ステージ5『友』(21話)
「イズ、余計な気使うんじゃねぇよ」
朝一番、ライラは寝起き一番に不機嫌気味にそうイズに声をかけた。
誰よりも早く起きて身支度を整えていたイズは、思いもよらないライラの台詞に動きを止める。
朝日が差し込むベッドの上で、上半身のみをおこし、睨むように視線を向けているライラに、イズもつられて眼を細めた。
「なんのことですか?」
身に覚えないとイズは言葉を返す。
「この超お子様がここずっと絡んでこない……これでも白を切るか」
隣のベッドでぐっすりと熟睡中のゼノを視線で指しながら、ライラは問う。
レックの一件があってから、ゼノは天地がひっくりかえるほどに大人しくなり、ライラにまったく絡んでこなくなっていた。
普通に考えて、裏でイズが糸を引いているだろうことはわかる。だからゼノを問い詰めるよりも黒幕を問い詰めた方が早い。
「ゼノも大人になったんじゃないですか」
「なら、お前の口数も減った……、これはどういうことだ」
「ボクは元々無口な方ですから」
淡々とライラに返事を返しながら、イズは自分が使っていたベッドを整えなおす。
その行動はいたっていつものイズではあったが、どこかいつもと違う空気があった。
それに、ライラもここ数日様子がおかしい二人にイライラが積もり、かなりのストレスが溜まりつつある。
ようするにイズもライラも自分を抑えるギリギリまできていた。
「同情なんかいらねぇってんだよ!」
ついに我慢ができなくなり、ライラのストレスは爆発した。
妙な同情、情け、慰みなんか邪魔だ。
そんなものはかえって傷にしかならない。傷をより深くするのはそんな同情の類だ。
哀れんだ感情で接するくらいなら、いっそ全てなかったことにした方がマシ。
そう、あの日はただ雨が冷たかっただけなのだと。
ライラは抑えきれなくなった感情をイズにぶつけた。
そして怒りの矛先を向けられたイズも、
「同情じゃなくて、優しさっていってほしいですね!」
勢いよくライラのほうへ振り向くと大声で怒鳴る。
「ゼノがお子様じゃなくなって、お前が無口になった……これのどこが優しさだってんだ」
「言わせてもらいますけど、ライラに気を遣ってなにが悪いんですか?!」
「いいか、レック……あいつはああなることを望んだんだ。あいつが自分で望んだ」
吐き捨てるようにライラは苦々しくそれを口にする。
救う手段は何一つない、それが願いの代償。
冷たく崩れたレックの身体の感触、重さは、まだライラに染み付いている。
大罪を犯した後のように鮮明に……、それでも笑っていたあの優しい表情は、全てを許すことを許していた。
だから何も変わらないとライラは思いたかった。
あいつはいつでもどこかにいる。
所詮ご都合主義の考え方だとしても、自分を見失うような馬鹿な真似をしなくてすむのなら、それでもいいと。
でもゼノもイズも優しすぎた。ライラをこれ以上傷つけないようにと気を遣いすぎて、接することを避け、なるべく一人にしておいた。
ライラがいつものように振舞おうとすればするほど、違和感は大きくなり、ストレス、不満へと変わっていく。
「あの時ライラ、あなたはこの結果を望んでいなかったんじゃないんですか?」
無言になった部屋でイズが話を切り出す。
間違いなくあの時ライラも命を落とそうとしていた。
イズやゼノがどれほどの恐怖を味わったかなんて、ライラにはわかりはしない。
相打ちなんてバカなことを。
シーツを整えたイズはじっとライラを見つめてその場で動きを止めた。
二人の視線は熱く、それでいて氷のように冷たく交差する。
「オレの勝手だ」
「簡単に言ってくれますね」
「……言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだイズ」
声のトーンが一気にさがり、部屋の気温さえ下がったような気がした。
「別に言いたいことなんてありませんよ。言ったところで頭の固いライラにはわからないと思いますので」
「前々から思ってたんだが、お前のその嫌味な性格なんとかならねぇのか」
背中に朝日を浴びながら、ライラが鋭く瞳を光らせる。
「ライラの言いたいことはよぉ~くわかりました。なら言わせてもらいますけど、いい年してゼノと一緒になってはしゃぐのやめていただけます」
「はしゃぐだぁ?! オレのどこがはしゃいでるってんだ」
「自覚ないなんて重症ですね」
売り言葉に買い言葉。
頭に血が上った二人の会話はどんどんエスカレートしていく。
「ゼノを甘やかしてんのはどいつだ」
「そんなつもりはありませんが」
「お前が甘やかすから、こいつは調子に乗んだ」
イズがゼノを甘やかすから、ゼノはどんどんわがままで自由奔放になるのだと、ライラは舌打まで含ませて不機嫌を振りまく。
「ゼノのわがままは、生まれつきですよ」
「お前が甘やかさなきゃ、もっとマシになんだろう」
「どういう意味ですかっ」
「一般常識くらい身につくってことだ」
「常識がないのはボクのせいだと、そう言いたいんですか」
「そうだ」
ゼノがこんなにもお子様で非常識なのは、全てイズが甘やかしたのが原因だとライラははっきりと口にする。
互いの視線は複雑に絡まり、火花が見えそうであった。
それは、つかみ合いの喧嘩よりもそれは恐ろしいものと変化していた。
目が完全に笑っていないイズと轟々と燃え盛る瞳のライラ。そしてぐっすりと眠るゼノ。
宿の一室は誰も近づけさせないオーラを放つ。
「買ってやるよ」
先に動いたのはライラ。




