ステージ3『霧』(12話)
「詳しくは知りませんが、天界には異形のモノが姿を見せているという話のことですか」
「ああ、それだ」
イズから視線を外し、ライラは霧の空を見上げて天界に現れた化け物を思い浮かべた。
それらは人の形をしておらず、どこから現れたのかもわからない。人々を襲い、破壊行動をし、その目的は不明だった。
「化け物ですか……」
異形な者と称されるそれをイズは化け物であると想像した。
「ようするに、天界はそれらの元凶がゼノだと決めつけた」
どこか納得できない話だと、ライラは苦虫を噛み締めたような顔をしてみせたが、疑心は拭いきれない。
異形なモノの存在が確認され、天界にその姿を現し始めた頃にゼノが生まれた。それが意味するものはどういうことなのか、ライラは口を紡ぐ。
「つまり、ゼノを消せば化け物も消えると……」
「そういうことだ。……けどな、オレはどうしてもあいつが元凶だとは思えねぇ」
「同感です。あの平和主義者が化け物を生み出すなんて、考えられませんから」
出会う前までは、元凶がゼノで間違いないと確信していたが、一緒に旅を続けるうちに、そんな考えも捨てた。どう考えてもゼノはお子様であり、世界に異変をもたらすような力も感じない。
もし仮に、ゼノが本当に世界に異変を引き起こしているとすれば、それこそ説明ができないと、ライラは顔を顰める。
化け物を生み出すような奴が平和主義者なんて、聞いたことがないと。
「世界に起こっている異変が、ゼノと無関係かと言われれば、言い切れないかもしれないが、少なくともあいつが故意にしているとは思えねえんだよ」
例え、ゼノが生まれてから世界に異変が現れたとしても、それをゼノがしているという証拠も根拠もない。
それでも、天界には化け物が現れ始めた。
ゼノが生まれて、世界に異変がもたらされた。これが無関係だとどう説明する……。
ライラの思考はそこで止まる。
本当に関係がないと、違うと言えるのか? 浮かび上がった疑心はライラを侵食していく。
一点を見つめて動かくなったライラに、イズがふと声を漏らした。
「正義の味方」
思いもよらない言葉にライラは目を見張り、イズを見る。
その視線に気づきながらも、イズはライラの方を見ることなく上を向いて、
「化け物を退治しにきた救世主ってことで、いいんじゃないですか」
優しい声でライラの視線に答えた。
「フッ……」
少しマジになっていた自分が本当にばかばかしくて、ライラは思わず鼻で笑う。
別に化け物が現れた時期とゼノが生まれた時期が同じだったとしても、それが悪とは限らない。
イズが言ったように、退治しにきた勇者なのかもしれない。そう思えた。
「ククク……アハハハ……」
「ど、どうしましたライラ?」
突然笑い出したライラにイズが不安に声をかける。
「わりぃ、自分がばかばかしくてな」
「……?」
「救世主か……そりゃいい。あの平和主義者にぴったりだ」
今にもお腹を抱えて笑い転げそうなライラだったが、その表情に曇りはなくなっていた。
始めから考えるまでもなかったと。
平和主義者で逃げ足の速いお子様は、世界の危機を救う救世主様。
それでいい。
何かをするのに理由がいるとするなら、自分の都合のいい理由でいいじゃねぇか。
それで迷うことなく先へ進めるのなら、くだらない御託なんかいらねぇ。
「それじゃぁ、その救世主様を探しにいくとすっか」
霧がはれてきたことに気づいたライラが勢いよく立ち上がる。
「そうですね。近くにいるといいんですけど……」
ライラに続き、服についた土を払いながら立ち上がるイズ。
二人はとりあえず
「お子様ぁぁぁ~~」
「ゼノ~~、どこにいるんですか~~~」
と、呼んでみた。
すると森の奥から妙なざわめきが近づいてきて、
ガサガサ…… ガサ
「ライたん! イズたん! 助けてぇぇ~~!!」
叫び声とともに頭上の木からゼノが降ってきた。
どうやら何かから逃げているようだ。
「ゼノっ!」
「ゼノ!」
ライラとイズはいきなり目の前に現れたゼノに驚きの声を同時にあげた。
そしてゼノの後ろを見れば団体客の姿。
「てめぇは余計なものを連れてくんな!」
「助けてって言ったのに……」
「またしたんですかゼノ」
お約束の命乞いをしたであろうゼノに、イズが深い、ふかぁ~いため息を吐く。
もしかしたら怒られる……そう思ったゼノは、小さく肩を丸めてウルウルと瞳を潤ませる。
この小さな子どもを思わせる仕草はどうも苦手で、イズはいつものごとく怒る気が失せる。
「で、どうすんだあれ」
「それじゃぁ、あとお願いね二人とも」
大きく手を上げて、バイバイと手を振りながらゼノが走り去る。
いつもの展開といえばいつもの展開ではあるが、今日はここからが少し違っていた。
「……ったく、しょうがねぇな。とっとと片付けるぞイズ」
・・・・・・・・・・
大剣を構えて団体客を迎えようとしたライラの意気込みに、返ってくるはずの返答がない。
普段なら、『はい』とか『そうですね』なんて言葉が返ってくるはずなのだが、返事どころか気配までなくなっていた。
ライラはまさかとは思いつつ後ろを振り返る。
そこには、
「ライラ頑張ってくださいね」
ゼノの後ろを追いかけて走り去る笑顔の金髪が、にっこりと手を振る姿が遠くにあった。
「逃げんなイズ!」
一人面倒を押し付けられ、取り残されたライラが、巨大な怒りマークをつけてゼノとイズの後姿を睨む。
――完全に逃げられた。
でもって、そこへ追い討ちをかけるように、団体客がライラの怒りの油に火を。
「そこの茶髪のオヤジ、邪魔だ、そこをどけ」
「茶髪のオ・ヤ・ジだ……」
額から目の下まで黒い影ができ、眉間には1本、2本、3本……とシワが増える。
火山が噴火するまであと数秒。
「そこをどけと言っている。邪魔立てするとオヤジ、貴様もただではすまさんぞ」
――5・4・3・2・1
「どぉあぁれが、オヤジだぁぁぁ――!! どいつもこいつも、まだ24なんだよっ!」
「うぎゃぁぁ――!」
「ぎゃぁぁぁ――!」
「ぐわぁぁぁ――!」
怒り爆発のライラの大剣が猛威を振い、凄まじい叫びが森に響いた。
その叫びは当然ゼノとイズにも届き、
「やっぱり戻って、ライたんにごめんなさいした方がいいかな? イズたん」
団体客の凄まじい叫び声に、ゼノが恐る恐るイズに聞く。
「はは……たぶん許してくれないとは思いますよ……、そうだ」
「なにかいい方法あるの?」
「このまま逃げましょう」
にっこりと笑ったイズが、ゼノに微笑むと走るスピードを早める。
「逃げるの?」
「このまま戻ったら、きっとただじゃすみませんよボクたち。だからライラの怒りがおさまるまで、逃げるのが得策なんですよ」
もっともなことをイズに言われ、互いは同時に頷くと森の出口目指して走った。
太陽が西に傾き、オレンジ色に染まった森の中を。
『ごめんなさい。卑怯でも、嫌われても、……僕は、世界を崩壊させるまでは僕のままでいたいんだ』
ステージ3 クリア
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【ステージ4『涙雨』】
にぎやかで、華やかな大きな街。
ゼノ、ライラ、イズの3人は夕暮れ間近にこの街に辿り着いた。
もうすぐ夜を迎える。
宿の確保を一番にした3人は、次に食事ができそうな店を探しながら、人ごみのなかを歩いていた。
「よっ!」
不意に3人の目の前に現れた銀の髪の青年。
一番に反応したのはライラだった。
「レック! レックじゃねぇか」
「元気そうだなライ」




