ステージ5『友』(23話)
「……なにこれ?」
ちょうど顔の辺りに落ちてきた紙をゼノは静かに手にとり、書かれている文字を目で追う。
そして次の瞬間
「ええ―――――っ!!!!!」
宿中に響く声を響かせ、睡魔も吹っ飛び、完全に目が覚めた。
【ゼノへ】
大人の都合で、ボクたちは一緒に旅をすることができなくなりました。
ライラは東の出口に、ボクは西の出口にいます。
ゼノが一緒に旅を続けたいと思うほうへ、夕方までに来てください。
【ライラ、イズより】
唖然とメモ書きを手にして、ゼノはただただじっとその内容を見つめた。
「な、なっ、なにこれ?!」
頭の中は真っ白。
昨日まで一緒にご飯を食べて、一緒に寝たはずだったのに、朝起きたらなぜかライラとイズはバラバラに……
さっぱり事情が飲み込めないゼノは、ベッドの上でしばし原因を探る。
「昨日ライたんよりも先に寝ちゃったから? もしかして、しいたけ残したからイズたん怒ったのかな?」
寝起きのぼさぼさ髪に手をのせて、ゼノは頭を抱え込んだ。
「あっ、それよりこっそりお酒飲んじゃったのバレちゃったのかな、……んん、もしかしてもしかして、足の裏に落書きしちゃったの怒ってるのかもぉ」
思い当たる原因が多すぎる。
ゼノは次々と思い出す昨日の光景にますます頭痛を覚え、変な汗ばかりをかく。
「ど、どうしよう……とにかくこんな時は話し合いだよね。僕が謝ったら許してくれるかもしれないし」
結論がでたゼノはガバッと起きると、急いで身支度を整えて、少々乱暴に髪をまとめ窓を開け放った。
ここで部屋の扉ではなく窓を開けるところがゼノという人物であり、次の行動はいわずとわかる。
この部屋が2階だということもわかっていて、窓に足をかけそのまま勢いに任せて外へと飛び出した。
部屋のドアをあけて、階段を下り、宿の受付人に「お出かけですか?」と声をかけられるだろう全ての面倒を省いた結果がこれ。
身軽が売りのゼノでなければ大怪我を負うところだが、窓から飛び出したゼノは見事に地面に着地。だが、着地の際に妙な感触がした。
例えるなら“ぷにっ”
「ん?」
柔らかい感触を踏みつけたゼノは、足元を見る。
『ガル、ガルルルルル』
「へっ?」
うなり声を上げてものすごい形相で睨みつけるかなり大きな犬と目があう。
で、犬の尻尾はゼノの足の下。つまりさっきの感触はこの犬の尻尾。
「あは、あはは……、ご、ごめんね。うわっと……」
『ギャン!』
あわてて尻尾から足をどけるゼノだったが、バランスを崩し今度は犬の前足を思いっきり踏みつけていた。
氷のような汗が流れる。
そしてそっとそっと足をどけたゼノは、静かに犬の首輪を探すが、首輪はどこにもない。
できれば考えたくないことだが、どうやら犬は放し飼いまたはノラらしい……。
『ガウウウ……ゥゥゥ』
犬の唸りがいっそう強くなり、ゼノは刺激しないようにそっと後ろにバックする。
“ぷにっ”
後ずさりしていたゼノにまたまた嫌な感触がした。
恐る恐る振り返ったそこには別の犬がいて、思ったとおりゼノはその犬の尻尾を踏みつけていた。
「悪気は全然ないんだってば。アクシデントなんだって……」
巨大犬二匹に挟まれたゼノは言葉が通じないとわかっていても、必死に弁解をする。
『ガルルル・・・・・・ワンッ』
『ウウウ・・・・・ワンッ』
もちろん弁解も言葉も通じるわけがなく、二匹の犬は唸りながら吠えると、ものすごい勢いでゼノに飛びかかった。
「のわっ! ほんとに悪気はなかったんだってばぁぁぁ~~、誰か助けてぇぇ~~」
犬が飛びつく前になんとか逃げ出したゼノであったが、そのまま巨大犬二匹に追いかけられながら大通りへと逃げていった。
◆◆◆
そのころ東の門では、来るか来ないかわからない待ち人を待ち続けるライラの姿があった。
壁に背をあずけ片足の靴裏を壁に置いている。
「オレの望んだ結果か……。レック、オレを置いていったこと後悔してねぇよな」
透ける青の空へライラは視線を向けた。
(ライっていつも割り切って行動してるのに、たまに変なとこで割り切れねぇよな)
昔言われた言葉を思い出した。
悩んでも解決しないことは多い、深く考えるだけ無駄なことも。面倒なことが多いのも事実。だからこそライラは関わらず、悩まず、サバサバと生きてきた。
そう、ゼノやイズに出会う前までは……
レックが言ったように自分は変わったと、ライラはここで自覚する。
あの頃のままなら、きっと感情的になって喧嘩することもなかった。
「なぁ親友、オレは生きていいんだよな」
今は亡き親友に答えを求めながら、つまらないことを聞いているとわかっていた。
それでも確かめられるすべがあるのならば、今一度確かめてみたいと願う。
自分がここにいてもいいのだと、信じられる言葉を。




