。元に戻りたいと。

両膝がガクンと折れ、地面につき膝立ちになったゼノは涙で滲んだ瞳で空を見上げる。


「まだ、消えたくない……よ。……おね、……がい、僕を助けてッ!」


世界に届くように叫んだ。



── 我が……、……ノムの、……その姿を戻せ……──



その声は世界の音、音を成さない声。ゼノの唱えたその言葉は、首飾りに溶け込むように流れていく。


「このままじゃ……、僕が消えちゃう。……お願いだからッ、封印させてぇぇ──ッ!」


悲痛な叫びが空に届き、握り締めていた雫が眩い輝きを放った。白く変化していた髪が一瞬で真っ黒に戻る。

その時、ゼノには聞こえなかった



―― ピシッ ――



という、世界の音がした。それはゼノの願いを叶えるための犠牲の音。

苦しくて荒かったゼノの呼吸がゆっくりと落ち着く。


「戻った……、の?」


ゼノは元に戻れたのかと、両膝をついたまま全身を見回してみる。髪は毛先まで真っ黒になり、指先から、いや全身から溢れていた力も消えていた。

それを確かめるためか、ゼノは自分の長髪を思いっきり引っ張る。


「……ったた、いたぁ~い」


思いっきり引いたせいで、髪の毛が数本抜け、その痛みにゼノがうっすらと涙を浮かべる。

だが、同時にゼノはいつものように無邪気な笑顔を見せた。


「僕だぁぁぁ~~」


両手を空に広げて、ゼノは思いっきりそう叫んだ。

さっきまでの冷気を伴うゼノはどこにもおらず、それはいつもの空気を纏うゼノの姿であった。

二人のゼノ。

いや、どちらも同じゼノである。

無邪気なお子様ゼノも冷酷なゼノも、互いは同じ人物であり、同じものを共有している。それを抑制しているのは首飾りと契約の言葉。

ゼノの力を封じているのは、契約の言葉と首飾りであり、力を解放することにより、ゼノは世界の力に飲まれ冷酷な顔をも見せる。そして、そのまま力を解放し続ければ平和を願うゼノは消滅してしまうと恐れていた。



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