ステージ6『深淵』(34話)
クスクスと笑い出したイズに、ライラもつられて微笑んだ。
「確かに、願いは叶えてくれそうもねえな」
「ボクたちが願いを叶えるほうですからね」
「ちげぇ~ねぇ」
全身の力を抜き、二人は仰向けで倒れる。
「それでも失いたくないんですゼノを……」
笑顔が固まる。
「だったら、まずはオレたちが生きることを考えねぇとな」
「ボクたちが?」
「こんな森ん中じゃ、誰も助けになんかこねぇぞ。このままじゃ、ここで死ぬぞオレたち」
指一本動かすのでさえ苦痛をともなう身体では、助けを呼びにいくこともできない。傷も塞がらず、食料ですら取れない状況では死を待つしかないと、ライラは言う。
それに、ゼノが無事にここへ帰ってくる確率は限りなくゼロ。
「これも運命かな?」
諦めにもにたイズの声がした。
ゼノはもう帰ってこない=抹殺されると結びつけたイズは、光を失ってしまったかのように、全てを諦めた。
守りたいと誓ったはずなのに、守り切れなかった。守る者も目的も失い、自分が生きている意味はもうないのだと、イズは乾いた笑みを浮かべて空を見上げた。
このまま死んだら地界へ戻されるのだろうか? そんなことを考えていた。
「イズ、てめぇはちゃんと聞いてなかったのかっ」
怒気を含む声でライラが怒りを露にした。ここで全てを諦めてしまってもいいと言ったイズに、ふざけた冗談をいうなとライラは鋭い視線を向けた。
「なにをですか?」
「あのお子様、ゼノの言った言葉だ」
「ありがとう、ですか?」
最後にゼノが二人に残した言葉『ありがとう』。
イズはそんな言葉なんか聞きたくなかったと、悲しげに少しだけ顔を背けた。
「その後だ。あいつがなんて言ったか思い出せ」
「後ですか……」
ついさっきのことなのに、イズはありがとうといった言葉しか浮かんでこない。
それを察し、ライラはしかたなくその答えを教えてやる。
「“それじゃあ、またね”あいつはこういいやがったんだ。お前ならこの意味がわかるな、イズ」
「それって」
「ああ、バイバイでもさよならでもねぇ、あいつは“また”といいやがった。つまりゼノは戻ってくるつもりだ」
ライラに言われ、イズは大切な言葉を聞き逃してしまうところだったと気がついた。
これでお別れならば、きっと“また”なんて言葉は選ばない。ゼノは戻ってくる……たとえいつになろうとも。
「やだなぁ、ボク。すごく大事なとこ聞き逃してた……」
泣き笑いの表情でイズが笑う。
「だからオレたちがここで絶えるわけにはいかねぇだろ」
なんとしても生きるとライラが強く言葉にした。
どんなことをしても生き延びなければならないのだという意思。
再びゼノに会うために。
◆◆◆
無言で歩く二人は、足音のみを響かせて森の奥へと進んでいた。
天界への転送場所はかなり離れた場所にあるのか、ロイルはただひたすら草木が生い茂る森の中を進む。
転送装置は天界、地界に存在し、場所を入力することでそこへ転送されるが、戻るときは特定の場所に印を置かなければ戻れない仕組みであり、帰りがめんどくさいのが難点であった。
ロイルはゼノ達が村にいることを前提に転送してきたので、村からかなり離れた場所にその印を隠すように置いてきた。もしも天界より刺客や邪魔が入った時に、その印が見つからないように、自分が誰にも見つからずに一旦戻れるようにと計算された場所。
よって、イズやライラたちがいた場所より、ずっと遠かった。
黙って後ろをついてくる足音だけを聞きながら、ロイルは黙々と歩いていたが、その足音が止まり振り返る。
「ここまでくれば、大丈夫だよね」
不意に足をとめたゼノが、口元を緩めて笑っていた。
そしてここまできて、ロイルはあることに気がついた。転送装置の場所が若干うろ覚えだったこともあり、景色を思い出しながら歩いていたせいで気がつかなかったが、ゼノが纏う空気が変わっていた。
見た目はとくに変わったところはないが、しいて言うなら髪の毛先が白髪に変化していたことだろうか。
何か言いようのない、悪寒と寒気がしたような気がした。
だがロイルは怯むことも臆することもなく、ゼノを鋭く捕らえる。
「今更、逃げるのか?」
「逃げる? ……逃がさないよ、絶対に」
笑みを浮かべていたゼノが、目を細めてロイルの質問に奇妙な回答を返した。
ゼノが逃げるのではなく、ロイルを逃がさないと返した。
「貴様、何を言っている? ……あの二人なら長くはもたない」
ライラとイズは放っておけば、いずれ死を迎える。ロイルは勝ち誇ったように嫌味な笑みを浮かべて、ゼノを挑発する。
「獣の餌くらいにはなるだろう」
助けなど来ない森の中で死ねば、獣の餌になるか、天界へ戻され処刑されるかのどちらかだろうと、ロイルは裏切り者の天界人にはお似合いの結末だろうと、傑作だと嘲笑う。




