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ステージ4『涙雨』(20話)

「ライたんッ!」

「ライラッ!」


レックと一緒に死んでやると覚悟を決めたライラに、ゼノとイズが同時に叫びながら駆けだす。

間に合わない。

ゼノとイズはどうあっても間に合わないと知りつつも、止めに入ることを止められなかった。



── ドスッ ──



微かな鈍い音が響き、ライラとレックは互いに刺し違えた。

間に合わなかった……、ゼノとイズは生唾を飲み込んでその場で動けなくなる。


「……グ……っ、がはッ……」


ライラに倒れこむように崩れたレックが血を吐いた。身体にはライラのナイフが突き刺さっていた。


「……ッんで」


崩れるレックの身体をかろうじて支えたライラが、虚ろな瞳で声を殺す。

互いに向けた刃は、互いの身体をそのまま貫くはずだった、けれど、ライラの身体には傷一つつかなかった。

ライラの心臓目掛けて走ってきたレックは、衝突するわずかな瞬間にナイフを手放した。

レックの手を離れたナイフを認識したときは、すでになにもかも遅かった。

地に落ちたレックのナイフは一度小さく跳ねると、軽く地面に刺さって動きを止める。


「どうして武器を捨てた!」


ライラは崩れ落ちるレックの身体を両腕に抱えながら、怒鳴り声をあげた。レックのナイフは迷いなくライラの心臓を狙っていた。それなのに、突き刺さるその瞬間にナイフはその手から離された。


「……なん、で、……かな?」


非力に答えたレックは全体重をライラに預けて、地に崩れていく。

両腕で支えていたライラもまた、レックを支えながら地に膝をついて座るような体制でレックを寝かせるように抱えた。

視界が歪む。


「一緒にいてやるって言っただろう、が……」

「すげぇ、殺し文句だなそれ」

「オレは怒ってんだ」


冗談でも言うように茶化したレックに、ライラは眉間に皺を寄せて怖い顔をしてみせた。

それなのに、レックはその顔を見てなぜか笑う。

真面目に話をしているのに笑われ、ライラの顔が益々険しく変わるが、レックは静かになるどころかもっと嬉しそうな顔を返した。


「できなかったんだよ……」

「……なんで」

「今のお前すげえいい顔してる、……生きてるって顔、してるんだ……」


だからできなかったんだと、レックは声のトーンを落とした。


「それはどういう意味だ」

「そのまま。俺も……ぁく、……ゼノくんみたいに、とことんお前を怒らせてみればよかった……」


命などどうでもいい、自分なんかどうなっても構わない、まるでそんな風に生きているように見えた天界にいた頃のライラ。

何に対しても興味など示さず、熱くなることもなく、ただ過ぎゆく時の流れに身を任せていただけのあの頃。

真っ赤に染まるレックは、息も切れ切れでそっとライラに手を伸ばす。

伸ばされた手をしっかりと握り締めたライラは、溢れ出る涙を止めることなくギュっと目を閉じた。


「悪いなライ。……ぅぐ、……手間取らせた」

「ああ、こんな面倒は二度とごめんだ」


片手で顔を覆い、ライラは握り締めた手をもう一度強く握り返すと、優しい笑顔を作った。

視界が霞むなかで見えたライラの笑顔。


「ライ……」

「なんだ?」

「俺の事……、嫌いになったか?」


完全に開き切らなくなった瞳でライラを見上げながら、レックはそっと尋ねる。

嫌われても当然なのだと知っていても、レックは最後にどうしても聞きたかった。


「大嫌いだっ。……こんな、こんな大馬鹿やろうの親友、みたことねえよ」


返された言葉は、傷口よりも魂を喰われる痛みよりももっとずっと痛くて熱かった。

こんな馬鹿なことをしたのに、『親友』だと言ってくれたことに、レックは涙と嗚咽を抑えることができなくなった。

悲しみからでる涙じゃなくて、嬉しいからこそ止まらない涙。

だから、レックは最後の最後まで笑っていられた。


「……ありがとう、な。……ライ」


こんな俺でも親友だと言ってくれたこと、ライラに出会えたことが嬉しかったと、レックは全ての感謝を込めて、もう何も見えなくなったその瞳に映らないライラの姿を映して、そう笑ってみせた。

握り締めていた手の感触が変わる。

半分も開いていなかった瞳は閉じ、ライラの腕の中に沈むかのようにその身体は重たくなり、呼吸が停止した。



「レックゥゥゥ――――ッ!!



冷たくなった身体を強く抱きしめて、ライラは曇天の空に声を轟かせた。




ザア――

泣き出しそうだった空が大粒の雨を降らせた。

雨音は声を掻き消し、雨の雫はまるで残された3人の涙を隠すように冷たく降り注いでいった。




                          ステージ4 クリア







―――――✂―――――✂―――――


ステージ5『友』


「イズ、余計な気使うんじゃねぇよ」


朝一番、ライラは寝起き一番に不機嫌気味にそうイズに声をかけた。

誰よりも早く起きて身支度を整えていたイズは、思いもよらないライラの台詞に動きを止める。

朝日が差し込むベッドの上で、上半身のみをおこし、睨むように視線を向けているライラに、イズもつられて眼を細めた。


「なんのことですか?」


身に覚えないとイズは言葉を返す。


「この超お子様がここずっと絡んでこない……これでも白を切るか」



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