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ステージ2『毒』(3話)

「心配ないよ。僕、人工呼吸の方法もAEDの使い方も知ってるから」

「ゼェ~~ノォ~~! オレを殺すつもりだったんじゃねぇ~か!!」

「人聞き悪いこと言わないでよライたん。僕は命の恩人だよ」


すごくいいことをしたあとのように、満面な笑顔でゼノがライラにそう言い切る。

この笑顔……ライラは半ば呆れて疲れた。

ゼノという人物は確かにこんな奴だったと、再確認させられたような気分に、掴んでいた胸倉を手放してライラはベッドに倒れ込む。


「なぁイズ、こいつ思いっきりぶっとばしてもいいか?」

「ははは……。だったらまずは毒をなんとかしないといけませんね」


静かに二人を見守っていたイズは、遠まわしに安静にするようにとライラにわかるように返答した。

いがいにも元気であることに安堵感は感じたものの、油断はできない。

毒の種類も不明のままで、なんの解毒剤かもわからないものを使用してしまった。

ライラなら大丈夫という不確かな確信は、イズの中で生まれたまるで棘のような罪悪感。


「本当にひどいのはボクのほうですね……」


いくら焦っていたとしても、老人が差し出したものが薬であったのかさえ確認もせずにライラに飲ませた。下手をすれば、ライラはすでにここにはいなかったかもしれないと、イズは自分に非があったと、胸を痛めた。

けれど、小瓶にはきちんと解毒のマークと文字が確認でき、ひとまずは安心できた。


「ん? なにか言ったイズたん?」

「いえ、何でもありませんよ。それより、ゼノって時々怖いことしますよね」

「怖い?」


自分のやったことに自覚がないのか、とぼけているのか、ゼノは“なんのこと?”とイズに返事する。

呼吸が止まったら、人工呼吸で蘇らせるから大丈夫だと言ったゼノ。その行動力と実行力に、イズは苦笑いを浮かべてゼノを見る。


「ボクにはしないでくださいね。ライラと違ってボクは繊細ですから」

「う、うん」


優しくにっこりと微笑むイズが妙に怖くて、ゼノはただ頷いた。


「おそらく気休め程度にしかならんかもしれん」


静かになった場で、解毒剤をくれた老人が困惑な顔で言った。


「それはどういう意味ですか?」

「解毒剤にもいろいろあるが、これは一般的なものじゃ、毒蛇なら効かんかもしれん」


老人は、こんな山奥では強力な解毒剤など用意していないと話す。せいぜい毒虫に刺された程度の毒にしか効かないだろうと。

気休め程度にしかならないかもしれないと言われ、ゼノとイズは再度老人に詰め寄る。


「この近くに町か村は?」


イズが町か村に行けばあると考え、それを問うが、老人は首を左右に振った。

そして、かすかに聞こえ始めた息苦しい息。


「ライたんっ!」


さっきまでふざけていたはずのライラが、いつのまにかまた意識を失っている。

額には大粒の汗。解毒剤が少しでも効いているのだろうか、先ほどのような苦しさはまだ訪れてはいないようだったが、それも時間の問題である。


「クロネ草さえあればのぉ」

「クロネ草? それはなんですか?」

「どんな毒にも効くとされる薬草じゃ」

「どんな毒にも……」

「それどこにあるのおじいさん!」


会話の途中でゼノが割り込む。

漆黒の瞳がいっそう黒く光って見えた。


「清き水場に生えとるはずじゃ。おそらくあの岩場の上にある湧き水場ならあると思うのだが、とってくるまでこの者がもたん」


家の窓から見えた断崖絶壁の上を指差して、老人はどうにもできない苦い思いを告げる。

崖に到着するまでには林があり、そのうえあの壁を登ることは手慣れた者でも簡単にはいかない。

それでも、


「行く」


なんの迷いも躊躇いもなくゼノが言い切った。


「おじいさん、クロネ草の特徴を教えてください」

「イズたん」

「1人で抜け駆けはダメですよゼノ。当然ボクもついていきます」


にっこりといつもの笑顔を見せたイズ。仲間はずれはごめんだ。

気持ちは同じ、だったら選ぶべき道は一つしかない。


「正気かあんたたち」

「大丈夫ですよ。ボクたちは必ず間に合います。いや、間に合わせます」


自信も確信も保障さえほんのかけらもない。

間に合うかどうかなんておそらく1%もないだろう。それになにより、そこにクロネ草が必ずあるとも限らない。老人の言うことは間違いなく正論だろう。

戻ってくるまでライラがもたない。

でも、理屈とか運命なんて言葉で片付けたくない。

きっと、どうにもならないことなんてわずかだ。何もしなければ何も変わらない、変われない、変えられない。

なら、かっこ悪くても、情けなくても、全部無駄になったとしても最後まで足掻く。

可能性はいつだってゼロじゃない。


「始めから諦めたら、失わなくてもいいものを失っちゃうでしょ。僕は手を離したくないんだ。だから行く」

「……これを持っていけ、なにかの役に立つかもしれん」


壁にかけられていた長いロープとナイフを、ゼノに向かって投げつけた老人は笑っていた。

真っ直ぐな心。

この二人なら必ず間に合うと感が教える。

老人はライラのことは任せろと二人に誓い、崖までの最短ルートを伝えた。その道は獣道よりも過酷なルートだと付け加えて。



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