ステージ5『友』(22話)
ベッドから勢いよく立ち上がり、ライラはイズの正面に立つ。
「いいですよ、ボクも買いましょう」
「オレの喧嘩は高いぜ」
「ボクに喧嘩売ったこと後悔させてあげます」
青白い火花が飛び交っているのではないかと思えるほどに、二人の視線はジリジリと音をたてる。
今にも胸倉を掴みそうなライラだったが、相手はイズ、じっと相手の出方を伺うことにしたのだが、ここでイズが片手を前に差し出した。
「殴り合いの喧嘩はボクが不利です」
体格、体力に大きな差があると、イズは取っ組み合いになる前にライラにそう言った。
「それじゃぁ、知的な戦いでもしようってのか」
「それではボクが勝っちゃいます」
当然のようにイズはそれを口にする。もちろんこの台詞にカチンとこないライラではない。
「どういう意味だ」
「そのままの意味ですよ。知能勝負でライラがボクに勝てるわけないでしょう」
「オレが大馬鹿だと言いてぇのか」
「誰もそこまでは言ってません。……せいぜい小馬鹿ですよ」
口元を少し上げて、イズは嫌味だとわかっていてライラを挑発する。
その結果がどうなるのかもわかっていて。
「ああそうかよ! これではっきりした」
挑発されたライラはさらに大声をだした。そしてくるっと向きを変えると、再びベッドへと戻っていく。
昨晩そこらへんに脱ぎ捨てておいた服を乱暴に拾い上げ、半ば強引に身に着けると再びイズの元へ戻り、
「ここでお別れだ」
いきなり宣告した。
一瞬目を見開いたイズだったが、沸騰している怒りはそうそう治まらない。
冷静さを失った二人は、バチバチと火花を散らす勢いで対峙する。
「どうぞご自由に」
「短い付き合いだったなイズ」
「ええ、お元気で」
あくまでも冷静さを装ってイズは引き止めることも、謝ることもなく冷たくその台詞を棒読みした。
一通り荷物をまとめたライラは、次に隣でぐっすり眠っていたゼノの布団を剥ぎ取る。
その予想外の行動にはさすがにイズも驚きを隠せなかったが、もっと驚いたのはその後のライラの台詞である。
「てめぇはいつまで寝てやがる! とっとと起きて行くぞ」
「~~ぅ、~~~~~~」
朝から大声で怒鳴りあう声にも、布団を剥ぎ取られたことにすらまったく動じず、ゼノは少しだけ、ほんの少しだけ顔を歪めただけでまたスヤスヤと眠りに落ちていく。
一体どんな夢を見ているのかはわからないが、その表情は幸せ一杯に満ちていた。
もちろん起きないゼノに痺れを切らすのはライラであり、もう一度起こしにかかる……が、ここでイズがライラの視界に入り込む。
「まさかゼノを連れて行く気ですか?!」
てっきりライラは一人で出て行くものだと思っていただけに、イズは困惑を隠せなかった。
「こいつをハクコクジュに会わせるのが約束だ。オレは約束を違えるつもりはない」
「それならボクにも約束を果たす権利はあります」
旅の最終目的であるハクコクジュにゼノを会わせると心に決め、誓った約束。
その約束を途中で放棄するわけにはいかない。
約束を破り、後味の悪いままこれから過ごすのはごめんなのだ。
「オレに約束を破れってのか!」
「ならボクに約束を放棄しろというのですか!」
至近距離でライラもイズもさらに声を上げ、両者譲らず。
「オレは果たせない約束を背負って生きていくのなんざ、ごめんだ」
荒々しく髪をかきむしりながら、ライラはイズから視線をそらす。
「なら、こうしましょう」
紙とペンを手に持ち、イズはライラに一つ提案する。
お互いが納得してここを去れるように考えた良策を……
「オレはそれで構わねぇぜ」
「決まりですね」
◆◆◆
真上に太陽。外からはにぎやかな声がたくさん聞こえてくる。
時間にしてお昼少し前。
「ぅんん~~~、うぅ」
陽の光が直に当たり、暑さを感じたゼノがようやく目を覚ます。
とはいっても、まだ眠そうな目を擦りながらぼぉ~と身体を起こしただけではあるが。
「……ぁれ?」
半分夢の中状態で目を覚ましたゼノは、部屋の中の妙な違和感に気がつく。
いつもなら「おはようございます」とか「やっと起きたな」とか聞きなれた声が二つしてくるはずなのに、今日はなにも聞こえてこない。
しかも室内はガランとしていて、誰もいない。
「二人でお出かけかな? ……ならもうちょっと寝ててもいいよね」
今起きたばかりだというのに、ゼノは再びベッドへと潜り込み、日差しで熱くなった布団を思いっきり跳ね除けた。
「あっつ~い、お布団熱い……むぅ……」
ヒラヒラ・・・・・・・
跳ね除けた布団の風でゼノの上に一枚の紙が舞い降りる。
白い小さな紙切れ。




