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ステージ4『涙雨』(14話)

「適当なこと言ってんじゃねぇぞ、このガキでチビでわがままなお子様が!」

「すぐ怒るんだからライたんは……短気」


ブスッと膨れて、ゼノがボソリとまたまた禁句を口にする。


「誰が怒らせてると思ってんだお前は」


減らず口ばかりを言うゼノの首にしっかりと腕を巻きつけ、ライラはグイグイと締め上げる。ゼノはその腕から逃れようと必死に暴れるが、ライラの腕はびくともしない。


「僕じゃないもん。ライラが勝手に怒ってるだけだもん」

「あ゛、お前以外に誰が怒らせてると思ってんだ! このバカチビ」

「ああ――っ! バカっていった。ライたんの方がバカなのに」

「んだと、もう一度言ってみろ、超お子ちゃまの分際で!」


腕をさらに強め、ライラがゼノの首を思いっきり締め上げる。

本気ではないが。

そんな二人のやりとりに今日は制御がかからない。

だから二人のやりあいはどんどんヒートアップしていく。

通常ここまでくると氷の笑顔を作って止めてくれる人物がいるのだが、その人物は二人のやりとりが視界に入っていないのか、別のことを考えているのか上の空だった。


「アッハハハ……たしゅかに、おもしゅれぇーなライ」


口喧嘩をするゼノとライラをみて、レックがお腹を抱えて笑い出した。

酔いが回っているせいか、笑い出したら止まらなくなってしまったレックに、ゼノとライラもつられて一緒に笑い出す。

店内は3人の笑い声で満ちた。


「イズたん具合悪いの?」


人通りもなくなった道で、ゼノがイズの顔を覗き込んだ。

レストランを出て、ライラとレックの二人と別れたゼノとイズは、先に宿に向かって歩いていた。

酔いを醒ましながら積もる話もあると言って、二人と別れたのだ。


「どうしてですか?」

「だって、イズたんご飯あんまり食べてなかったから」


大騒ぎしてたわりに、ゼノはやっぱりちゃんと見ていたとイズは苦笑をみせる。

しかもイズが声をかけられない雰囲気をつくっていたこともわかっていた、だからこそゼノは何も言わずにここまでそっとしておいてくれた。

イズが纏っていた冷たい空気がなくなるまで。


「……ほんとかないませんね、ゼノには」


自分を隠すことができないだろうゼノに、イズは苦笑しながらもその優しさが嬉しかった。


「具合悪いならお医者さん呼んであげるよ」

「大丈夫ですよ。ちょっと疲れただけですから」

「ほんと?」

「ええ」


さっき考えていたことを口に出だして、ゼノに余計な心配をかけるつもりはないと、イズは相変わらずの優しい笑顔を返事とともにゼノに向けた。

いつもと変わらないその表情を。


「じゃぁ早く帰ろう。イズたんゆっくり休まないとね」

「ありがとうございます。……ところでゼノは大丈夫なんですか?」


レストランで大量のお酒を飲んでいたゼノ。とくに顔が赤いわけでも足取りがおかしいわけではないが、さすがにあれだけ飲めば気分くらい悪くなるはず。さすがに酔っていない訳がないだろうと。

そう思ったイズは水でも用意しようかと、心配してそう尋ねる。

けれどその心配は無駄だったようで、


「全然平気だよ。おいしいお酒ならもっともっと飲めるよ」


もっと飲みたいとまで言い返されてしまった。

で、気になるゼノのお酒事情。


「ゼノ、つかぬことをお聞きしますが、お酒に酔ったことってあります?」

「ん~ん~、酔うってどうなるの?」

「そうですね、眠くなるとか、気分が悪くなるとか、真っ直ぐ歩けなくなるとかですかね」


指を折りながら、ゼノにわかるように例題をあげたイズ。

その例に当てはまるようなことがあったか、ゼノはしばし記憶を探る。

結果は、


「ないかな?」


と、あっさりとしたものであった。

見栄を張ったり、こんなところで強がるゼノではないとわかっているので、おそらく本当に酔ったことはないのだろう。

そうなると、あれだけの量を飲んでも平然としていられるゼノが、なんだか別の意味で怖い。

ちなみにイズは一滴もお酒が飲めない。


「お酒も飲みすぎはよくありませんから、やっぱり少し減らしましょうねゼノ」


いくら酔わないとはいえ、やはり飲みすぎは身体に良くない。イズはゼノの身体を心配して注意しておく。


「はぅ……、そうなの」

「そうです」

「美味しいのにぃ」

「飲み過ぎは身体に毒ですから、ね」


言葉は優しいが、その瞳は氷のように冷ややかで、ゼノは仕方なく頷いて見せた。

イズを怒らせるのは得策じゃないと判断した結果だ。


「冷えてきましたね。早く宿に戻りましょうか」


風が冷たくなってきたので二人は宿へと急いだ。


(レック……ボクの思い過ごしならいいんですが)


夜の街を急いで歩きながら、イズは夕食のときに見たような気がしたレックの耳を思い出していた。

長めの髪で隠れていた耳が、一瞬見えてしまったときに見えた模様のようなもの。

前にライラが、刻印は耳に現れると言っていたことを思い出したのだ。


(まさかね。刻印を刻まれたものは、二度と他の世界に行くことは叶わないんだから、そんなことあるわけない……か)


天界人ということで深く疑いすぎているのだと、イズは自分を言い聞かせて勘繰るのをやめた。

嫌な胸騒ぎだけを残したまま。






店を変えたライラとレックは、レトロな感じの店の奥のテーブル席に座っていた。


「飲みすぎだっての。大丈夫かレック」


ゼノと一緒に大量のお酒を飲んでいたレックは水をもらい、ゆっくりと酔いを醒ましていた。


「あんなに飲んだのは久しぶりだ」

「ったく、加減しろよお前」


レックには水、自分は軽めのお酒を注文したライラはため息をついた。

懐かしい友と久しぶりに飲んだお酒。飲み過ぎだとしても、それはとても美味しく、楽しかった。


「やっぱりお前変わったよ」

「だからオレは変わってねぇって」

「初めてみたかも俺。お前が怒鳴って怒るとこ」


どこか寂しげで嬉しそうにレックはそう口にした。

過去のライラを知るレックだからこそ、それはまるで別人を見るようだった。



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